その日の天童は、11月に急かされたかのように急に寒くなった。

灰色に染まった空から降り出した雨は、スタジアムを青く染めた12000人を少しずつ濡らしていく。

そして迎えた後半19分。

勝つしかない僕たちの前に立ちはだかったのは、あまりにも重い失点。

これでP Kか、と思った。これがP Kか、と思った。

しかし、その結果は僕たちの目の前に無機質に立ちはだかる。

 

「あと2点が必要」

 

これ以上の失点を避け2点をとること以外、僕たちの前に道が続くことはない。

それが、その時の僕たちが抱えた紛れもない事実だった。

 

 

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思えば、本当に浮き沈みが激しいシーズンだった。

アウェー大宮戦。

8連敗の6回目。あの日も負けた。新指揮官の初陣だった。雨が降っていた。

その日一番覚えていることは、試合終了の笛が鳴った時に、デラトーレが叫びながらグラウンドに叩きつけた拳。

異国の地。東北。雪国。

寒い寒いヤマガタの地を選び、青白のユニフォームを着て必死に戦うブラジル人ストライカーが全身で表現した悔しさを鮮明に覚えている。

 

「また負けたのか。」と思うよりも先に

「そりゃ勝ちたいよね。」と思った。

 

 

今年のモンテディオ山形みたいな女性を彼女にしたら、絶対に面倒臭い。

付き合いたての2週間は優しかったのに、その後はずっと機嫌が悪い。手がつけられなくなる。なのに、機嫌が急に良くなって、優しくなって、このまま上手くやれるのかと思ったら、また機嫌が悪くなる。すぐ怒る。あぁ面倒臭い。

 

なのに、結局今年もモンテディオ山形に尽くしてしまった。

というよりも、デートを重ねるたびに、どれだけ理不尽に怒られようがどんどん好きになっていくから不思議なものだ。

時たま、「山田拓巳のヒーローユニ買って」なんて甘えてくるから、貢いでしまった。

そして、今季最終戦。
僕と同じように、面倒臭いけど最高に可愛いモンテディオ山形を愛している12000人がスタジアムを埋めた。

 

そんな僕たちに突きつけられたのは「残り27分で2点が必要」という現実。

今季は8連敗を経験している。

今季は17回負けた。

ベンチに控えるセンターフォワードは、怪我にも苦しみ今季ここまで3得点。

そんな僕たちに突きつけられたのは「残り27分で2点が必要」という現実。


なのに、なぜだろう。

全然行ける気がした。大丈夫だと思った。

諦め方を学校で習わなかった12000人が集まっているスタジアムには、灰色の空も、1点ビハインドの状況も、引き分けは許されない状況も全部跳ね返すチャントが響いていた。

 

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その日の試合も、前半から徹底的にチアゴアウベスはD Fラインの裏を狙う。

その度に、相手の右SBは対応を求められる。何度も何度も。

どれだけのアスリートでも、あれだけの回数、我が軍が誇る究極の飛び道具とも言えるポルトガル人アタッカーの攻撃に対応していたら体力は削られる。

そこにきて、後半35分に出てくるのが宮城天だ。

僕だったら「誰か守るの手伝ってよ!」と叫びたくなる。

 

きっと、宮城天という1人の天才が歩んだこれまでのプロサッカー選手としての道のりは、順風満帆とは言えなかったのだと思う。

しかし、見方を変えれば、だからこそ山形に来てくれた。

そして、僕たちは宮城天を愛し、宮城天は山形という地で全力で、僕たちと共に上を見つめてくれた。

 

P K を決めた姿を今思い出す。

蹴る前から、ありがとう、と思った。

山形に来てくれて、ありがとう、と思った。
すごいよ。天さんが蹴るんだね。すごいよ。

レンタルがどうとか関係ない。形なんてどうでもいい。

山形に来てくれてありがとう、と思った。


宮城天に蹴られたボールがネットを揺らした瞬間に、天童が、いや、山形が確信した。

 

 

 

「だから言っただろ。プレーオフに行くのは僕たちだ。」

 

 

 

 

引き分けじゃダメなんだ。

そんなこと知っているはずなのに。まだ追い付いただけなのに。

なぜか確信した。

 

 

 

「こうなったら、今年のモンテを誰も止められない。」

 

 

 

最後に待っていたドラマは、なんだか興奮しすぎてよく覚えていない。

しかし覚えていることは、大宮の地でグラウンドに叩きつけられた拳が
歓喜に沸くサポーターの前で高らかに天へと掲げられていたことだ。

知らぬ間に前が見えなくなっていたのは、空から降り注ぐ雨粒が目に入ったからではないことは確かだった。

 

ロスタイムが7分だったことも、建哉さんの背番号が7であることも、7連勝した先に僕たちの観たい景色が待っていることも、きっと偶然ではない。

 

 

明日のI A Iを想う。

間違いなく、そこは一面がオレンジだ。

 

「完全アウェー」

だから、どうした。

それが、なんだ。

 

僕たちは今季の途中、昇格という2文字から完全にそっぽを向かれた。
なのに今、僕たちはここにいる。

今年の僕たちは、完全アウェーなんてどうってことない。

 

「勝つしかない状況。」

だからどうした。

そんなものは、10月1日に徳島に負けてからずっとそうだ。

 

「条件的に不利」

そんなことを聞かされたって「へぇそうなんだ。」くらいにしか思わない。

今年の僕たちは、そんなことが可愛く見えるくらいの逆境を跳ね返してきた。

 

 

普通だったら諦めてしまうようなシーズンだったのに、誰1人諦めなかった。

歯を食いしばった。拳を握りしめた。

声が枯れるまで歌った。

 

 

山形にはモンテがあるんだ。

 

 

明日のI A Iを思う。

間違いなく、そこは一面がオレンジだ。

その中でもかき消されない青き歌声は響く。必ず響く。

どんな時も、青白の侍たちの背中を押し続けた歌声は響き続ける。

 

 

辛かったよね。

流れた涙もあったよね。

なんのためにスタジアムに行っているのか見失いそうになった時もあって、仕事がうまくいかない時に「モンテも負けるし最悪だよ」って感情になった時もあったよね。

 

あの時を思い出しただけで、なんだろ、なぜか、今もまた涙がこぼれそうになる。

 

 

 

 

 

 

だけど、信じてよかったよね。

 

 

 

 

 

 

だって僕たちは明日、静岡の地で夢の続きを歩くチャンスがある。

ならば高らかに歌おうじゃないか。

静岡の地で。

そして山形の地で。

モンテを愛する全員が、それぞれの場所で、それぞれの全力で。
 

今年味わった悔しさを力に変えて。

今年噛み締めた歓喜を力に変えて。

 

枯れるまで歌おう。枯れても歌おう。

 

 

青白の侍たちよ。

こっちの準備は完璧だ。

 

さぁ行こう。

モンテを愛する全員の戦う準備はできたはずだ。

 

僕たちは強い。

僕たちは勝てる。

僕たちは信じている。

僕たちはモンテディオ山形を心の底から愛している。

 

 

 

我らの前に立ちはだかる猛者たちに告ぐ。

J1昇格への道は、青白の侍たちが通る道だ。

道を開ける準備をして、震えながら眠ればいい。

 

 

 

 

 

 

僕たちの昇格プレーオフ第6戦。

清水戦、勝ちに行く。モンテを愛する全員で、さぁ倒すぞオリジナル10。