机、ベッド、それに書架が1つ
寂しそうに、じぃっと
長女の部屋に残されている。
「引っ越し荷物、ダンボール3個位」
「宅急便で送るから」
「後は置いていくから」
そう話していたのに、
5個になり、8個になり、
結局10個になった。
部屋にあったもの全て
持っていったようだ。
机の上には、何も置かれてない、
クローゼットにも何も掛かっていない、
ただ、
書架には、
本が少しだけ、ぽつんと残してある。
「勉強になるよ」と貸した
僕の愛読書、
陳舜臣著「中国の歴史」6巻、
それと、
「14歳の君へ」、「死と生きる」、
池田晶子著の2冊が残されている。
誰かから、もらったのだろうか、
それとも、自分で買ったのだろうか?
中学に入ってから、
直面した祖母の闘病と死、
その直後に襲った母の急死、
悲しみが繰り返されるなかで、
生きるということの意義・・
自分達を残して、
死ぬということの意味とは・・
魂は不滅なのだろうか・・
存在とは?自己とは?
無とは?
この不条理な世界を支配するものは・・
そんな疑問が次から次へ湧いてきて
きっと、
暗闇に迷い込んでしまって、
考えれば考えるほど沈んでいって、
それでも、、
出口を見つけようと、
光明を見つけ出そうと、
藁をもつかむように、
難解な哲学書を解いたり、
西洋や東洋の宗教の教えを求めたり、
そうやって、
この2冊の本も手にとったのだろう。
でも、
どうして置いていったのだろう?
答えは見つかったのだろうか?
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娘のベッドに仰向けになって、
天井をぼーと見つめる、
この家に引っ越してから、
ずっと使っていたベッドだ、
ぬくもりがまだ残っている
あの日の夜も、また、あの日も
ここで横になり、この天井を
見上げていたのだろう・・
欠席がちになって
昼過ぎまでふとんをかぶって,
苦悩していた日々・・
学校に無断でバイトを始め、
クタクタになるまで働き、
それでも、
働くことの喜びや尊さを知り、
明日も前向きに生きていこうと、
努力を重ねてた日々・・
受験勉強に集中するといって、
バイトを辞め、夜遅くまで机に
向かっていた日々・・・
このベッドで、
ある夜は、愛犬を抱いたまま
ある夜は、音楽聞きながら、
眠りにつき、
時には、眠れない夜を過ごし
日々、立ち直り、成長していった。
・・・・・・・
静かだ、
時が止まっているようだ、
ただ、
壁にかけられた時計の針だけが、
静かに動いている。
今日の午後、
長女は僕の手元から巣立っていった。
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いつも通りに、
普段通りに淡々と過ごし、
そして、
「行ってらっしゃい、頑張れよ!」
そう、送り出すことにしていた。
午後の新幹線で西に旅立つ。
だから、
いつもの休日のように
朝食を作り、
掃除、洗濯、片づけ・・
ギターを弾いたり、
寂しいのは嫌だから、
カントリーミュージックをかけたり、
ちょっとぎこちないけれど、
陽気な雰囲気を演出していた
荷物は昨日、宅急便で送ったから
スーツケース1つだけだ、
玄関前に置いてある、
出発の準備はもう整っている、
「まだ、いいのか?」
「もう少し、いる」
長女、次女、父の3人
言葉もなく、ただテレビを眺めている。
「まだ、いいのか?」
「まだ、いい」
「じゃあ、お昼でも作ろう」
昼だから、と、
ニンニク控え目の野菜炒めを作る。
僕の得意料理だ、
味ムラだが大きくは外さない、
それに短時間でできる。
野菜炒め定食で食卓を囲み
黙々と、ご飯を口に運ぶ。
これから運転だからビールなしだ、
・・・・・・・
・・・・・・・
・・・・・・・
「ごちそうさまでした」
・・・・・・
「パパ、そろそろ行くよ」
・・・・・・
・・・・・・
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駅前まで、車で5分程度の道程だ。
「入学式行けなくてごめんな」
「GWにはそっち行くからな」
「お金足りないときは連絡しなさい」
「バイトより勉強優先しろよ」
「変な勧誘には注意しろよ」
「夏休みにはこっちで免許とるのか?」
そんな会話をしながら・・
あっという間に
駅前のロータリーに着いてしまう。
(東京駅まではNGと言われている)
「着いたぞ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「パパ・・、パパ・・・、今までありがとう・・」
目を腫らした娘が、
言葉を詰まらせながら・・・
「・・・・・・」
「お嫁に行く訳でもないし・・・」
僕は、溢れる涙を隠し、
ただ、手を振るしかできなかった。
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そんな昼間の光景を
娘の部屋で思い出していた。