Last Run ~最後の乗務~

早朝、午前6時前。
Y駅へと向かう、この通い慣れた回送ルートを走るのも今日が最後になってしまった。
観光バス最後の仕事は水上への日帰りスキーツアー。
ごく当たり前で、ごくありきたりな仕事が最後の仕事となった。

いつものようにY駅Tビルの前にバスを付ける。
何人かの顔見知りの添乗員さんが声を掛けてきてくれて、最後の挨拶を交わすとにわかに信じられなかった事が少しずつ現実味を帯びてくる。

土曜日の関越道下りはスキーへ向かう車でところどころ渋滞していた。
いつもはイライラする渋滞もこの日ばかりは何か違った気持ちにさせてくれる。
水上のスキー場はいい天気で、エンジンを止めた車内は窓を開けないと暑いくらいだった。
周りに雪が残っているが晴れればもうすっかり春の気配を感じる。
夕刻、スキー場を出発し新宿経由で帰路につく。
新宿到着時のアナウンスで「今日が最後の乗務になります・・・」と言おうとしたが、たまたまこのバスに乗り合わせた方達にとってはそんなのは関係なく、また言う勇気もないので「お忘れ物ない様お降り下さい・・・ありがとうございました」と、いつものようにアナウンスをした。


新宿で半分ほどのお客さんが降り、首都高に乗って最終降車場所へ向かう。

東京タワーは見たことのないイルミネーションでライトアップされていた。
「三橋コースで行きますか!?」
今日の相棒、T君が言ってきた。

三橋コースとはレインボーブリッジ、鶴見つばさ橋、横浜ベイブリッジを通る事で、その提案に異存はなかった。

三橋コースとはレインボーブリッジ、鶴見つばさ橋、横浜ベイブリッジを通る事で、その提案に異存はなかった。
よく都心への社会化見学に行き、帰りにこのコースで帰ると小学生達が喜んでくれた。

レインボーブリッジを渡り・・・

鶴見つばさ橋を渡り・・・

最後に横浜ベイブリッジを渡り、右手にみなとみらいの夜景が見えて来れば到着地はもうすぐ。
無事、お客さんを降ろして車庫に戻り運転日報を仕上げる。
日報の備考欄に書く「異常なし!」の言葉はいつもより少し大きめに書いておいた。
悲しいな・・・。
今週前半は2回連続でディ○ニーランドに行ってきました。
いずれも中学校3年生の卒業遠足です。
それは2日目の中学校の仕事の時に起こりました。
ディ○ニーランドに到着し、帰りに備えて倒されたリクライニングシートと使われたカーテンを直しに客席に行った時の事です。
前から順に直し始めて行き、後ろから二列目の席まで来た時、足元に何かプラスチックの欠片が見えました。
よく見るとそれは飲み物を置くカップホルダーの欠片でした。
まさかと思い、一番後ろの列を見るとやはりもう一ヶ所壊されていました。


いくらプラスチックとはいえ、かなり硬い材質なので簡単には壊れるはずがなく、しかも二ヶ所ということは明らかにふざけて壊されたのだと思います。
何か怒るというより、呆れてしまいました。
こんな物は会社に帰れば予備があり、自分で交換すればそれで済むのですが、何よりも壊したことを正直に言ってくれなかった事が、何とも悲しい気持ちにさせました。
この時点で先生に報告すれば誰がやったのかわかるはずですが、別に犯人を捜すつもりではなく、卒業遠足で楽しい気持ちで来ている他の子に嫌な気持ちにさせるのも可哀想なので報告はしませんでした。
帰りは4台のバスに各降車場所ごとにに分かれて乗車するので、行きに乗ってきた子が乗るとは限りません。
降車場所で生徒さんを降ろし、先生と一緒に忘れ物確認をしていると、なんとまた一つ壊されていました。
たまらず先生を呼んで壊されたカップホルダーを見せ「先生、どういうことですか!? 行きに二つ、帰りにまた一つ壊されているんです!」
先生は愕然とした表情でただ「すみません・・・」という言葉しか出てきませんでした。
もうすぐ他所の手に渡ってしまうバスですが、今まで一緒にがんばってきた相棒を最後の最後に傷つけられたような悲しい気持ちになってしまいました・・・。
感激サプライズ!!
何とか北海道から帰還した翌日から社会復帰です(笑)
昨日はいつもお世話になっている新聞販売店さんが主催するツアーの仕事で房総と三浦半島に行ってきました。
この新聞店さんの所長さんは以前にもお話しましたが、強面でシャガリ声の一見怖そうな所長さんです。
今回、ウチの会社が観光バスから撤退することでこの所長さんが今回の旅行を企画してくれました。
急な告知にも拘らず、バス3台のお客様が参加していただけました。
お客さんの中には「あっ、何とかさん、お久しぶりです!」とお互い名前で呼び合うほど顔馴染みの方もいます。
さてアクアラインで房総に渡り、順調に行程を進め昼食会場に行った時のことです。
乗務員室で昼食を食べていた時に所長さんからお呼びがかかり、連れて行かれたところはお客さんの食事会場でした。
訳もわからず130人のお客さんの前に立たされ、何をするのかと思ったら所長さんがマイクを持ち「今まで○○バスさんには大変お世話になりました・・・しかし残念ながら3月で観光バスを辞めてしまいます・・・ここでお世話になった運転士さんとガイドさんに感謝の気持ちを込めて花束をお送りしたいと思います!」
・・・ビックリしました。
まさかこのような事をして頂けるとは思わず、花束を頂いて思わず泣きそうになりました。
ガイドさんたちはボロボロでしたが、僕達運転士三人泣きそうな気持ちを一生懸命堪えましたが目元はウルウル・・・。
お客さんの拍手に右目から堪え切れなかった一滴が頬を流れてしまいましたが・・・。

この後フェリーで三浦半島に渡りましたがこの日の東京湾は波が高く、フェリーは大きく揺れましたが、この揺れも心地よく思えました。
三浦半島に上陸し、京急三浦海岸駅に咲く河津桜へ。

この桜が完全に散る頃には観光バスを降りるんだなと思うと、今まで実感できなかった事が現実に思えてきました。
お客さんが降りられる時は言葉はいつもの「ありがとう・・・」のではなく「今までありがとう・・・」でした。

