<My Opinion>
この本の特徴は本書の最終章で著者自身が下記の通り説明している。
「本書は語学習得のプロセスを、モデルの人物の心にそった物語として展開しながら、モデルが会得した経験知を論説文として明示する、という二重の説明方法を採用しています。」(P195)
「おじさん、語学する」の[おじさん」は林家常雄という架空のサラリーマンである。娘がフランス人と結婚してそこに孫が生まれるが、娘一家はフランスに住んでおり孫娘もフランス語を話す。孫娘ととにかく会話がしたい!その一心で悪戦苦闘しながらもフランス語を身につけていく1人の日本人の奮闘記(フィクション)である。物語の中に語学学習のエッセンスがちりばめてられおり、それが適宜整理されて読者に提示される。語学学習の参考書としては斬新なスタイルであり、面白い。
ただし、物語の中心となる外国語は「フランス語」である。フランス語学習には相当面白く読むことができるのだろうが、フランス語の学習歴がない人にとってはフランス語関連の話が途中やや退屈になるかもしれない。
著者の塩田勉氏は、検索してもらえればすぐに分かるが言語学の「プロ」。本の構成は斬新だが、語学学習の本質は外していない。以下個人的に為になった点を抜き書きしておく。
<Memo>
●動機と目標の設定のポイント
目標に合わせて、聴く、話す、読む、書くという四技能の、どれを、どの程度身につければよいかイメージする。万能の語学力などというものは存在しない。それぞれのニーズを満たすための必要十分な四技能の組み合わせとレベルが存在すると考えて目標を設定する。(P21)
語彙記憶を支配する価値や意味の体系は、理論的には無限の解放系ですから、学習者が現実に外国語を学ぶ場合、おのおのの人生の目標や学習のニーズ、広くは各自の価値観にしたがって、焦点を絞り、選び取り、他を切り捨てる決断、つまり対象の限定と制約を要求します。(P202)
●自分の流儀を探すポイント(P29)
・性分や癖に合うようなノウハウを編み出す。教えられた方法も機械的に当てはめず柔軟に工夫をこらす。
・苦労しないで頭に入る事柄、過去に成功をもたらした事例をふりかえる必要がある。そこから自分の流儀のイメージをつかむ。
・自分の気質や特性を客観的につかむには、カセット・テープやビデオなどで、自分の声やしゃべる様子を他人として観察するとよい。
●受験後遺症から脱却するポイント(P42)
・受験に必要とされるのは、再生可能な記憶である。しかし、語学には、再生可能な事項のみならず、言葉の使い方に何度も触れるうちに得られる「語感」が不可欠となる。「語感」を養うのは暗記ではなく、無心な反復によって得られる直感である。
●入門を終えて飛躍するためのポイント(P99)
・本書の主人公は、孫に会うというのが初心の動機なので、孫のビデオを繰り返し見たことが、飛躍への動機を高めている。関心の維持のための自己管理は、語学に限らず一芸をもって立つ者の秘訣である。
●談話能力を養うポイント(P130)
・言語知識の不足を補うには、非言語的な伝達方法、ジェスチャー、表情、声の調子、雰囲気、間などに神経を集中する。
●単語を増やすポイント(P150)
・スポーツや健康、料理や趣味、レジャーなどの本を原語で眺めておいて、同じ分野の原語のビデオを、インターネットなどで購入して見る。この場合も、語学そのものというよりは、語学を使って好きなことを新しく学ぶ、という気持ちで取り組む。
<My Opinion>
誤解を恐れずに私流に大雑把に解釈すれば、語学学習の秘訣は「ニーズと自分の興味をうまく適合すること」だと思う。ビジネスマンであれば、業務上の必要性を考えながら、自分のモチベーションを高く保つことができる方法を考えて学習していくことが最もストレスなく語学力を向上させる秘訣だろう。
語学習得の「ニーズ」を明確にすることが肝要という点については、「マルチリンガルの外国語学習法 石井啓一郎」
の中でもはっきりと強調されている。
まず私ははっきりと、ある意味「身も蓋もない」ことを断言してしまうのだが、所詮「外国語」というものは何かの「手段」ではあっても「目的」にするものではない。一方で、私は自分の苦い幼少体験から学んだこととして、まずは確たる「母語」をもつことが、一人の人間としてのアイデンティティーを確立するために必要不可欠なものであると理解している。(P32)
つまり、今学んでいる外国語は一体何の為の「手段」なのかということを明確せよということである。
私自身の話になるが、今学んでいる中国語は何の手段かと問われれば、それは当然「仕事」の為だ。来年からどのような仕事をするかは未定だが、先達からはReading, Listening, Writing, Speaking四技能の内、SpeakingとListeningに重点を置いて学習するのが有用とアドバイスをもらった。1年間の語学留学の後、中国で実務を行った時に一番「もっと伸ばしておけば良かった!!」と思う分野がこの2つであるということだ。
現在、私が毎日通っている語学学校の授業はマンツーマンでの会話レッスンが中心で、週末は中国人と頻繁に出掛けている為、話をする機会には事欠かない。これは一つの習慣になっているのでこれは継続していけば良いと思う。元々、人と話をすることが大好きなのでSpeakingとListeningについてはニーズと興味が合致している。
又、興味がわくという意味では、読書欲は大学時代から一貫してあり、歳をとるごとにその欲求は高まっていくばかりである。なので、この根源的な欲求を利用して、「中国語の本を読む」ということを開始しようと思う。現時点で、中国語のトータル学習期間は半年なので、原書を読むのは正直かなりの労力を要する。
しかし、原書を読むことは前出の「マルチリンガルの外国語学習法 石井啓一郎」においても「『文学書』の言語習得上の実利的意義」として下記の通り強く推薦されている。
結論を言ってしまうと、外国語というものをまず「机上」である程度のレベルに押し上げる為の方法というのは、その言語で書かれた読み物を読みこなせるような訓練をつんでおくことであると思う。おそらくそれ以外の王道というものはない。その意味で、原書でなるべく多くの文学作品を講読してみることに尽きると考えるのである。(P72)
石井氏は文学作品は①その言語の最も信憑性のおける言語的な規範になる、②語彙力が向上する、③現地のコミュニケーションのあり方についての情報もふんだんに得られるという3点において語学学習において文学書が果たす意義を説明している。(P72~)
ただし、文学書に限らず、
その人の興味と必要に応じて。大人の自己表現や思考が表れている書き物に積極的に触れる努力をお勧めするのである。(P75)
とあるので、とにかく「きちんとした」本であれば文学書に限らずとも語学学習に有用なのだと解釈可能だ。
自身としては、まず1冊目は日本語で読んだことがある本を読む予定だ。日本語で何度も読み返しているデール・カーネギーの「人を動かす」が良いだろう。読了することが大切なので、言語的に多少難解でも興味が続くものにした。2冊目はアリババ創業者ジャック・マー(馬雲)氏の本を読む予定だ。名前は相当有名だが実際にどんな生き方をしてきたのかということや経営手法については全く知らないし、これも自然に興味が湧いてくる内容なので2冊目としたい。
英語学習で経験したことだが、原書を読むことは外国語の語彙を増やすことにつながるし、会話の中の語彙のレベルをアップさせることができるので、Speakingレベル向上にも間接的に効果がある。最終的には、本屋に行った際、日本語の本と同じように中国語の本に手が伸びる感覚を持ちたい。さらに、中国語をツールとして中国に対する知識を拡充していけるレベルにもっていくことがやはり語学的には究極目標である。(もはや「希望」の領域だが。)
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