後輩が担当している案件の進行があまりにも遅く、初めてちゃんとその子を叱った。
出来るだけ分かりやすく伝えていたつもりだったが、電話越しにも落ち込んでいるのことが分かった。
やってしまったと思い、時間をおいて「さっき強い言い方になってしまってごめん。電話をした時、僕に余裕がなかった。申し訳ない」と伝えると「Aさんは全く悪くないです。そこまで気を遣わせてしまってすみません」と返答があった。
上手くいかないなぁと思う帰り道。
映画館にて、隣に座っていたカップルがヒソヒソ話をしている。
気にするレベルというのは人それぞれだが、誰から見ても注意するレベルだと思ったので、どうにかして気づいてもらおうと思った。
少しだけ咳払いをしてみたり、ちょっとだけ彼らを見てみたりするも、全然伝わらない。
格闘すること15分。僕は思わず「静かにしてもらってもいいですか?」と口にしてしまった。
そのカップルは呆気に取られたような顔で僕を見つめ、何も言わずに映画を見始めた。そこから彼らはずっと静かにしていたが、その静けさが気になってしまい内容が入ってこない。
折角のデートを邪魔してしまったなぁ。映画を楽しみにしていたのは彼らも一緒だろうし。もっと良い伝え方があったのではないか。
結局、鑑賞後にどう謝ろうかを考えていた。
「注意してしまってすみません」
「言い方が強く感じられたらすみません」
「大事な伏線が張られているタイミングですみません」
そのどれも違うような気がし、もう考える事5分。僕は「ありがとうございます」と伝えようと思った。謝罪することで相手により引け目を感じさせるよりも、対応してもらった事に感謝を述べる事で、後腐れなく終わらせようと思った。その方がきっと良いはず。
そんなことを考えていたら、エンドロールと同時にカップルは席を外してしまった。
「これマヨネーズ抜いてって言ったんですけど」
ぶっきらぼうに伝える女性2人組。朝のファミレスで、然程混んでもいないせいか、遠くの会話も聞こえてしまう。
「あとこのハンバーグソースも別皿で添えてほしいです」
少しだけ目をやると、おそらく朝帰りの2人。アルコールも入っているせいか、声と態度が大きくなっている。店員さんは大変申し訳ございませんと頭を下げ、まだ手をつけられていないハンバーグ定食を厨房に戻す。
その背中に、あの時のカップルの横顔を重ねた。
後輩と現場で一緒になった。
この間叱ってしまった手前、少しの気まずさが残っていた。後輩も心なしかいつもより距離を取っているようにも感じた。現場の慌ただしさに紛れながら、僕はずっと考えていた。
「謝った方がいいのだろうか」
「でも蒸し返す事で、また気にしてしまうかもしれない」
「伝えるとしても2人のタイミングとか、場所も選んだ方がいいか」
結局、切り出すタイミングを掴めないまま、時間だけが流れていく。
そんな時、後輩の方から歩み寄ってきた。
「あの案件、無事着地しました」
思っていたよりも、晴れやかな声だった。
「よくやったね。凄いじゃん」と返すと
「今日、Aさんにそれを言われたくて現場に来ました」と後輩は笑顔になった。
僕は一呼吸を置き、ちゃんと気持ちを伝える。
「ありがとう」