スーフィーのお茶の話 | BLACK VELVETS

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火水(ホシ)の舞踏と祝祭の音

シンギングボウル と霊性に
身体から働きかけるワークを
やっています

ちょっと長いですがお茶の中近東での歴史について語っているようでいてそうでないのが面白いです。

最後にコーヒーの話がちょっと出てきますが
灼熱の砂漠で飲むチンチンに熱い唐辛子入りコーヒーは喉の渇きを簡単に潤してくれるそうです。

🍵スーフィーのお茶についての話☕️

昔、お茶は中国にしか存在していなかった。しかし、その噂は他国の賢者や愚者にも伝わり、人々はそれぞれ自分たちの思い込みや願望に基づいて、それを探し出そうとした。

インジャー(近国)の王は中国に使者を送り、使者たちは皇帝からお茶を授けられたが、中国の貧しい人々もお茶を飲んでいるのを見て、この飲み物は自分たちの王にはふさわしくないと判断した。

そして、中国の皇帝は別の飲み物を神聖な飲み物だと偽って、自分たちに渡したにちがいないと考えた。

アンジャー(遠国)の最も偉い哲学者は、お茶にかんして集められるかぎりの情報を収集し、次のように推論した。

それはたしかに存在するが、きわめて珍しいものであり、これまでに知られているどのようなものとも異なった、まったく新しい範疇に属する植物にちがいない。

何故なら、それは飲み物であると同時に、薬でもあり、緑色をしていることもあれば、黒色のこともあり、ときには苦く、ときには甘いと言われているではないか、と。

フシィーシュ(努力国)とベヒネーム(閉鎖国)の人々は、何世紀にもわたって手に入るかぎりの、ありとあらゆる植物の葉を食べてみた。

その中にはたくさんの毒草が含まれていたために多くの命が失われたにもかかわらず、彼らの期待が満たされることはなかった。彼らはまた、液体という液体すべて飲んでみたが、それもむなしい試みであった。誰ひとりとして、実際にお茶の木を持ち帰った者がいなかったからである。

マッザーブ(教条国)では、重要な宗教儀式として、お茶の袋を高く掲げた行列が大通りを行進していたが、誰もその使い方を知らなかったし、それを味わおうとする者もいなかった。すべての者がその袋自体に魔術的なカがあると信じ込んでいたからである。

ところがある日のこと、その儀式の最中に「愚か者よ、それに熱湯を注いで飲んでみよ」と叫んだ賢者がいた。

マッザーブの人々にとってそのような行為は、お茶の殺害を意味していたので、彼らはただちに自分たちの宗教の敵であるその男を捕らえて縛り首にし、その死体をさらしものにしたのであった。

しかし、この賢者は生きているあいだに、自分の秘密をごく少数の弟子たちに伝えていた。弟子たちはひそかにお茶を入れ、自分たちだけでそれを飲み、何をしているのだとたずねられたときには、「これは薬であり、病気を治すために飲んでいるのです」と答えた。

このような事が、世界中のいたるところで起きていた。それが何であるのかを知らずに栽培している人たちがいたし、せっかく手に入れたにもかかわらず、平民の飲むつまらない飲み物だと思って捨ててしまう者や、盲目的に神聖視して崇め奉っている人々がいた。中国以外の国で実際にお茶を飲んでいたのは、ごくわずかな人々だけであり、しかも彼らはそれをひそかに隠れて飲んでいたのである。

その後、ひとりの賢者が現れ、お茶の商人や愛好家たちに次のように言った。「味わう者は知り、味わわない者は永遠に知ることがない。神秘化して語るのをやめ、客をもてなすさいに黙って差し出せ。気に入った者はさらに飲みたがるだろうし、そうでない者は、茶飲みには向いていないということを意味している。議論と神秘の店を閉め、体験の茶店を開くのだ」

こうしてお茶は、翡翠や宝石や絹などと一緒に、シルクロードに沿って宿場から宿場へと運ばれ、商人たちは、休息をとるときにいつもお茶を入れ、それを身近にいる、お茶の評判を知っている者にも知らない者にも勧めた。

これがチャイハーネ(茶店)の始まりであり、チャイハーネはやがて、北京からブハーラやサマルカンドに至る全街道沿いに設けられ、そこでお茶を飲んだ者は真実を知った。はじめのうちは、神聖な飲み物を探し求めている賢者ぶった人々が、次のように叫ぶのがよく見られた。「何だ!これはーただの乾燥させた葉っぱではないか」とか、「異国の人よ、私が所望しているのは神聖な飲み物なのだ。それなのに何故、あなたはお湯を沸かしているのだ」とか、「これが本当にお茶だということを証明してみろ。だいたい、これは黄金色ではなく、土色をしているではないか」と。

しかし、お茶の実態が知れ渡り、味わいたいと思っている全ての人々の舌に入るようになると立場は逆転し、仰々しくもったいぶって語る者はまったくの馬鹿者だと思われるようになった。そして、その状況は今日に至るまで変わっていない。

ほとんどすべての神秘家たちによって、さまざまな飲み物が、高次の知恵に結びついた象徴として用いられてきた。最も最近登場した飲み物であるコーヒーは、ダルヴィーシュのアプー・アルハサン・シャージリーが、アラビアのモカで発見したとされている。スーフィーやそのほかの神秘家たちが、ワインや生命の水などの「魔術的な飲み物」は、霊的な体験の比喩であると明確に述べているにもかかわらず、物事を字義通りにしか解釈できない修行者たちは、そのような伝説の起源を飲み物の中の幻覚作用や酩酊作用に由来すると信じ込む傾向がある。スーフィーたちによればそのような考えは、比喩的に語られている.ことを理解できない修行者達の無能力さを表している。

スーフィーの物語    イドリース・シャー
平河出版社より

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