刑務所にいる受刑者の可塑性を信じられるか 『プリズン・サークル』を鑑賞して | 若者と社会をつなぐ支援NPO/ 育て上げネット理事長工藤啓のBlog

刑務所にいる受刑者の可塑性を信じられるか 『プリズン・サークル』を鑑賞して

プリズン・サークル」観てどう感じた? 

 

 

少なくないひとからこんな質問をいただきました。ただ、僕自身は「観たい」と思っていても、なかなか映画館に行くタイミングが取れず、本日、観てきました。 

 

 

 

 

映画の概況はこちら朝日ファミリーの記事がわかりやすいです。 

 

日本の刑務所を初めて撮影したドキュメンタリー映画「プリズン・サークル」が注目される理由とは? 

 

これまで全国14カ所の少年院を訪問しました。少年刑務所は一か所行きました。しかし、刑務所の中に入ったことはありません。 

 

その意味で、「刑務所ってどんなところなんだろう」という興味と、本映画を鑑賞されたひとたちによる「TC(セラピューティック・コミュニティ)」の在り方を知りたい気持ちで席に着きました。 

 

内容に触れるといけなので、詳細は省きます。 

 

僕自身が映画を観終えたときに感じたものは、刑務所内で行われる「TC」と出所後のフォローとして行われるセッション、どちらも非常に興味深いものであると同時に、これは出所された方々とどこかでお会いする可能性のあるすべてのひとたちに、「何ができるのか」を示唆するものだと感じました。 

 

「TC」は専門家によるセッションですが、僕がお会いする少年院等を出院した方々、長く自宅から出ることができなかった方々に共通するのは、「誰かに自己体験を話す経験」の大切さです。 

 

もちろん、こちらから聞き出すというよりも、しばらく付き合い、ときに寝食を共にするなかで、ふと出てくる自己体験、苦しかったり、つらかったりする気持ちの吐露。それは信頼関係や長い関係性を有した時間も必要です。一回の面談や相談で出てくることは稀だと思います。 

 

誰かに話をすることで物事が整理されたり、素朴な質問の投げかけに回答するなかでご本人が新たな自己発見をするプロセス。それを通じて、ときに大きな喜怒哀楽につながることもありますが、沈黙のなかで傍からは気が付かない波紋が広がることもあるのだと感じます。 

 

この「TC」が刑務所で行われるとき、それは衣食住など日常生活が隔絶された社会空間であっても脅かされづらい環境の上に乗っているからこそ、長い時間を積み上げられるのでしょう。忙しい毎日の中で何とか作った時間で行うとなると、映画の中にあるような変化にたどり着くのは容易ではないのではないでしょうか。 

 

理論と実践を併せ持った専門家のファシリテーション、隔絶された社会空間における安全と安心の場、そして同じ境遇にあるひとたちしかいないサークルにおいてゆっくりと進んでいく「TC」風景は、観るものに刑務所の中の話であるとともに、自分たちの日常で大切にし切れない何かを感じさせます。 

 

別の観点で興味深いのは、偶然かもしれませんが、幼少期から虐待などを心身に明らかな被害を受けた受刑者とネグレクトのような環境の受刑者がおり、傷害致死や強盗、特殊詐欺など犯した罪が異なるひとたちを中心に、年齢も違う受刑者がさまざまな角度から対話を行い、ときに助言役となり、ときに発した言葉が自分に返ってくるようなシーンが多々あったことです。 

 

他者との対話を通じて自己を知り、それが治療や回復、被害者の気持ちに想いを馳せることにつながるシーンは、社会的孤立が行きつく先の社会にとって何が必要かを暗に示唆するようにも映ります。 

 

僕はひとりで観賞し、そのまま仕事に戻りました。しかし、鑑賞後に誰かと映画について語り合い、意見を交換することをしたかったです。それはきっと、無意識であっても普段は出さないようにしている感情を発露する機会になったり、相手の話にゆっくり耳を傾けることの大切さを再認識できそうだからです。 

 

なかなか言葉にすることが難しいものですが、少なくとも本映画を観ることに時間を使うことができて心からよかった、そう思います。