★★★☆☆(星3)
<My Opinion>
本書は日経BP社発行の経営誌「日経トップリーダー」の連載記事を加筆して再編集したもの。「経営の実際の現場では教科書など役に立たない」という言葉は良く聞かれるが、むしろ星野社長は「経営の教科書に書かれていることは正しく、実践で使える」と主張する。星野氏が経営者として実践してきた、社員のモチベーションアップも、サービスの改善も、旅館やホテルのコンセプトメイクも、すべて教科書で学んだ理論に基づいているという。
- 星野氏が教科書通りの経営を実践している理由は、経営判断を誤るリスクを最小にする為。企業経営は、経営者個人の資質に基づく「アート」の部分と、論理に基づく「サイエンス」の部分があるが、社長自身はアーティスティックな経営判断を行う資質がないという自己判断から、教科書を根拠として経営手法の中でサイエンスを取り入れるようになった。サイエンスに基づくことで、自分の下した判断に自信を持てるようになるし、社員に対して判断の理由を明快に説明でき、更には思い切った経営判断に勇気を持って踏み切るきっかけを与えてくれるのだという。
- 星野氏から学べることはこの教科書に対するスタンスに加えて、実行に対するこだわりである。自らの経営判断に役に立ちそうな本を見つけた際には、一行一行丹念に読み込み、徹底して教科書通りに実行するのだという。例えば「3つの対策が必要だ」と教科書に書いてあれば、1つか2つだけ実行するのではなく必ず3つ実行する。教科書をベースにして実際の経営課題についてソリューションを与えることは合理的である一方で、中途半端な実行は理論のつまみ食いになり、成果がうまく出ない場合に主要な問題が理論自体に内在しているのか理論の実践部分にあるのか見極めが困難になる。「教科書通り」に全て実行しみることで判断の確度を高めているのである。
- 本書の第一部では以上のようなことが紹介されていて、エッセンスは全てここに詰まっている。その後は具体的な経営課題に対してどのような教科書(理論)を用いて対応したかということが書かれているが、このパートの構成が非常に甘い。テーマ別に戦略論で4つ、マーケティングで4つ、リーダーシップで4つ挙げられているが、200ページ足らずで10を超える経営課題とその対策は説明不可能だ。経営課題は各テーマ1つづくらいが限界ではなかったか。結果として本書は教科書リストに毛が生えたような構成になってしまっている。
- 「教科書通りの経営」に焦点を当てた切り口は見事だと思うも、構成にもう一つ工夫がほしかった。又、教科書通りの経営で失敗した事例も分析してほしかった。星3つ。
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