就職支援でも、就労支援でも、居場所でもないプログラムに若者が殺到している理由を探す | 若者と社会をつなぐ支援NPO/ 育て上げネット理事長工藤啓のBlog

就職支援でも、就労支援でも、居場所でもないプログラムに若者が殺到している理由を探す

 

 

就職先を探す若者にはハローワークなど就職支援機関があります。働くことがゴールではなく、少し先の目標としている若者は就労支援を活用します。いまは安心できる場で「コレ」というものを考えずに集える場所がほしい若者は「居場所」を求めます。もちろん、そんな誰かが作った「場」を使わない若者もいます。むしろ、そちらの方が圧倒的に多いのではないかと思います。 

 

誰が作るにせよ、それらを必要とするひとがいるから「場」が作られていきます。場の利活用は個人の選択であり、選択肢そのものがたくさんあるということが重要だと考えています。そして、そこにひとが集まらないのは、場の存在を認知してもらう努力が不足していることもありますし、既に必要性が乏しいという判断の結果とも言えます。 

 

育て上げネットが若年者就労基礎訓練プログラム「ジョブトレ」からスタートして、いまも若者に活用してもらっています。しかし、プログラム当時の立ち上げのままであれば不要となっていたかもしれません。その時代によって少しずつプログラムも変化してきました。 

 

一番大きな変化は「受益者負担型」から「応能負担型」です。すべてボランティアの手弁当であれば別かもしれませんが、支援事業で売上を立てるためには事業にする必要があります。基本的に、無業の若者は資金力に乏しいため、ご家族による費用負担による事業設計をしてきました。 

 

しかし、さまざまな若者と接点を持つなかで、ご家族も経済的に厳しい状況にあったり、ご家族に経済力があっても、子どもには一切関与しないネグレクトや放置するような家族関係も少なからず存在します。そうなると「受益者負担型」の事業は費用支払いが可能な若者しか使えません。 

 

そこで行政とパートナーシップを結び、公費で支援プログラムの運用を始めました。しかし、これにはかなり大きな制約が伴います。利用者に費用発生はありませんが、「仕様書」によって規定されたプログラム以外のものが原則できない、非常に自由度の低いなかでの創意工夫が求められます。 

 

現在、若者支援分野を見渡すと、支援事業の大半または全部が公費によって賄われており、単年度契約と仕様書によって経営運営が難しくなっているように見えます。もちろん、それはひとつの経営判断のため、僕が良し悪しを決定するものではありませんが、いろいろご相談をいただくなかで、かじ取りがかなり高度で複雑になっているようです。何より、お金の面以上に、支援プログラムの不自由さが機会提供を決定付けてしまうことに不完全燃焼感があるようです。 

 

僕らも(いまもそうですが)似たような構造で悩むことがあります。これは経営者の課題なので重く受け止めていますが、少なくとも提供機械の自由度だけは確保しなければなりません。特に「伴走型」や「寄り添い」「一人ひとりに合わせた」という理想なり、理念があれば、誰かに決められた制約条件があることは、アクセルとブレーキをともに踏んでいるようなものだからです。 

 

そこから少しでも抜け出そうとさまざまな手を打ち、うまくいかないことも多くありますが、手ごたえをつかむことのできたものもあります。それが「応能負担型」への移行です。受益者負担が可能な個人またはご家庭には負担していただきますが、それが難しい場合は負担なくプログラムを活用してもらえる形を作りました。そして交通費など実費負担も厳しいという若者にはその諸費用も出せるようにしています。 

 

原資は企業や個人からのご寄付を活用します。ご寄付も少しずつチャンネルを増やしています。そのなかには寄付型のマラソン大会において「チャリティランナー」として東京大阪で応援していただくものなどもあります。ここら辺は大学などが独自に設置する奨学金などに近いのかもしれません。大学の内部奨学金の原資がすべて寄付なのかはわかりませんが、少なくとも「応能負担型」として誰かが学びの機会を資金的に支えているはずです。 

 

受益者負担型から応能負担型になれば、プログラムを利用したいと考える若者にとっての大きなハードルのひとつである経済面はクリアできます。あくまでも頂戴しているご寄付の範囲ではありますが、提供機械の自由度および柔軟性は公費に比べれば格段と高まります。また、もともとプログラムに価格がついていますので、いくら必要なのかも明確になります。ひとでひとを支えるのに、100円でできることが必ずしも多くありませんが、それでも細かい算出も可能です。 

 

しかしながら、これは経済面のハードルをクリアしただけです。巷には無料のサービスがあふれていますし、無料だからプログラムを使ってみようとすぐに心身に動きを伴うとは限りません。単純に「働きたいけど働けない」だけではなく、そこに至る過程のなかでさまざまなつらい経験をしてきたり、私たちのような支援団体でうまくいかなかったこともあります。何より自分自身の想いと力で現状から次への一歩を踏み出したい若者の方が多いと思います。 

 

話は戻ると、新しい「場」が生まれるのは自然発生でない限り、誰かにとって役に立つとか、必要とするひとがいるから作られます。それを必要とするのが自分自身ということもあるかもしれません。 

 

そんななかで、プログラム構築から2年間で予約待ちとなっているプログラムがあります。それが若年者社会参加準備支援プログラム「プレップ」です。仰々しい言葉が付いていますが、もともとは東京都が行った「ひきこもり支援」立ち上げ支援事業を活用したときの名残です。3年程度のサポートから自主事業化が求められるなか、そこで「居場所」に近い事業を選択し、小さな事業として継続してきました。 

 

 

 

 

しかし、事業型の居場所事業としてうまく育てることができないままとなっていたのですが、前出の「ジョブトレ」を担当する臨床心理士チームがプログラムを大幅に見直し、いまの形となりました。正直、最初はうまくいくのだろうか。どれほどニーズがあるのだろうかと思っていましたが、そこは若者と日々、真正面からかかわっている職員だからこそ、多くの若者が活用するものとなったのだと思います。 

 

「働きたいけれど、まずは今後の方針について考えたい」 

 

これがニーズです。今後の方向性を考えるため、いま自分にとって必要なことをオーダーメイドで組み立てる。それを求めている若者がたくさんおり、既存のさまざまな「場」で提供されているものでは充足できなかった部分がここにはあるのでしょう。 

 

プレップは、臨床心理士という専門性を推していません。もともとの設計は臨床心理士チームでしたが、特にそれを価値として提供していません。 

 

担当職員に、なぜこれほどまで若者が活用を希望するのかをヒアリングしました。彼らにもわかっていないことは多々あるようですが、具体的なケースから推測してもらいました。 

 

プレップには、「決まっているプログラムに参加する」というものがありません。オーダーメイドなので当然ですが、すべて本人との間で何をするのか決まっていきます。ただし、提供できるものは限られており「自己発見」「セルフケア」「仕事レッスン」「仕事体験」という項目にそれぞれ細かいプログラムがあり、いまは30ほどのなかから組み合わせていきます。 

 

決まったものだと、それが苦手なこともあります。朝から来ることが難しいひともいます。二人以上の集団の中だと過緊張してしまったり、他者の目がストレスになってしまうこともあります。特に、すでに動いているプログラムだと「できているひと」の中にはいっていくのが怖いという若者が少なからずいるため、「自分ひとり」のためが安心につながります。 

 

ただし、必ずしも「一対一」がニーズでもありません。徐々に集団に入っていきたいひともいれば、突然チームでの活動に参加をしたくなることもあります。こういう部分にも柔軟に対応していくのもまたオーダーメイドの前提となります。 

 

利用者の中には、障がい者手帳を持っている若者もいます。悩みとして、一般就労の可能性と自分の距離感がわからないといういものがあるそうです。いま通っている医療機関となんとなく合わないと感じている場合は、別の医療機関を探し、病院への同行をしたりすることもあります。 

 

個別相談はどこでも行っていると思いますが、「個別相談だけ」では先行きが見えてこないという若者も来ています。ちょっとだけ体験してみたいけど集団が苦手であったり、自分の得手不得手を確認できるような機会を探している若者もいます。漠然とした不安があるけが、それが何かを突き止めたいという相談もあります。仕事ができないのではなく、自己表現が不得手であることがわかり安心につながったり、逆に苦手な作業工程が把握できたので、苦手ではない方向性を考えたりもします。 

 

また、過去の「居場所」で不十分であったものとして、「ただ通うだけ」のことはしたくないので、何かしら今後の目標を見つけたいというニーズもあります。しかし、現状としては居場所的な雰囲気でないと難しい。楽しいことや何をしてもいいということが欲しいのではなく、そのような居場所的な空間のなかで、自己理解のためのプログラムを行い、そこで得られたものを確かめるために体験系のプログラムを組み合わせていく。居場所的でありながら、居場所よりはゆっくりと自分のペースで前に進んでいきたい。そんな若者がプレップを活用しています。 

 

ひとつの傾向として、プログラム利用者の女性割合が他の就労支援プログラムより高くなっています。利用者の3割から4割が女性です。年代は10代から30代までバラバラですが、これだけ女性の割合が高いプログラムは、これまで女性にとって「これではない」というものを作ってきたという反省にもつながっています。 

 

実際にどのような若者が活用しているかというと、本当にバラバラです。一般就労が難しくて就労移行を目指したものの、そこでは断られてしまったひと。これから働いていくにあたってまずは体調を整えることを優先されているひと。高校や大学に在学しながら、まずは卒業することを目標に、その目標達成のためにプレップを活用している学生もいます。 

 

プログラムは8回完結型ですが、予約日時に来ることができない場合は、その分を次回に繰り越すことができるようにしています。それを聞くだけで安心した表情になるそうです。現状では自らの計画通りに心身が動かないことも不安要素として持っている若者がいるだろうというのは想定していましたが、キャンセル料金が発生しないことをしっかり伝えるだけでかなり安堵されるそうです。 

 

これまで集団でうまくやれなかった経験があっても、一対一であれば安心できる。学校でも、習い事でも、他者とペースが合わずにつらい思いをしてきたひとも、自分のペースでやることができ、誰かが決めたプログラムではなく自らが選択したものからやってみれる。言葉にすると非常に曖昧でわかりづらいものですが、一方で、それを聞いて活用してみたいという若者がこれだけ多くいることに、「わかりやすさ」や「明確さ」では関心を持ってもらえなかったのだなと思わざるを得ません。 

 

ご覧の通り、まだプレップはウェブサイトもしっかりとしたページが間に合っていません。それでもオンラインからの申し込みが多く、またご家族からの情報提供で足を運んでくれることも多いプログラムです。 

 

いま、大学や専門学校でも、卒業後の進路の相談などがうまくできずにいたり、中退を選択する学生のために何ができるかを考えている、というご相談も増えています。なんとなくプレップというわかりづらいプログラムに若い世代が予約待ちをしている現状が、何か参考になればと思います。