「覚えてますよ!ネクタイの先はベルトの位置に合わせるんですよね!」

橋本真也が亡くなって10年間、本当に様々な思いが交錯していた。息子大地がプロレス入りするニュースも敢えて見ないようにしていた。そんな橋本真也の息子、大地があるパーティー会場で目の前にいた。一瞬動揺したが、声を掛けたのは天の橋本真也の声が背中を押したから。
まさか当時中学生で、あの葬儀の朝しか会っていない大地が、あの時の言葉を鮮明に覚えてくれていたのには込み上げるものがあった。

葬儀の朝、ネクタイの結び方を知らなかった大地を見て、親父としての橋本真也がやり残した仕事を想像しながら、息子、大地にネクタイを結ぶポイントを伝えた。

当時の橋本真也は新日本、ゼロワン双方とも距離があったことから、公私ともに仲良くさせて頂いていた私に葬儀の司会をして欲しいと声が掛かった。

橋本真也の強さと人間味に魅了され、笑い、泣き、苦しむ時間を共有出来たことはかけがえのない宝の時間。

その橋本真也の最後の大舞台である、本人の葬儀。最後にどんな言葉を発しようか。
横浜の丘の上にある葬祭場の仮眠室で眠れぬ夜を過ごしながら、頭の中で翌朝の葬儀のシミュレーションをしていたら、大事なことに気がついた。明日の出棺の際、最後の橋本コールの後に流れる入場テーマ音源のこと。橋本真也といえば爆勝宣言。しかし明日は一世一代、橋本最後の大舞台。当然、前奏が付いたビッグマッチ用の音源しかあり得ない。しかし、本当に葬儀委員会のメンバーはその音を準備しているのか。まさか市販されている、シンセサイザーで作ったような安っぽいCDの音源ではなかろうか。

翌朝、音響会社の到着をソワソワしながら待ち確認すると、予感は的中。
当時、一緒に実況を担当していたテレ朝の中丸アナに連絡をして、ワールドプロレスリング中継で音効を担当していた戸澤さんに連絡し、東京ドーム用の音源を持ってきて頂くようお願いをした。が、出棺までに横浜に到着するか分からない。

万が一に備えて、霊柩車のドライバーには、前奏なしのCDの曲を使う場合と、音源が間に合って前奏付きの音を使うパターン、それぞれの曲の構成を綿密に伝えて出棺のクラクションを鳴らすタイミングを伝えた。ここが一番大切な場面だし、橋本真也がこだわりそうだから。そして友として絶対にカッコいい最後にしたかったから。

音効の戸澤さんは間に合った。そして橋本真也最後のコールの後は、真っ赤な紙テープが左右から舞う中、ビッグマッチ用の前奏付きの入場テーマとファンの絶叫橋本コールの中を霊柩車は出発した。

明日は後楽園ホールで破壊王10周忌イベント 橋本真也復活祭。福岡から大会の大成功を祈念しつつ、あのテーマソングが再び後楽園ホールに響くことを想像する

10年が経ち、私は当時橋本真也が亡くなった40歳になった。
今でも橋本真也が残した言葉は胸にある。そしていつも力をくれる。

破壊なくして創造はなし
悪しき古きが滅せねば
誕生はなし
時代を開く勇者たれ

福岡市長高島宗一郎