総合落札方式と負け戦、そしてお願い。 | 若者と社会をつなぐ支援NPO/ 育て上げネット理事長工藤啓のBlog

総合落札方式と負け戦、そしてお願い。

今年も二つの事業を落としました。

 

昨年から立て続けに3つのエリア(埼玉県川口市、神奈川県川崎市、大阪府大阪市)で行政と協働する事業を失いました。もっとも、落としたことは僕の経営者としての判断ミスです。事前に決められたルールのもとで競争するわけですから、勝つか負けるしかないわけで、そのなかでどう戦うのか、勝つのかで負けただけです。

 

落とした事業、落としてない事業を含めて、若者や子どもたちを直接支える育て上げネットの事業は「総合落札方式」とめっぽう相性が悪いです。これは僕の経営判断がどうしてもうまくいかないためです。

 

総合落札方式については、その説明が公共工事のものばかりなので、ちょっとわかりづらいのですがわかりやすそうなものをここから抜粋します。

 

「公共調達において、国民にとって最良の調達を行うためには、工事の内容に応じて、価格に加え品質や安全性、環境への影響等といった点をも総合的に判断することが大切であ り、「価格のみの競争」から「総合的な価値による競争」への転換が求められています。 これまでは、公共工事の調達では、市場にある既製のものを購入するのではなく、発注 者が仕様を示しそれに合わせて工事を実施するという事が基本であり、価格以外の性能に 差異があまり生じることがないため、結果としてこの方式を積極的に検討してきませんで した。 」

 

ざっくりですが、「価格のみの競争」だけだと品質や安全性を犠牲にする可能性があるので「総合的な価値」をしっかり見ようというものです。

 

これに対して、僕が置かれた状況は逆です。どちらかとういと「ちゃんとひとを支える観点」は基本だけど、しっかり「価格の競争」も組み込もうねというルールです。

 

この後者の総合落札方式と、繰り返しですが、勝つときも負けるときもあります、相性が悪いかと言えば、ひとを支える事業の大半というか、ほぼ全部が人件費だからです。ここで競争力を高めようとすれば、ひとりあたりの「給与」または「人数」を抑えるしかありません。ここの経営判断で、どうしてもそこで勝負できないことが、結果として負けにつながります。

 

負けて失うのは売上とひとです。特に今年のインパクトがあまりに大きいのは、昨年の緊急事態宣言です。対人支援は、その理論と実践が対面前提で行われてきました。しかし、職員のテレワーク化と同時に支援もオンライン化に舵を切りました。

 

最初は「対面」の代替手段としての「オンライン」、その間に、デジタル基板上に「対面」も「オンライン」も支援をできるように、そして利用される方の希望や事情によってどちらでも選択していただけるようになってきました。

 

「なってきました」というのは、いま完全にできているとは言えないためですが、それでも職員は既存の理論と経験を糧に、オンラインでも支援ができるように実践してきたからです。どの企業、団体も同じだと思いますが、職員を守りながら、ひとを支えるにあたって、この一年は大きな設備投資、みんなが慣れていき、実践できるための研修やMTGを繰り返しているはずです。

 

実際、2020年4月から12月(データが取れている範囲ですが)で約1,000名の若者が育て上げネットを利用され、4割はオンラインも活用されています。その結果として仕事に就かれた方々は、対面だけの利用と、オンラインだけ/オンラインも利用された方と割合はほとんど変わりません。つまり、成果に関して言えばどちらでもよく、一方、対面がいいひと、オンラインがいいひと、それぞれの希望に合わせて選択していただける環境を作ることこそが重要でした。

 

一年の間、慣れない環境で試行錯誤した職員のみんなのストレスは相当高かったと思います。ICTが得意な職員はほんとうによくそうでない職員を支えてくれました。また、他の企業、団体から「どうしたらいいか」という依頼にも快く協力してくれました。ここらへんは本当によいひとたちに恵まれています。そして、そのような素晴らしい職員を数名失うことになりました。本当に申し訳ない気持ちしかありません。すべて僕の責任です。

 

入札の仕組みが入ることで、判断が非常に難しい局面があります。ひとつは、事業費の上限が見えないことで、それを1円でも上回るとそもそもアウトです。事業全体の事業費が前年より大きくなっても、個別の案件では事業費の上限が下がったり、上がったりします。全体の事業費があがっている以上、昨年よりも上限価格が下がることはないのではないか。そう考えたくなります。でも、実際その予算配分は見えないため、どうしても「下げる」しか選択肢がなくなります。

 

もうひとつが、価格設定です。上限を越えてなくても、その価格に配点が付きますので、やはり「同じ」か「下げる」しかありません。そしてどこまで下げるのかを判断しないと競争に勝てません。でも、下げられるのは基本人件費です。これらの価格下方圧力に負けないのは簡単です。ただ、総合落札方式による競争に勝てるかどうかは別問題です。ここが大きな判断になり、たくさんのミスをしました。事業継続のために給与下げるしかなくてごめんね、と言えるかどうかが鍵です。そしてできませんでした。

 

こうなると「価格の競争」が導入される事業案件は、仮に今年取れても、来年も同じ判断、それも原則として勝つためには下げるしか手が思いつきません。小さな工夫はできますが、微々たるものです。これら応札価格はネットでも公開されていきますので、4月にはいつもさまざまな事業案件、特に対人支援関係の情報を眺めては、どこが勝ったかどうかよりも、いくらまで下がったのかを見ています。やはり数年のトレンドで、どんどん下がっている印象です(事業によります)。

 

来年度二つ落としまして、すみません。3月31日と4月1日で事業者が変わることは利用されている若者にとっては無関係で、僕らができることはしっかり引き継ぎをするしかありません。ちゃんとやります。

 

このようなトレンドがある以上、ここにしがみついてはいられない。それはひとを支える事業を長くしていたら誰もが考えることです。新規参入された方々も、そこで働く支援者も、やはり同様に毎年迷うしかありません。ルールによって勝ち負けが付くのは、そのルールで競った結果なので仕方がありません。

 

でも、この「ルール」そのものが、ひとを支える公共事業において、先の未来をよいものにしていないとしたら、ルールの見直しは考え、行動していかなければなりません。昔からの友人、知人は落札したことを一緒に悲しんでくれますが、敗者である僕らに寄り添ってくださることのありがたさの一方、同じルールで戦った勝者に対するネガティブなコメントは違うと思ってます。やはり、戦う相手はルールそのものだと思うからです。

 

国や自治体の方々、メディアの方々、いつも育て上げネットを支えてくださる方々から、この「ルール」について何ができるか、どうしていくか話そうという声をたくさんいただいています。本当にありがたいことです。いま、僕が考えないといけないのは、もちろん、このルールをどうしていくかがあります。

 

しかし、それだけでは法人経営が成り立たないので、総合落札方式との向き合い方。そして、事業の継続発展のための新たな打ち手を見つけることです。もちろん、他の企業、団体の方々も、次の打ち手の種をまき続けているはずで、育て上げネットとしても少しずつ種をまいてきました。ただ、インパクトの大きさと、巻いた種の成長具合がすぐにバランスするわけではないため、小さなことでもやれることをやっていかなければなりません。

 

それは寄付を集めたり、他の事業にリソースを傾斜させたり、することです。そんななかで重要視していることがあります。やはり、ひとでひとを支える以上、ひとを支えることそのものだけが売り上げの大半にならないよう、少しでもひとを支えている活動とは別のところで資金を得ていくことです。

 

そこでお願いです。育て上げネットでは昨年春から、種まきのひとつとして「YouTubeチャンネル」を立ち上げました。これは4000時間の視聴と、1,000人のチャンネルの登録があると、そこから収入が発生する審査申請ができるためです。すでに視聴時間は4,000時間を少し超え、あとはチャンネル登録が200余名必要です。

 

アップデートする動画の質量が大切なのは言うまでもなく、今後も引き続きよいものを出していく努力をします。そこに期待していただきつつ、もしよければ、みなさんのアカウントから、育て上げネットのYouTubeチャンネルに登録をお願いできないでしょうか。ひとを支える仕事が、その仕事だけではなく、さまざまなひとたちや収入に支えられることで、時間や伴走が長期で必要な若者や子どもたちと安心してつながりつづけることができます。

 

また、YouTube配信をされている方で、ご一緒にイベント企画をさせていただける方も広く募らせてください。ご連絡お待ちしております(こちらから

 

よろしくお願いいたします。

 

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