ラストです。


頑張ります。






桜庭綾人「………。」

(桜庭さん、正装して…もしかしてランウェイに出るために…?)

十条百合子「もしかして、ここから主役が入れ替わるのかしら?」

假屋崎蓮「それは――さすがにカッコ悪いから、ちょっと嫌ですね。」

假屋崎蓮「まあ、そんなことも言ってられないか。」

蓮さんが小さく肩をすくめて、一歩下がる――と。

假屋崎蓮「…あれ?」

「え?」

もう一度視線を向けると、そこに桜庭さんの姿はなかった。

(さっきまで桜庭さん、あそこに立っていたよね?)

假屋崎蓮「…綾人、どこか行っちゃったね。」

「は、はい…。」

假屋崎蓮「…まいったな。交代の心構えをしていたのに。」


アゲハ「今日の勝者はどこかしらぁ?Lillylila? それともPuppyROSE?」

アゲハ「みんな! ばしばし投票&ショッピングしてちょうだいっ!」

アゲハ「購入〆切りまで、あと残り2分よぉ!」


十条百合子「彼との絆、まだ少し頼りないものみたいね?」

(う…それは言わないで欲しい)

十条百合子「もし彼がここに駆けこんでくるようなら、負けたと思うわ。」

十条百合子「でも、まだまだこれからみたいね。」

十条百合子「PuppyROSEも、貴女と彼の関係も。」

(私と桜庭さんの関係…か)

(ただ、一方的な私の片思いってことになるのかな…)

私は誰もいない舞台袖を、ため息交じりに見つめるのであった。



アゲハ「――はあぁぁい! 以上でケータイショッピングはおしまいよぉん!」

アゲハ「今から1分後に集計結果が出るから、あと少し待っててねぇ!」

(ついに発表…!)

(百合子さんは負けたと言ってるけど、実際にどうなるか…!)

緊張に耐えるように姿勢を正して、正面を向く――と。

ライトの眩しさに慣れ始めた目に、観客咳の様子が見えてくる。

女の子たちはケータイ片手に、キラキラした瞳でこちらを見つめていた。

ついにモニターのカウントが10秒を切り、会場内でコールが始まる。

アゲハ「みんな、カウント10を一緒にやりましょう~!」

アゲハ「行くわよ! 10!」

会場「9、8、7、6、5――!」

アゲハ「4!」

会場「3、2、1――0!」

アゲハ「――はあぁぁい! 売上ランキングの集計結果が出たわよぉ!」

アゲハ「それじゃ! 売上ランキング、発表いくわよぉ~ん♪」


アゲハ先生が一歩前に出た瞬間、会場のライトが落ちる。

アゲハ「結・果・発・表!」

アゲハ「今日は歴史が変わる日だから――、まずは大事なテーマ服勝負から発表するわよぉ…。」

(歴史が変わる…?)

(もしかして…PuppyROSEがLillyに勝利する――とか?)

(松尾さんやみんなの反応も良かったし…!)

(テーマ服勝負で勝てば、これからも桜庭さんと一緒に…!)

ドラムロールが、緊張と興奮を煽るように鳴り響く。

アゲハ「テーマ勝負の勝者は――――――――――、」

アゲハ「―――――――――――Lillylila――!!」

アゲハ「やっぱり強いっ! 美しい無敵の女王よっ!」

(…やっぱりダメ、だったか…)

(…これで私はクビになって、桜庭さんとは…)

アゲハ「え? どうしてこれで歴史が変わるのかって?」

アゲハ「『今まで通りじゃねえか、このオカマ野郎!』ですってぇ!」

(どうしたんだろう…誰もそんなこと言ってないのに…)

黒木大成「あー、何度でも言ってやるよ!」

黒木大成「今まで通りじゃねぇか、このオカマ野郎!」

(うわ…社長か…そんな関係者咳で叫ばなくても…!)

黒木大成「もったいつけやがって、俺の少年心をもてあそびやがって!」

アゲハ「何を言っているのよ! 今日は確かに歴史が変わる日なの!」

アゲハ「もう! 今すぐ証明してあげるから黙ってなさいな!」

アゲハ「まったく! 大成ちゃんのおかげで台無しよぉ!」

そう叫ぶと、アゲハ先生は大きくいくを吸い込んだ。

アゲハ「売上ランキング第一位は――――――――――、」

アゲハ「――――――――――なんと! PuppyROSEの勝利よ!」

「え!?」

アゲハ「長らく女王の座にいたLillylilaを、売上勝負でついに撃沈よぉ!」

(本当…!? 本当に、私たちがLillyに…!?)



菊地純也「え…?Lillyが…負けた…?」

十条百合子「………。」


アゲハ「みんなぁ! 歴史を塗り替えた、PuppyROSEに盛大な拍手を!」

アゲハ先生が手を掲げると同時に、大きな拍手と歓声が沸き起こった。

(Lillyに勝った…)

一瞬だけ気持ちが高揚したものの、すぐに私は現実にうちのめされる。

(けど、テーマ服勝負で負けたら…やっぱりクビ、だよね)

假屋崎蓮「やった! やったね、○○さん!」

「え…あ、はい…。」

(売上で勝っても…テーマ服勝負で負けたら…)

私は先ほどまで桜庭さんが立っていた場所を見て、深くため息を漏らした。

(…PuppyROSEはブランド存在できなくて…)

(…ROSEではもう働けないんだ…)

(…私は…桜庭さんとは…)


アゲハ「ねえ、○○ちゃ―ん!」

アゲハ「テーマ服勝負は残念だったけど、最後にランウェイに出て挨拶してくれるぅ?」

「え、でも私たちは負けましたから…。」

アゲハ「なーに、謙遜してのよぉ!」

アゲハ「最大の目玉のテーマ服勝負で負けたとはいえ、売上1位ってことは、アナタたちの服かーなり評判良いってことなのよぉ?」

アゲハ「お客さんも喜ぶと思うわ! ねぇ、みんなぁ?」

アゲハ先生の言葉に応じて、会場から揺れるような大歓声が起きる。

(すごい…みんな、PuppyROSEの服を気に入ってくれたんだ)

(素直に、とても嬉しいけれど…)

(これが私の…最後の晴れ舞台、かな)

假屋崎蓮「じゃあ、お色直しに行こうか。」

「…はい。」

私は蓮さんにエスコートされ、いったん舞台から退いた。





ウルトラハッピーエンドにくらべ、




ハッピーエンドの方が




お話が短く感じます。




両方見比べるのも面白いですね。






ステージには、他ブランドのミューズとリーダーが、


緊張した面持ちで、ズラリと並んでいる。


十条百合子「あら、ROSEのお二人さん。お疲れさま。」


十条百合子「よかったわよ?衣裳も、ショーもライバルとして申し分ない出来だったわ。」


「ありがとうございます。」


菊地純也「ROSEのデザイン、とても魅力的で良かったと思います!」


假屋崎蓮「菊地くん、 ちょっと上から目線なんじゃない?」


假屋崎蓮「まさかもう勝った気でいるんじゃないだろうね?」


菊地純也「そ、 そんな! メッメメメメメメ、 滅相もございませんっ!」


十条百合子「ちょっと菊地くん? 敵と仲良くするのは、そこまでよ?」


十条百合子「――それで、魅力的なミューズさん? 今回の勝負、自信のほどは?」


「それは………。」


即答し損ねた私の横から、蓮さんがひょいと顔を覗かせる。


假屋崎蓮「たぶん勝つと思いますよ、 俺たち――、いえ、 PuppyROSEがぜったいに勝ちます。」


十条百合子「代理で出演してるのに、凄い自信なのね。」


假屋崎蓮「何しろ、 ミューズとトレンドリーダーが頑張りましたからね。」


十条百合子「あら、私たちが頑張ってないみたいに言うじゃない?」


假屋崎蓮「頑張りだけじゃないんです。」


假屋崎蓮「何しろ、 二人は絆で結ばれていますから。」


十条百合子「絆?」


十条百合子「…それはどうかしらね?」


百合子さんは刺すような視線で、私を真っ直ぐに見詰めた。






十条百合子「トレンドリーダーなのに、ランウェイにも姿を見せない男が、ミューズをランウェイに一人にする男が、本当に絆でミューズと結ばれていると言えるのかしら。」


「それは…。」


十条百合子「正直に言って、 PuppyROSEの衣裳は素敵だった。ミューズとトレンドリーダーが一つにならなければ、あんな素敵な衣裳は生まれないと思う。」


「あ、ありがとうございます!」


十条百合子「でも、 貴女とあの彼が絆で結ばれているかどうかは――、貴女が一番、分かってるんじゃないかしら?」


「………。」


假屋崎蓮「…手厳しいご意見ですね、さすがに。」


百合子さんの言葉に、私は何も言い返すことができなかった。




アゲハ「――購入〆切りまで、あと残3分よぉ!」


アゲハ「今回、イチバン売上をあげるブランドはどこかしらぁ!?」


司会のアゲハ先生がマイクで煽ると、モニターに「180S」と残り時間が表示され――


その数字が、 1秒ごとに減り始めた。


十条百合子「…なんて、ね。」


十条百合子「PuppyROSEの衣裳がステキ過ぎて、つい意地悪してしまったわ。」


「え?」


十条百合子「私は、貴女と彼は絆で結ばれていると思うわよ。」


十条百合子「あそこ、見てごらんなさいよ。」


百合子さんが後指で指した、その先には――。


(さ、桜庭さん!?)


桜庭綾人「………。」


正装した桜庭さんが舞台袖、会場からは見えない位置に立っていた。





さてさて、ネタばれあり、




続きいってみよ~!






桜庭綾人「………?」


桜庭さんが驚いて、一瞬表情を強張らせる。


(あっ、いけない! つい……!)


「す、すみません!」


慌てて引っ込めようとする私の手を――、


桜庭綾人「………。」(照)


桜庭さんは何も言わず、私の手を力強く握り返した。


(えっ……?)


桜庭綾人「………。」


桜庭さんと手をつないで見つめ合っていると、緊張がほぐれてくる。


(言葉なんていらない…こうしているだけで…)




アゲハ「さて――最後はコチラ!薔薇の名をかかげたメンズの王者が――ガールズワールドに参戦!」


アゲハ「新星クリエイターたちが魅せる、ひとときの夢をご堪能あれ!」


アゲハ「ブランドコンセプトは『彼氏が彼女に着せたい服』!」


アゲハ「さぁ! とびっきりのカワイさでアタシをメルティさせてちょうだぁ~~~ぃっ!」


アゲハ「Newbrand――“PuppyROSE”!」


桜庭綾人「…ついに、出番だね。」


「…はい!」


私と桜庭さんは同時に手を離して、モデルさんたちの前に立つ。


スタッフ「――PuppyROSEさん、出番です!」


スタッフ「カウントに合わせて出てください!」


「…みなさん、準備はいいですか?」


順番に並んだモデルさんたちが、自信と気合いに溢れた笑顔でうなずいてくれる。


スタッフ「――3、2、1――スタート!」


「みなさんPuppyROSEをどうかよろしくお願いします!」


私は精一杯の大きな声で、モデルさんたちをランウェイへと見送った。






私は舞台袖から、桜庭さんと並んでランウェイのショーを覗き見ていた。


(どうなんだろう…観客の人たち、悪い反応じゃないと思うんだけど)


アゲハ「以上! “PuppyROSE”でしたぁ―っ!」


アゲハ「会場の子猫ちゃんたち、今一度盛大な拍手を!」


最後のモデルさんがランウェイから姿を消すと、盛大な拍手と歓声が沸き起こった。


「…桜庭さん、この反応、どうなんでしょう?」


桜庭綾人「…悪い反応じゃないと思う。」


一宮若葉「さくらん! 弱音を吐いちゃダメだよ!」


一宮若葉「もっとテンションMAXにしないと勝てるものでも勝てないよ!」


ヴィクター「そうそう!ボクから見たら、Lillyと同じくらいの反応があったと思うよ!」


「本当ですか?」


松尾リュウジ「…それはどうだろうな。」


「松尾さん?」


松尾リュウジ「会場の反応は若干Lillyの方が熱を感じた。」


松尾リュウジ「綾人、 そうだろう?」


桜庭綾人「…同感。」


「そ、そうですか…。」


(そうか…やっぱり、Lillyの方が会場を熱狂させてたもんね…)


桜庭綾人「…諦めないで。」


「え?」


桜庭綾人「勝負はまだ、終わってないから。」


(そうだ…! そうだった!)


(Lillyとの勝負はコレクション服とテーマ服で決めるんだった)


(…Lillyとの勝負が決まるのは――次のテーマ服だ!)


(まだ…挽回するチャンスはあるんだ!)




アゲハ「みんな、新作のショーは楽しんでもらえたよね?」


アゲハさんの声に、歓声が大きな拍手で応える。


アゲハ「さあここからは今年の目玉、スペシャル企画よ!」


アゲハ「雑誌『パピヨン』で、これまで何度も特集を組んできたから知ってるわね?」


アゲハ「2つのブランドが、それぞれの意地とプライドを賭けて激突するわよ!」


アゲハ「対決のテーマは…『初恋』!」






「初恋」をテーマにした、Lillylilaのショーを――、


私は息を呑んで舞台袖から見守っていた。


ランウェイに登場した百合子さんを、またもや大歓声が迎える。


先ほどより大きな歓声に笑顔で答えつつ、百合子さんはランウェイを歩く。


(さすが百合子さん。堂々としているし、何より…)


乙女っぽい可愛らしさを基調にしているものの、


Lillyらしいセクシーで洗練されたデザインも、違和感なく織り込まれている。


(ダメ…やっぱり凄すぎるよ、 Lillyは…百合子さんは…)


(こんな素敵な衣裳に…私の考えたデザインで勝てるの…?)


(やっぱり…)


(このままLillyに負けて、私は桜庭さんと一緒に働けなくなるんじゃ…)




アゲハ「さあ、次はガールズの未来を担う新鋭ブランド!先ほど会場を沸かせたPuppyROSE提案の『初恋』服が登場よぉ!」


「…お願いします!」


私は不安を振り切るように、大きな声を出してモデルさんに頭を下げた。


モデル「任せてください!」


私がデザインした衣裳を纏ったモデルさんが、颯爽とランウェイに出て行く。


桜庭さんと私は、舞台裏から祈るような気持ちでその光景を見ていた。


桜庭綾人「………。」


(お願い…!)


(どうか会場のみんなの支持を得られますように…!)


突然――。


まるで地響きのような、大きな歓声が会場を包み込んだ。


「えっ…?」


驚いて顔を上げると、みんなが興奮した様子で駆け寄ってきた。


松尾リュウジ「Lillyの時より、かすかに反応がいい。」


松尾リュウジ「○○、これは勝てるかもしれないぞ?」


「え? え…?」


ヴィクター「○○サン、 勝てます! 勝てますよ!」


一宮若葉「オッケーオッケー! オレもっここまで良い反応は見たことないよ!」


「桜庭さん…!」


桜庭綾人「…油断できない。」


桜庭綾人「…勝負は結果が出るまで分からないから。」


(確かにそうだけど…)


(テーマ勝負でLillyに勝てば…これからも…)


???「失礼。」


假屋崎蓮「…○○さん、 綾人、 ジャマして悪いね。」


假屋崎蓮「これからは俺との時間だよ。」


正装した蓮さんが私の正面に立ち、うやうやしく手を差し出した。






假屋崎蓮「ここから先は俺が君をサポートするよ。」


「…蓮さん、そんなカッコしてどうしたんですか?」


假屋崎蓮「どうしたって…忘れたの?」


假屋崎蓮「君と俺は最後にランウェイを歩く事になってただろ?」


「!?」


(そ、 そうだった!)


(私…最後にミューズとしてランウェイを歩く事に…!)


假屋崎蓮「さてミューズ、お手を。」


(蓮さんと一緒にランウェイを歩く…か)


蓮さんがうやうやしく差し出した手を――、


私は握る事ができず、思わず桜庭さんの方を見た。


「え…?」


しかし――、そこには桜庭さんの姿は無かった。


(桜庭さん…やっぱり…)


假屋崎蓮「俺じゃ不服だと思うけど――失礼。」


蓮さんはそう言うと、私の手を取って歩き始めた。


(残念だな…桜庭さんと一緒にランウェイを歩きたかったのに)




アゲハ「PuppyROSE、 すごい大声援だったわねぇ!」


アゲハ「これにてハニコレ、 すべてのショーが終了よぉ!」


アゲハ「今からさっそく結果発表ぉ!」


アゲハ「――の前にぃ!全ブランドのミューズとトレンドリーダーに登場してもらうわぁ!」


アゲハ先生の合図と共に、各ブランドの代表がランウェイを歩く。


假屋崎蓮「さて、行くよ。」


「…はい。」


私は蓮さんにエスコートされ、ランウェイを歩いた。


心のどこかで寂しさを感じながら――。