車が好きだった彼は、Hレーシングというレーシングカーやアルミホイールを製販する会社の代表となり、この後2年間仕事を楽しみました。


銀行在職中はお金の流れを見ていれば、世の中がわかると確信していましたが、

若者と一緒に車のスタイルやアクセサリーの流行、エンジンの排気量と音などで、世の中の変化と移り変わりが見えることを知りました。


鈴鹿サーキット西コースを借りきり、車の改造部品やホイールを買ってくれた暴走族に自由には走らせることをしてみたところ、彼らが外見とは反対にスピードに対し、臆病に反応するのには意外でした。


Hレーシングのおとなしい、どちらかというと女性的なエンジニアが西コースを3周するタイムに対して、彼らは最高で2周しか走れませんでした。



男子行員は将来役員、支店長と夢見て勤務していますので、日曜祭日の出勤もいといませんが、女性は損得なしで気分が乗らないと協力してくれません。


そこでよく支店全員で、生駒、六甲、唐崎の寮に1泊どまりで社員旅行に行きました。


男子社員には日ごろの感謝の気持ちをこめて女子行員サービスすることを説得し、知人の韓国人から女性用のチマチョゴリを借り、女装してサービスに努めました。


彼はチャンゴをたたき、踊りました。最初ニヤニヤして女装を嫌がっていた男子行員もお酒が入るにつけ、サービスの輪に入りました。


その変化と意外性が女子行員に受け、晩餐の宴は大変盛り上がりました。

後々、男子行員の一人が団地店舗の支店長になった時、お祝いをかねて夕食を共にしたときに、

「日ごろの感謝をこめて、徹底的に女子行員にサービスすることの大切さを教えてもらった。」と言われたときには彼は大変嬉しかったものです。


女性が会社のため、仕事のため、それに家庭のため、子供のため、と思うと男性の迫力などでは到底かなわない力を発揮することを彼は何度も見てきました。


深江支店に赴任してから、約束の1年が経ち、資金量も80億からかつての180億を越え、200億に近づいたとき、業務部副部長の辞令を受け取りました。


彼はそのとき将来が約束されていることを感じました。

そこで当初の計画通り、「好調のときに退職する」ことを実行しました。

こうして彼は22年の銀行勤めに幕を下ろしました。


一寸キザに思われることをすることが好きであった彼は、言うに言われぬ幸福感に包まれました。

深江地区で特に人望の厚いM社長に、1日支店長を依頼しました。

M社長「やってもいいけど、わしは何をするねん。」

彼「昼からで結構ですから支店長の席に座って、回ってきた書類にこの判を押してください。」

M社長「確認せんと押す印でいいんか?」

彼「ハイ!結構です。」


当日の融資関係の稟議書は貸付代理の籍で留め置かれているので、M社長に回ってくるものは、次長も検印した伝票だけですので、問題画発生する恐れはありません。


しかし、人事部や総務部が聞きつけたらまたやってくる恐れがあるので、本部には内緒で実行に移しました。


1日支店長1週間前、

彼「支店長になってもらっても店頭にお客がなかったら寂しいでしょうから、Mさんのお友達に店頭に顔出してもらえるようにしましょう。」

と、M社長からM社長から友人たちの電話番号を聞き出し、

彼「福○銀行のHです。ご友人のMさんに1日支店長になっていただくことになりました。お手数ですが冷やかしにきていただけませんか?」

と10人ほどに電話しました。


当日M社長と交友関係のある日と、また世話になった人達が聞きつけ、ロビーと支店長応対室は大変な賑わいになりました。


手ぶらではいけないとの義理堅い人達が殆どで、福○銀行深江支店は法人口座が増えました。


取引口座が増えると、ロビーにはお客が増え、店頭テラーの女子行員は忙しいので伝票処理に終われ、つい口先だけで、「イラッシャイマセ」と言い、お客の顔を見なくなります。


これでは心のこもった温かいムードがロビーから消失します。

「挨拶は心をこめて。」とお題目を唱えてもできもしないことを要求することになり、しそれこそ人権侵害です。


ではどうすればいいのか・・

彼は女子行員を連れて地元の盆踊りに片っ端から参加しました。

浴衣は近くの生駒、六甲、唐崎の銀行の寮の、のりのきいた寝巻きを活用しました。

模様が福○銀行とデザインされていますので、福○銀行の行員と誰にもわかります。

こうして地元のご婦人方と知り合いになりました。


忙しい窓口係りが来店客を見もしないで「イラッシャイマセ!」と言っても、お客のほうが窓口に近寄り、「こんにちは!昨夕はどうも!」と言ってくれます。


行員も思わず顔を上げ、「アラッ!踊り方教えていただいてありがとうございました!」と反応して地域の方と心が通いました。