綾人くん


今回も期待してるよぉ~


頑張れ―!



あらすじ

黒木大成の知り合いにイギリスでショップ経営をしている

千葉の元に、パタンナーの修行に行く事になった綾人。

1週間でスーツを完成させるという内容だ。

サポート役としてヒロインちゃんが一緒に行く事になり、

モデルの修行にいくヴィクターと、白川梓さんと4人で1週間の

イギリスに向かった。

ショップで手伝うヒロインちゃんに言い寄るイギリス人に

対して嫉妬しまう綾人はショップに来なくてもいいと言ってしまう。

果たして二人の恋の行方は…。綾人のパタンナーとしての将来は?

ここからお話は始まります。



帰国前日――。

私は枕元で震える、携帯のバイブで目が覚める。

(誰だろう? こんな朝に)

私は少し寝ぼけ気味で、通話ボタンを押す。

「…もしもし?」

桜庭綾人「…できたスーツができたよ」

(桜庭さん…?)

桜庭さんの声に、私の意識がはっきりしてくる。

「本当ですか?桜庭さん、お疲れ様です!」

桜庭綾人「…うん」

「見るのが楽しみです。…でも桜庭さん、もしかして寝てないんじゃ?」

桜庭綾人「…平気、全然眠くない。それより俺」

桜庭綾人「○○に早く見せたくて、いてもたってもいられないよ」

(桜庭さんがそんなこと言うなんて)

(きっと、すごく嬉しいんだな)

桜庭綾人「…早く来て。待ってるから」

「はい!すぐに行きます。」


「急いで準備しなくちゃ! あ、梓さんにも連絡しないと。」

(桜庭さんのスーツ、楽しみだな…)

私はベッドから飛び降りて、工房へいく準備をした。

私と梓さんが、Mistyの工房に着くと――、

工房の中では、桜庭さんが千葉さんや皆にお礼を述べている最中だった。

(なんだか、今は話しかけにくい…かな?)

白川梓「話が落ち着くまで、待っていましょうか。」

「はい。」

私と梓さんはしばらく、桜庭さん達の話が途切れるのを待つ事にした。


綾人は千葉とスタッフ達に、改めて頭を下げる。

桜庭綾人「…ありがとうございました。」

千葉「この一週間、よく頑張ったな。…良いスーツが出来たよ。」

桜庭綾人「…はい。」

千葉「何か、良い収穫あったか?」

桜庭綾人「…すごく。ロンドンでしか得られないものが、あったと思います。」

桜庭綾人「日本に戻ってからも、この経験を活かしていけるようにします。」

千葉「そっか。そう思ってもらえたんなら、綾人を預かった甲斐があったもんだな。」

スタッフ「~~~~! ~~~~!」

桜庭綾人「?」

千葉「初めはなんて愛想の無い奴だって思った、ってよ。」

千葉がからかうように綾人をつつく。

桜庭綾人「…すみません。」

千葉「でも綾人の集中力にはビックリした、俺達も見習いたい…ってさ。」

桜庭綾人「…そんな事はないと思いますけど。」

千葉「まぁ、そう言うなって。でも、本当にいい刺激をもらえたよ。」

千葉「俺達も思い出す事が出来たしな。」

桜庭綾人「…思い出す?何ですか?」

千葉「…夢中になるってこと、って言えばいいのかな?」

桜庭綾人「………え?」

千葉「俺達ももちろん、その気持ちを無くしてるつもりはないけどさ。」

千葉「少ながらず無意識に、売る為の服を作る事に追われてきたかもしれないって、綾人を見て、考える事ができた。」

スタッフ「~~~~! ~~~~!」

桜庭綾人「…なんて?」

千葉「ははっ! スーツが完成した時の綾人、良い笑顔してたってさ。」

桜庭綾人「…そう、ですか?」

桜庭綾人「…でも、嬉しかったから。本当に、皆さんにも感謝してます。」

千葉「…そうか。」

千葉が綾人の肩に手を回し、嬉しそうに笑った。


(何か楽しそうだけど…話、終わったかな?)

「あの…お疲れ様です。」

白川梓「みなさん、お疲れ様です。」

私と梓さんが声をかけると、一斉に全員がこちらを向く。

桜庭綾人「…○○、白川さん。」

白川梓「いいものが出来たようですね。」

桜庭綾人「…はい。」

「本当にお疲れさまでした。桜庭さん。」

桜庭綾人「…○○、お疲れ。」

千葉「早速モデルが来たことだし、着てみてくれないか?」

「はい。いいですか?」

千葉「ああ、俺達も早くそのスーツに袖を通してもらいたいしな。」

「わかりました。」

桜庭綾人「…これだよ。」

(わぁ…これが桜庭さんたちが作ったスーツ…!)

桜庭さんは私にスーツを渡してくれた。


熱烈★オフィスラブ

イベ始まりましたね。ヾ(@°▽°@)ノ


私は当然ユウマ

やっぱりユウマ

最後はユウマです(/ω\)


あ~今回も楽しいイベでありますように!



オーディション当日。

遥ちゃんと共に会場に到着すると――。

「…すごい人! あ、あそこにいるの、今話題の実力派俳優さんだ…。」

上村遥「今回のドラマは人気作家、咲乃先生が手掛ける話題作だからね。」

上村遥「みんなこれに出て知名度を上げたいんだよ。」

遥ちゃんは、会場いっぱいに集まった面々をぐるりと見回した。

上村遥「それにしてもここまで多いとは、僕もちょっと意外だったけどね。」

「なんか、緊張してきた…。」

上村遥「ん?大丈夫だよ。○○さんはこの中でも一際光ってるから、自信もって。」

(そう言われてもなぁ…。あれ…?)

視界の端に、それこそ一際オーラを放っている存在が飛び込んでくる。

壁に背を預けスラリと立つその姿は、人ごみの中でも目立っていた。

ユウマ「…。」

(ユウマもこのオーディション受けるんだ…!)

「遥ちゃん、ちょっと向こうの方に行って来るね?」

上村遥「えっ…?」

遥ちゃんが驚きつつも、私が向かおうとしている方向に視線を向ける。

上村遥「ああ…ユウマくんも受けに来てたのか。知らなかったな。」

上村遥「○○さん、僕も一緒に行くよ。」


「ユウマ!」

自然と弾む声で名前を呼ぶと、ユウマは読んでいた雑誌から顔を上げた。

パタンと雑誌を閉じて、僅かに丸くした綺麗な瞳で私を見つめてくる。

ユウマ「………。」

「ユウマも受けにきてたんだね。何役で来たの?」

ユウマ「同僚役。俺は特に興味なかったんだけど…。」

ユウマ「マネージャーがこの作品はすごく良いから、オーディション受けようって。」

ユウマは淡々とした口調で話しながら、隣にいるマネージャーさんをチラリと見る。

上村遥「まぁ…マネージャーとして担当の子が良い作品に出られるよう、チャンスを掴もうとするのは当たり前だしね。」

私の隣で頷く遥ちゃんを見て、マネージャーさんの目がキラリと光る。

マネージャー「そうなんです! この作品は本当に奥が深くて…!」

(これってもしかしてマネージャーさんが物凄くファンなだけだったりして)

ユウマ「………。」

熱弁をふるうマネージャーさんに苦笑いをしていると、ふっと視線を感じた。

「? ユウマ、どうかした?」

ユウマ「いや、 これなら楽しくなりそうって思ってただけ…。」

未だ遥ちゃんに熱く語っているマネージャーさんを横目に、

ユウマが私の耳元にそっと顔を近づけてくる。

(え…!? ユ、ユウマ?)

ユウマ「お前がいるから。」 (///∇//)キャー

こそっと耳元で囁かれた言葉は妙に艶っぽい響きを帯びていて、

私はその場で固まったまま頬が熱くなるのを感じていた。



眞田恭介「あ、○○さん。」

斎藤隼都「おっ! 来てたんだな。」

数分後。聞きなれた声がして振り返ると、眞田さんと隼斗が立っていた。

更に――。

レオ「あれ、皆さんお揃いですね。」

紗綾「ユウマくんこんにちは♪ え~また貧乏女優も一緒なの?」

「レオ君に紗綾さん…!」

見慣れたメンバーがズラリと勢揃いして、周囲が一気に賑やかになる。

眞田恭介「みんな来てたんだね。話題作だし、咲乃先生自ら監督だから当然かな。」

ユウマ「…総ちゃんも受けるんだ。」 わっめっちゃ笑顔、カワイイ(/ω\)

「えーっと、みんなはどの役を受けに来たんですか?」

斎藤隼斗「オレは社長。やっぱ社長っしょ!」

眞田恭介「社長も魅力的だったけど、課長も中々の曲者でね…。そういうわけで俺は課長役を狙うよ。」

紗綾「紗綾は、セクシーな産業スパイの役を受けるの。セクシーっていったら紗綾でしょ?まさかアナタもじゃないわよね?」

「あ、いえ。私は新人OLの役を受けます。」

レオ「僕は新人OLの弟役ですよ。マネージャーに薦められて…。」

レオ「まぁ一番しっくりきそうな役ですよね。」

眞田恭介「へぇ。みんな見事に分かれたね。」

(ほんと、被らなくて良かったかも。それにしてもみんならしいなぁ…)

みんなの言い分に納得していると、スタッフさんたちが部屋に入ってきた。

斎藤隼斗「時間か…よし、うかって見せるぜ。」

緊張感がひしめく中、私はすっと深呼吸をして気合いを入れる。

「みんな、オーディション頑張りましょうね!」


――そうして、オーディション終了後。

(…一生懸命頑張ったけど…)

私は審査員席の前に立って、長い沈黙に耐えていた。

審査員の一人、咲乃先生が何やらしきりに考え込んでいる。

(これって…ダメってことなのかな…)

と、咲乃先生がふっと顔を上げた。

咲乃先生「いいわ。アナタ、合格ね。合格者のみ集まる別室に行って下さい。」

「! はい。ありがとうございます!」

「はぁ~…緊張した。咲乃先生ってなんか迫力あるな…。」

(でも無事に新人OLの役、合格出来て良かった…)

告げられた部屋に向かって歩いていると、スラリとした後ろ姿が横切った。

(あ、ユウマだ…あれ? 部屋、通り過ぎて…)

私は急いでユウマに近づくと、ユウマの片手を捕まえる。

「ユウマ、ストップ!」

ユウマ「…!?」

「ユウマ、合格したんでしょ? 部屋はここだよ。」

通り過ぎた部屋の入り口を指して見せると、

ユウマは、私が握っている手と部屋を交互に見つめた。

ユウマ「あ…そう。 じゃあ行くか。」

「え…。」

短く言うと、ユウマは私の手をぎゅっと握り返して部屋へと歩き出す。

「ちょっ、手は離して。」

ユウマ「なんで?」

「何でって誰かに見られたら大変だし…それに…。」

(…ずっと繋いでいたくなる…)

私は何も言わず繋がれた手を見つめていると――、

ユウマ「それに?」

――ユウマがすっと身をかがめて顔を覗きこんでくる。

(わ…ち、近い!!)

慌てふためく私に、ユウマはフッと笑みを零して手を放してくれた。

ユウマ「いまの面白かったから満足した。」


ユウマと共に部屋に入ると眞田さんや隼斗、レオくんに紗綾さんの姿もあった。

(さすが、みんな合格出来たんだ! 良かった)

ポンっと音がして、咲乃先生が手にしたマイクのスイッチを入れる。

咲乃先生「合格者の皆さん、おめでとうございます。では改めて順に配役を発表していきましょう――。」


咲乃先生「――それでは次、メインキャストを発表します。まずは新人OLの弟役から。」

(あ、レオくんが受けた役だ…名前呼ばれるの楽しみだな)

咲乃先生「ここで、異例となりますが一部配役の変更をさせていただきます。」

咲乃先生の言葉に、ざわめきが起こる。

咲乃先生「新人OLの弟役は――安西直人さん。」

レオ「……!?」

(うそ…まさかここまできて不合格、とか?)

咲乃先生「新人OL役には、紗綾さん。」

(ええっ…紗綾さんってことは、私も落ちたの…?)

マイク越しに響く咲乃先生の声に、一瞬頭が真っ白になる。

紗綾「何で紗綾がOL? 主役で合格じゃなかったの!?」

紗綾さんが声をあげたものの、咲乃先生は動じることなく発表を続けていく。

咲乃先生「同僚役は、斎藤隼斗さん。」

斎藤隼斗「…えっ、なんで!」

咲乃先生「課長役、ユウマさん。」

ユウマ「…は?」

咲乃先生「社長役、眞田恭介さん。」

眞田恭介「………。」

(みんな、受けたのと違う役になってる…)

斎藤隼斗「マジかよ…眞田さんが社長か…。」

眞田恭介「驚いたな。ユウマが課長で、俺が社長とはね。」 ええ、ついこの前のイベはユウマ高校生役でしたものね(*^.^*)

ユウマ「…課長…?」

隣に立っているユウマを見ると、流石に困惑した表情を浮かべている。

(残りは…産業スパイの仲介人役と主役の産業スパイ役だけ…)

咲乃先生「――産業スパイの仲介人役には…レオさん。」

レオ「僕が仲介人ですか…?」

(レオくん、落ちたわけじゃなかったんだ…良かった)

(でも…これで残りは主役だけ。やっぱり私だけ落ちたのか…)

オーディション時の咲乃先生の様子が思い出されて絶望的になった、その時。

咲乃先生「最後に、このドラマの主役となる産業スパイ役を発表します。」

咲乃先生「産業スパイ役には…○○○○さん。」

「………!?」

(…あれ、 今…私の名前呼ばれた?)

驚いて顔を上げると、周囲の視線が一斉に私に注がれている。

(うそ…私が主役? これって何かのドッキリとか…?)

余りの事にパニックになっていると――、

「えっ…!?」

――隣から、むにっと頬っぺたを摘まれた。

ユウマ「何ボーっとしてんの…? 主役だろ。嬉しくないの?」

私は、ユウマに頬を摘まれたまま口を小さく開く。

「ひまましゃにうそかとほもってほほしゅねろうかとほもっ…。」

ユウマ「ふっ。 …何言ってるか全然分かんない。」

ユウマがおかしそうに笑う。それにつられて周囲の空気も一瞬和んだのだった。




ホントに、ホントに


ラストです。




ここまでお付き合い下さった皆様。




本当に感謝してます。




最後まで読んでいただければ幸いです。








白川梓「…お疲れさまでした、○○さん。」


「ありがとうございます。」


白川梓「その顔、やはり…あの件が気になってですか?」


「…はい。テーマ服勝負での勝利がブランド存続の条件でしたから。」


白川梓「社長、考え直してはいかがでしょうか。」


白川梓「テーマ服勝負でこそ負けましたが、あのLillyに売上で勝ったのですから…。」


黒木大成「…男に二言はない。」


黒木大成「PuppyROSEはこのハニコレのランウェイがラストウォークだ。」


(やっぱり…社長なら、ぜったいにそういうと思った…)


一宮若葉「PuppyROSEが今日で最後か…、…残念…惜しかったね、○○ちゃん…。」


「はい…。でも、仕方ないです。」


一宮若葉「良い言葉が見当たらないけど、今は元気出して。」


一宮若葉「ランウェイを歩いて、最後をカッコ良く飾ろうよ!」


一宮若葉「すぐにヘアメイク直すから、フィッティングルームに来て!」


「…はい。」


私は若葉さんと共に、フィッティングルームへ急いだ。


一宮若葉「…これで元気出して?」


そう言うと、若葉さんは私の目の前に一着のワンピースを広げた。


「あの…これは?」


一宮若葉「さくらんから預かった、○○ちゃんのお色直しの衣裳だよ。」


「桜庭さんが…?」


私は桜庭さんが用意してくれたという衣裳を見て、ハッとした。


「これは…!」


―――それは、ボツになった私のデザイン画を起こしたものだった。


(思い出した。以前、ボツになったワンピースの一つだ)


(桜庭さん、いつこんなワンピースを作ってくれたんだろう…)


一宮若葉「これを着てランウェイを歩いたら、さくらんも喜ぶと思うよ?」


「…そうですね。」


(Lillyに勝てなかったのは残念だけど…)


(このワンピースを着て、桜庭さんのためにも最後のランウェイを飾ろう!)







ここでミッション


切り替えワンピース250コイン、または24000メダル





(このワンピースを着て、桜庭さんのためにも最後のランウェイを飾ろう!)


私はカーテンの中に入って、急いで着替えを済ませた。


(すごい、細部までよく出来てる…)


(桜庭さん、いつの間に用意してたんだろう?嬉しいな…)


私は鏡に映った自分の姿を見ながら、暫く考えた。


(……決めた)


(やっぱり、私は………)


――私はある決意を固めて、フィッティングルームを出た。




舞台裏には、ROSEの面々がそろって私を待っていた。


白川梓「ワンピースに着替えたんですね? ステキですよ。」


「ありがとうございます。」


「…桜庭さんは戻りましたか?」


白川梓「ええ、桜庭くんなら、ほらあそこに。」


桜庭綾人「………。」


桜庭さんは誰かも遠い、一番端で無言のまま立っていた。


假屋崎蓮「○○さん、準備OK?もう出番だよ。」


「すみません、ちょっと待ってもらえますか?」


假屋崎蓮「え?あ、うん…少しならいいけど…。」


私は一番端に立っている、桜庭さんの元に歩み寄った。


桜庭綾人「…何?」


桜庭さんは一瞬だけ私を見ると、すぐに顔をそらした。


「桜庭さん。ワンピース、ありがとうございました。」


「いつの間に用意してたんですか?」


桜庭綾人「…今はそんなこと話してる時間ないから。」


桜庭さんが、舞台の方をチラリと見やる。


桜庭綾人「…最後のランウェイが、あんたを待ってる。」


「桜庭さん、私…ランウェイは歩きません。」


桜庭綾人「………!」


私の言葉に、周りにいたみんなも凍りつく。


松尾リュウジ「は?出ないってどういうことだよ?」


栗林あんず「デザイナーは、○○さんしかいないのよ?」


「ワガママ言ってごめんなさい。」


松尾リュウジ「ワガママとかそーゆーレベルじゃねーぞ?」


「私…決めたんです。」


「私がランウェイに立って脚光を浴びるなんて…。」


ヴィクター「NoNo、問題ないよ!」


ヴィクター「○○さんにはサンカクじゃなくて資格あります!」


「資格とか、そういうことじゃないんです。」


ヴィクター「What…?どういうこと?」


「ランウェイを歩く時…私の隣には桜庭さんがいて欲しいんです。」


黒木大成「は?」


白川梓「○○さん…。」


「一緒に苦難をともにした、桜庭さんにいて欲しいんです。」


桜庭綾人「…自分が何を言ってるか、分かってるの?」


「もちろん、わかってます。」


「とんでもないワガママを言って、会社に迷惑をかけることになるのは。」


「でも…。」


「今まで一緒に頑張ってきた桜庭さんがいないと…私には意味がないんです。」


「桜庭さんと一緒じゃないと、ランウェイを歩けないんです。」


白川梓「困りましたね。そうなると、早急に代役を立てないと…。」


白川梓「今日で閉鎖するブランドとはいえ、アゲハ先生のメンツもありますし。」


黒木大成「…考える必要ねえし、そんな時間もねぇ。」


白川梓「どういうことですか?」


社長はフンと鼻を鳴らすと、私の前につかつかと歩み寄った。


黒木大成「…いい度胸してるじゃねぇか、お前。」


そして若葉さんが整えてくれたばかりの私の髪を、ぐしゃぐしゃと乱暴に撫でまわした。


「わっ…! や、やめてください!」


黒木大成「良い根性だ。そういう考え方、俺は嫌いじゃない。」


黒木大成「お前を採用した俺の目に、狂いはなかったな!」


「え…?」


黒木大成「俺に任せとけ。全部解決してやるよ。」


黒木社長は唖然とするみんなの前を通り抜けて、


颯爽と舞台に飛び出していった――。




アゲハ「はぁっ!? なんで大成ちゃんが出てくるのよぉ―っ!?」


十条百合子「ミューズの出番でしょ?○○さんはどうしたのよ?」


黒木大成「ああ? 細けぇこち言うなよ!」


黒木大成「PuppyROSEはそもそも、俺が作ったブランドだ!」


黒木大成「ミューズじゃなくて、キングが来たと思えばいいだろうが!」


アゲハ「キングって…大成ちゃん、あんた…。」


十条百合子「ほんと無茶苦茶ね、貴方って人は…。」


アゲハ「まあ、いいわ! ハプニングもイベントの醍醐味よねぇ!」


アゲハ「はい、大成ちゃん!思いのたけをぶつけてチョーダイ!」


アゲハ先生は苦笑しながら、マイクを黒木社長に手渡した。


黒木大成「…PuppyROSEの最高責任者、黒木大成だ。」


黒木大成「今日は不本意ながら、テーマ服勝負でLillyに敗れちまったが…。」


黒木大成「PuppyROSEは来年こそ、ガールズのてっぺんを取る!」


(…え?)


黒木大成「お前ら! 来年こそはPuppyROSEに投票しろよ!」


(来年? ブランド閉鎖じゃないの?)


黒木大成「そして、今日一番の大発表だ!」


黒木大成「今日! 俺は――――――、男を止める!」


桜庭綾人「社長…。」


「桜庭さん、これって…。」


桜庭綾人「…PuppyROSEは継続、だね。」


「継続!? 本当ですか?」


白川梓「社長が男を止めると言いだしたのは――、男に二言はないという言葉を取り消した、ということです。」


白川梓「つまり、テーマ服勝負にまけてもPuppyROSEは継続です。」


松尾リュウジ「でも、あれじゃ意味不明ですよ?」


松尾リュウジ「ただの変態発言にしか取られないんじゃないですか?」


白川梓「…会場もウケてるみたいですからよしとしましょう。」


黒木大成「ROSEガールズブランドの快進撃はこれからだ!」


黒木大成「みんな、これからもROSEをよろしく頼むぜ!」


万雷の拍手と悲鳴にも似た大歓声に包まれ、黒木社長は満足そうに笑っていた。


そして黒木社長の挨拶が終わると――、


十条百合子「まったく、美味しいところをいつも持っていくんだから。」


菊地純也「意味不明でしたけど、カッコよかったです! さすが黒木さんです!」


十条百合子「…菊地くん、どうして今回私たちがテーマ服勝負で勝てたか分かる?」


菊地純也「いえ! わかりません!」


十条百合子「…あの人への気持ちを思い出してデザインしたからよ。」


菊地純也「あの人?」


十条百合子「…行きましょうか。」


Lillyの百合子さんと菊地さんが大歓声を浴びながら、ランウェイを歩きだした。




華やかなその光景を、私は舞台裏から静かに見つめていた。


(いつか私もあそこを歩きたい…)


(このワンピースを着て、桜庭さんと一緒に…)


すると桜庭さんがスッと手を伸ばしてきて、私の手を握った。


「えっ…?」


桜庭綾人「………。」


桜庭さんは真顔で、じっとランウェイを見つめている。


その頬は、心なしか桜色に染まっているように見えた。


桜庭綾人「…○○、ありがと。」


桜庭綾人「…結果は残念だったけど、この9ヶ月間充実してた。」


桜庭綾人「…本当にありがと。」


「桜庭さん…。」


思いがけない桜庭さんの言葉を聞いて、胸がいっぱいになる。


私はこぼれそうになる涙を堪えながら、桜庭さんの手を握り返した。


「私の方こそ…。たくさん迷惑かけちゃいましたよね。」


桜庭綾人「本当に…最後の最後まで。」


桜庭綾人「ランウェイを歩かないって言いだした時、どうしようかと思った。」


「ごめんなさい…。」


私が涙声で言ってうつむくと、桜庭さんは小さく首を振った。






桜庭綾人「…でも、嬉しかった。」


桜庭綾人「あんたが、歩かないって言ってくれて…嬉しかった。」


「桜庭さん…。」


桜庭綾人「俺もあんたと一緒に、ランウェイを歩きたいと思ってたから。」


桜庭綾人「踏み出せなかったけど…そう思ってたから。」


桜庭さんは花の頭をかいて、照れくさそうに目を伏せる。


桜庭綾人「…来年こそは…。」


桜庭綾人「…俺は逃げない。」


桜庭綾人「…陽のあたる場所に、照れずに一歩踏み出すよ。つまり、来年こそは…。」


桜庭綾人「あんたとランウェイを歩きたいと思っている。」


桜庭さんはそう言うと、私の瞳を真っ直ぐな目で見つめた。


桜庭綾人「…これが、俺の正直な気持ち。…○○…あんたは、どう思う?」


「私も…来年、桜庭さんと一緒に歩きたいです!」


桜庭綾人「…ありがとう。」


桜庭さんは、スポットライトの当たるランウェイを見つめた。


桜庭綾人「…がんばろう。今日から、来年の今日まで…ハニコレ目指して。」


「はい! がんばりましょう!」


――私たちは互いの手をしっかり握って、光に包まれたランウェイを見つめた。


(桜庭さんは今、どんな想いで私の手を握っているんだろう?)


(異性としての好意なのか、それとも…)


(ただの仕事仲間としての、友情の感情なのか…)


――私はそこまで考えて、頭を振った。


(今は、そんなこと気にしないようにしよう…)


(私の素直な気持ちは、ただ、桜庭さんの隣にいたいだけ…)


(そして一緒に、仕事での夢を叶えたい…)


私はランウェイを見つめながら、もう一度、桜庭さんの手を握った。


桜庭さんはそれに応えるように、私の手をギュッと握り返した。


そう、私たちはまだお互いに――夢の途中なのだ。




憧れていた、ランウェイ――。


そこで見つけたのは壮大な夢と、世界にたった一つの運命の恋。


――桜庭綾人。


大好きなこの人と、いつか一緒にランウェイを歩きたい。


私は再び、夢を追いかけることを決意したのであった――。




Happy end