ごぶさたしております。
はい、本当にご無沙汰しております。
とうとうHappy endに向けての
ラストスパートです。
いよいよ本番を迎えたTokyoHoney'sCollection。
――通称「ハニコレ」。
それはPuppyROSEでガールズ進出を目論むUndertheROSEにとって、
そして私自信にとって、最大のチャレンジの幕開けであった。
桜庭綾人「………。」
「…桜庭さん?」
桜庭綾人「○○、俺は…。」
桜庭さんが発した声は、楽屋の外から聞こえる大歓声にかき消された。
アゲハ「TokyoHoney'sCollection!いざ、開幕よぉ~!」
色鮮やかなライトがランウェイを照らし出し、
最先端のファッショに身を包んだモデルたちが次々に登場する。
桜庭綾人「………。」
桜庭さんは会場の様子が気になったのか、口をつぐんでいた。
(桜庭さん、何を言おうとしたんだろう…)
桜庭綾人「………。」
桜庭さんは無言のまま首を横に振ると、小さくため息を漏らした。
桜庭綾人「………こんなことしてる場合じゃない。」
桜庭綾人「ショーの衣裳、本番に向けて最終調整しないと。…○○、手伝ってくれる?」
「…はい! もちろんです!」
(桜庭さんが何を言いかけたのか気になるけど…、今はハニコレに集中しないと!)
桜庭綾人「…気になる所があったら、遠慮なく言って。」
桜庭綾人「どんな調整でも、責任もって俺が終わらせるから。」
「はい! お願いします!」
桜庭綾人「…じゃあ、出番順で最初は花柄のワンピースから。」
「ええと、これは…少し裾を短くしてもらっていいですか?」
桜庭綾人「…了解。1cmくらい?」
「はい、それくらいでお願いします!」
私と桜庭さんは、衣裳の最終チェックを始め――、
モデルさんが着た衣裳を、一点一点細かく確認していった。
アゲハ「今回のハニコレも、ランウェイでモデルちゃんが着てる服は――モチロン!Webサイトでリアルタイムに買い物出来ちゃうわよぉ~!」
アゲハ「今回はラストに、その売上トップ10も発表しちゃうわ~!」
アゲハ「どんな結果になるか、アタシも個人的にすっごぉ~く楽しみ!」
アゲハ「ハニコレ、めぇぇぇいっぱい!楽しんでちょうだ~い☆」
アゲハ「以上! みんのアゲハ先生でしたぁ!」
アゲハ「それでハニコレ~、スタートぉ!」
会場「キャ~~~!!」
アゲハ先生がカメラに向かって投げキスをすると、モニター越しに黄色い声が跳ぶ。
桜庭さんと私は衣裳の最終調整を終え――、
自分たちの出番をモニターを見ながら待っていた。
(…緊張するな、あと少ししたらPuppyROSEの出番か)
桜庭綾人「………。」
桜庭さんは目を閉じて、静かに出番を待っているように見える。
(桜庭さんはいつも通りだ)
(私も緊張ばかりしてないで、平常心を持たないと!)
松尾リュウジ「おっ、次はオバサンの出番だな。」
假屋崎蓮「オバサン?」
松尾リュウジ「宿敵Lillylilaに決まってんだろ。」
假屋崎蓮「リュウジ、本人の前では絶対に行っちゃダメだよ。」
松尾リュウジ「は? オバサンはオバサンだろ、何が悪いんだよ?」
假屋崎蓮「はいはい悪態はそこまで。Lillyのショーが始まるよ。」
(Lillyに負けたら…PuppyROSEはその場でブランド終了)
(その上…私はクビ、か)
私は大きく深呼吸をして、覚悟を決めてモニターに目を移した。
アゲハ「さて――お次はコチラ!」
アゲハ「美しく白百合の名をかかげた女王ブランドが――カジュアルラインで華麗に登場!」
アゲハ「十条百合子 presents――“Lillylila”!」
アゲハ先生のコールと同時に、軽快なダンスミュージックが大音量で流れる。
――ファーストモデルとして、ロングランウェイに飛び出した百合子さんを、
爆発するような大歓声が迎える。
歓声と羨望のまなざしを一身に受けながら、見せるのは女王の貫録をたたえた笑顔。
百合子さんが下がった後も、続々とハイクラスのモデルさんが続く。
興奮した歓声は、まるでやまない雨のように降り注ぐ。
(すごい…! さすが百合子さん…!)
(やっぱりLillyは…百合子さんはすごい…!)
ヴィクター「Oh…! SuperKIREI!」
一宮若葉「いや…さすがLillylilaだね~!」
PuppyROSEスタッフ一同、Lillyのショーに釘付けになっていた。
白川梓「…さすが、と言ったところですかね。」
黒木大成「ああ、なかなか…いや、かなりいい女になったなアイツは。」
松尾リュウジ「前言撤回…オバサンなんて呼べないな、アレは。」
假屋崎蓮「…大したものだね、さすがに。他のブランドならいざ知らず、Lillyに勝つのはやっぱり――。」
松尾リュウジ「ガールズ初参戦のROSEには、ちょっと難しいかもな。」
(…たしかにLillyのショーはすごかった)
(でも、そんなLillyに…百合子さんに勝たないと、私は…)
桜庭綾人「………。」
(桜庭さんと一緒に働くことは、もうできなくなるんだ)
(…どうしよう、Lillyに勝てるわけなんてないよ…)
桜庭綾人「………。」
「え?」
気が付くと桜庭さんの手が、そっと私の手に触れていた。
「桜庭さん…。」
私が桜庭さんの手を握ろうとした、その瞬間――。
スタッフ「PuppyROSEさん、あと少ししたら舞台裏までお願いします~!」
「は、はい! お願いします!」
私は慌てて桜庭さんの手を離し、舞台裏へと向かった。
假屋崎蓮「さて、そろそろ俺たちPuppyROSEの出番だね。」
松尾リュウジ「ああ、Lillyをぶっ飛ばしてやろうぜ!」
一宮若葉「Lillyに勝って1位になって、みんな驚かしちゃおうね!」
ヴィクター「Yes! きっとPuppyROSEはみんなをスマイリーに出来るよ!」
――ROSEの仲間たちは明るく振る舞っているけれど、
やはり雰囲気に飲まれているか、表情が全体的に硬かった。
(どうしよう…もうPuppyROSEの出番だ…)
てのひらが冷えて、胸が詰まり息苦しくなってくる。
「はぁ………。」
スタッフ「――PuppyROSEさん、30秒後GOです!」
「は、はい!」
(も、もうダメ! この場にいられない…!)
緊張がピークに達してテンパッた私の視界に、桜庭さんが映った。
桜庭綾人「………。」
「桜庭さん…!」
私は桜庭さんに駆け寄ると――、
桜庭綾人「………?」
緊張のせいか、あろうことか桜庭さんの手を握っていた。