生きるって何だろう、そんな事を柄でもなく考えてしまう事があるんです。

 私の人生は、普通の人よりもきっと幸せな部類に入ると思います。

 絶望の淵に居る自分に光明を与えてくれる先輩。
 
 大した垣根も作らないでくれて、それでも此処ぞと言う時自分の事を慕い頼ってくれる後輩。

 そして辛い事も楽しい事も分けあえる同輩の仲間たち。

 こんなに素晴らしい人達に囲まれた自分はきっと幸せな人間なんだと思います。

 だから、だからこそ私は自分がとてもずるい人間だと思うんです。

 こんなにも持っているのに、私の一番欲しいと思っているものはその中には無い。

 それを得ようとすれば私はきっと全てを失うと言うのに、それでも求める手を引っ込められない。

 きっとその手が求める先に届いた時、私は深い絶望に叩き落とされると言うのに……



 
 それは6月初旬の火曜の事。全三日間にわたって繰り広げられる試験という名の戦事、その二日目。弥生と椎名は今日終わった試験の余韻に浸りつつ雑談に興じていた。

 「……誕生会?」
 「そそ。明後日は麻子の誕生日じゃん?」
 「そっか、じゃあ誕生会はうちでやろう。そうなると、プレゼント買わないとな……試験自体は明日昼で終わるけど、校則で部活しちゃいけないから明日買えば良いか。あの子何を貰うと嬉しいかな」
 「じゃあ身体を差し出す事だ」
 「それで喜ぶのはアンタだけだ」
 「まあ良いや、実は私はもう買ってるんだ。会の買い出しは私がやるから、弥生はプレゼント選んでくると良いよ」
 「ちなみに椎名は何を?」
 「言っちゃうと面白くないよね~……何だその目は」
 「いや、嫌な予感しかしないなと思って」
 「親しき仲にも礼儀ありだよ弥生、誕生日に碌でもないものをプレゼントしますかっての」
 「あんたから礼儀という言葉が出るのか」
 「まあ私のセンスに嘆息、もとい感嘆すると良いよ。弥生もセンス溢れるプレゼントを期待するから」
 「……う~ん」

 ……………

 ………

 …


 職員室で弁当を食べると言うのは当然だと思っていたけれど、意外とそうでもないと言う事をこの学園に赴任して知った。この学園は質の高い学食があるからだそうだけど。一度ついてしまった習慣と言う物は中々崩せない物で、今日も少数派ながら弁当である。
 にしても、今日で試験も終わりか。センター試験も意識して俺の担当する物理学は最終日に行われるのだけれど、二三年全員担当しないといけない代わり理系しか選ばないうえに物理を選択しない子も相当数存在するので採点に時間がかかり過ぎると言う事はない。
 思えば連日徹夜だったからな~と硬化に硬化を重ねた肩をぐるぐると回す(軋む音の酷さに自分で引いた)、採点が終わったとてやる事は山積みなんだけどね(特に三年にはしっかり目をやる必要があるし)。
 昨晩の内に付け込んで下味を付けておいた生姜焼きの弁当を軽く平らげ、テストの採点に入る。とりあえず三年のから……

 ……………

 ………

 …

 この街の桜は一般的な常識とかけ離れ、初春だけのものではない。5月から6月、年によっては7月頭まで咲いていると言うから色々心配になってしまう。
 そんな桜に願掛けて、この街はいたるところに桜の木が植えてある。この街に住んでいて桜の花びらを見ない人間は居ないと言っても良い。生活を親に完全依存し永年部屋に引きこもっても居ない限りの話だけれども。
 と言う事でほどほどに仕事を済ませた俺は家で私服に着替え(普通にTシャツにジャケットを重ね着、下はGパン)、翠蓮通りの南地区にやって来ていた。街に出るのも久しぶりだ。と言うのも普段多忙なせいで当てもなく人混みの中に飛び込んでいく事に辟易していただけなのだが、今日ばっかりはそうも言ってられない。にしても何を買おうか……

 「あっ、せんせ~」

 人混みの中に居てもそのよく通る声と人目を引く容姿は気付かないはずはない。天地だった。そうか、今日は部活休みだった(と言うか休みにせざるを得ない)っけか。
 人混みを丁寧にすり抜け、彼女は手を振りながら此方に走ってきた。普段は二つ結びにした艶のある髪を今日は後ろでポニテにしていた。服装はいつもの制服だけど。

 「お久しぶりです。意外と私服も素敵ですね。いつぶりですか?」
 「お前の中では俺が試験監督をしてた今日の物理試験は無かった事になってるみたいだな」
 「あ、いや~……もしかして採点終わってます?」
 「点数は明日テスト返すからその時に分かるだろうけどな」

 まあそこそこに親しい間柄だとは言っても、一人だけ贔屓するわけにはいかない。それにこの口ぶりだと大体分かっているのだろう(記述式の問題を多くしていると言う理由もあるが、基本的に物理は思ったより点数が出ない事はあってもその逆は滅多にない)。叱るのは明日まとめてやろう。平均点低かったし。

 「んで、今日は何を?」
 「あ~、今日は調整に出してたトランペットを引き取りに来たんですよ。明日から部活ですし」
 「そう言う事か。試験中でもないと調整出せないからな。俺は打楽器担当だったから管楽器のその辺の苦労は分からんけど」
 「そう言えば先生も吹奏楽人でしたね。しかもその界隈じゃ相当な有名人だそうで」
 「……知ってたのか」
 「ええまあ。そんなに多くある名字じゃないですしね。知ってる人は知ってるんじゃないですか?」

 多少狼狽するも、以前演奏会の選曲をしようと言う時に昔の曲を調べていたら行きついたらしい。特定された人間の心境ってこんな感じなんだろうな~。
 こう言う時ばっかりは彼女の鋭い目つきとにやりとした口元が恨めしい。

 「まさか先生が課題曲作曲者とは……世の中って狭いですねぇ」
 「まあ、あんまり広めないで貰えるか?」
 「良いですよ、まあうちのブラスの人間全員知ってますから私一人の口塞いでも無駄だと思いますけど」
 「」

 人がごみごみしていなければ『orz』みたいな体勢でくず折れる所だったが、一応そう言う事をすると邪魔なので自重する。そうか、明日から色々めんどそうだな。試験中で良かった。と言うか試験勉強で詰め込んだ知識がその辺の記憶を排除してくれてると助かるんだけどな……
 と、天地は急に神妙な顔つきになった。

 「唐突ですが先生、今好きな人とか居ますか?」
 「ホントに唐突だな……」

 お前たち一人一人が大好きだよ、なんて下らないテンプレ聴きたいんじゃないなら、居ないよ……と素直に、しかし素っ気なくそう言った。教師だって人間だ、しかしそれでも俺みたいに仕事に傾倒するとどうしても恋愛より他の事が先に来てしまうからだ。誰かを好きになる余裕が無い。

 「家と学園往復する以外ほとんどコミュニティ無いし、職場恋愛とか俺に出来ると思うか?」
 「ええまあ。生徒に手を出すと色々問題ですしね~。良かったですね先生、弥生がセクハラで訴えてたら教鞭をとる前に先生の教師生命終わってましたよ」

 にまっと笑う彼女。日の光をその桃色の頬が照り返して輝かしい。やめてくれないかなそう言うの。

 「あれは俺の所為じゃないだろ……まあ、そうだな。可愛い子は多いと思うんだよ、お前も含めてさ。ただ、どんなに可愛い子が居たって、その子に手を出してその子の人生を邪魔したくは無いんだよ。普段からそんな事思ってるわけじゃないけど、無意識にそうなってしまうらしい」
 「人生の、邪魔、ですか……」
 「珍しく考え込むな。俺の授業の時もそれくらい頭を使ってくれると嬉しいんだが」
 「それとこれとは別なんですよ。まあ……いいです」

 はぁ、やれやれと彼女はため息をつく。別に彼女に対する満点の答えを模索した訳ではなく、ただただ素直な感想を口にしてみただけなのだが。彼女が求める答えとは違っていたのだろうか。

 「何かあれだな……もしかして、俺の事が好きな奴でも居るのか?」
 「私は好きですよ、とりあえず。面白いですから。まあ他にも不特定多数いるんじゃないでしょうかね」
 「何かテンション違くないか?」
 「さあ? じゃ、これにて」

 ぺこりと一礼し、彼女はとっとっとと駆けだしていった。いちいち行動が突飛だ。まあ知りあって二月くらいで生徒の事を理解しようなどおこがましいか。ましてや自分のような新人など。
 ……と、こんな事をしている場合では無い。買い物にどれだけ時間がかかるか分からない以上早くやってしまわないとまずい。特に店を探して無かったのは大誤算だ、何処に何があるやらさっぱりわからない……あ。
 そんな俺の目に飛び込んで来たのは長い髪を青いリボンで一つにまとめた女性徒の姿。何と言う僥倖。行き恥をさらすだけの事はある。

 「お~い、弥生~」
 「あ、先生……」

 手を振りながら彼女の元へ駆け寄っ……て行くわけにもいかないので、淡々と彼女の元へ歩み寄った。
 先に生まれただけだ。

 ちょっとだけ先にこの世に生まれただけ、別に彼女が自分より劣っている訳ではない。

 むしろ、自分より優れているくらいだ。

 それでも、社会の規範に縛られていると知ってか知らずか、俺を慕ってくれる。頼ってくれる。

 そんな彼女がとても愛おしくて、当然のことであるはずなのに、それが長く続けば続くほど、彼女は自分にとって特別な存在になっていく。

 でも悔しいけれど、考えてしまう。自分と彼女が同級生だったら。

 社会的立場が何ら変わりない二人であったなら。

 彼女は自分を慕ってくれるだろうか。俺は彼女を愛しく思うだろうか。

 俺は思うかもしれない。だが、彼女は間違いなくそんな事はしないだろう。

 それくらい、俺の恋はずるくて一方的で勘違いも甚だしいのだ。


~Espressivo~

 ……………

 ………

 …

 「よ~し、今日は此処まで。次の時間学年集会だから遅れず行くように」

 木漏れ日が机を照らす物理室での授業が終わる。こんな天気のいい日にボイル・シャルルがどうだの気体の状態方程式がどーのこーの夢の無い話をしたくはないのだけれど、まあ大事だから仕方がない。
 次の周回は中間試験前に喝を入れる的なもんで、うちの学園では頻繁に行われているらしい。生徒の足取りも割と重い。それを俺は押し押しやらないといけないのだけど。

 「あっ、せんせ~」
 「ん、どうした天地」

 吹奏楽部のトランペット奏者、天地 麻子が教科書とノートを持って教卓前にニコニコしてやってくる。何だろう、どこか板書を間違ったりしただろうか。
 子犬が尻尾を振って喜びを前面に押し出そうとしている時のような、目をキラキラ輝かせた彼女。何だかな~、別に良いけど。

 「せんせ~って、何か好きな食べ物とかありますかっ?」
 「また所帯じみた質問だな……」
 「良いから良いから」
 「そうだな、基本的には和食が好きだ。塩気のきいた天ぷらとか、肉じゃがとかも良いな」

 とか何とか言ってて思い出した。何か教頭が言ってたな、今度調理実習があるとか。まあ何クラスもあるクラスが同じ学習容量で授業を進めるのだから当然調理実習が何度も行われる訳だが。
 大体どの学校でも担任の先生や教頭や校長や家庭科の先生は生徒の作った料理を頂けると言うイベントがあるわけだが、そう言う事なのだろうか。
 う~ん、色々と考えを巡らせる。素直に嬉しいけど、和食って結構難しいんだよな。もっと『ハンバーグが好きです』とか言えば良かったかな。
 それはそれで、どうにも大人な回答で無いような気もするし。気を遣って簡単な料理にするがいいか、イメージを上げるためにもオサレな料理にするがいいか。考慮するべきは前者だが、あまりにそれを優先すると逆に気を使わせてしまう。焼鳥と言ってローストビーフを持ってこられても困る。
 それを考えると、和食なら何でもという回答はなかなか紳士的じゃなかったのかな~とか思っている間に俺の視界から女の子たちは消えていた。


 「先生和食派だって。よ~し、愛しの先生のために美味しい和膳を作ろうじゃないですか」
 「ほんとに、麻子も好きだね」
 「いやいや、だってカッコいいじゃん。ちょっといじめたくなるところとかも可愛いし」

 学年集会、人工的に光を遮られた閉鎖的な空間の中で、弥生と麻子は前に立って熱く力説している学年主任などどこ吹く風、傍に人無きが如く小声で雑談に興じていた。
 これが歩きながらの雑談だったら足音にちゃぷちゃぷ擬音が混じるような声の弾み具合、ともすれば後ろから教師に後頭部を叩かれない事も無い。
 実はこの後に家庭科の授業が入っているのだが、テーマが『和洋中のどれか一つをテーマに一食分の料理を作成する』と言うもの。
今日計画や材料の見積もりなどを行い、来週調理を行う。且つ班ごとに先生方に料理を食べてもらうと言うありがちなイベントがあり、それを彼女はねらっているのだ。
 別に誰にどの班の料理を食べてもらうかは決まっていないのだが、そう言うのはあまり彼女の中では関係ないらしい。

 「と言うことで、私の恋の成就のために、色々協力してね」
 「はぁ……」

 「さ~て、どんな劇物を仕込んであげようかな」
 「ヤンデレ……」


 「じゃあ今日のHRは終わり」
 「きり~つ、れ~」

 別に毎度の事ながら大したことは言えないけれど、HRも終わり、生徒は散り散りになっていく。部活に出かける者、家に帰る者それぞれだが、そこそこの活気には満ちあふれているようだった。
 さて、俺は仕事に戻らないとな~とか考えながら書類を抱えて職員室に戻ろうとすると、澄んだ声が俺を呼び止めた。

 「先生」
 「ん、どうした弥生」
 「いえ……この前私が提出した添削課題がまだ返却されていないので、いつごろになるやらと」
 「あ~……あれか」
 「……はぁ」

 いや、もうマジでごめんなさい。ぬる~い風が俺の頬を撫でて去っていき、目の前の女生徒は心底ケダモノを見るような目でこちらをチラ見する。

 「お前さえよければ今日でも……ただ、今日は部活だろ?」
 「今日はどうせ病院に行かないといけないので、遅刻していきます。5時まででしたら大丈夫ですが」
 「わかった、せっかくなんで一緒に回答解説しよう」

 職員室の一室、通称『説教部屋』に彼女を案内する。別に説教をしたいわけではないのだが、壁一枚隔てた職員室にどんな怒鳴り声も届かない防音性がとても教師陣に優しい設計になっている。
 一応使用目的があれなので生徒はほとんど近づかないのだが、部屋の造り自体はくつろぎ空間と言っても差し支えない場所になっている。良い感じに日差しは入ってくるし、風通しも良い。

 「すぐ持ってくるから、ちょっと待ってて」

 俺は先生方が飲む為に置いてある麦茶を自分のコップに注いで弥生の机の上に置いて、彼女が出してくれた添削課題を取りに行く。
 こう言うとき自分の周囲が散らかっているのは致命的なのだが、今回ばかりは奇跡的にすぐ見つかった。

 「にしても、部活しながらよく頑張るよな~、俺は到底無理だったってのに」
 「先生と一緒にしないでください。あ、お茶ありがとうございます」
 「ん、いやいや良いって。ちなみに洗ってはいるけどそれ俺の湯呑みなんで。間接キスとか気にするって言うなら……ん?」
 「……別に、良いですけど」

 いや、良くないでしょ。頬が赤いですよ弥生さん。

 「んじゃ、とりあえず採点するか……と、大体合ってるけど、微妙なミスが目立つかな~」
 「あ、この問題こうやって解いて良いか怪しかったんですけど、それで良いんですか?」
 「あ、うんそんな感じ。ただ、これは単純な積分ミスだな、間違って微分してる」
 「あ、あんまり自信がなかったもので……最後あたりは少し適当に」
 「まあ考え方が分かってれば良いんじゃないか、次は解けるだろうし」

 完全無欠に見えてもこういう微妙なミスや展開の引き出しの乏しさが垣間見られるのは少しだが安心できる。自分も力になれているようで、少しばかり安心できるのだった。
 彼女は笑うととても可愛らしい。花畑で肌に感じる馥郁な風のように爽やかで心地よい。普段からずっと笑っていてくれればいいのに。

 「先生」
 「んっ、ああ……ごめん、ちょっと考え事してた」
 「私、ちゃんと成績伸びてますか?」

 唐突にそんな事を聞かれた。絶対にそんな事を聞かれるはずがないと思っていただけに、返答に詰まる。
 喉の奥に栓をされたような不快さに身震いし、ごくりと唾を飲む。

 「私、理系科目が苦手で……この前の模試もろくでもない点数でしたし」
 「大丈夫だって、お前は本番に弱いだけで、よくやってるよ。すぐに結果なんて追いつくさ」
 「……でも、私結構先生の添削受けてますよね。一人だけ……それなのに、中々上手くいかなくて」
 「おいおい、先生なんてもんは生徒に頼られてナンボの職業なんだぜ?」

 確かに、彼女は理系科目が苦手だ。最初の印象が強かったので意外だったが、基本的に彼女は文系科目が得意で理系科目はそれほどでもないのだ。才能に関しては絶望的だと言っても良い。
 それでも彼女は精一杯努力する。分からない所は何時間かけても。要領の悪かった自分がとある問題を解くのに1時間半かけたのとは比べ物にならないくらい。その熱意は研究職にこそ向いているのに。
 だから、多少口は悪くても俺は彼女のひたむきさをとても愛しく想っていた。だから何と言うか、うれしはずかし何とやら。こう言うイベントが俺にもあるんだな~と感慨深くなる気持も少々、それが無いと言えば流石に嘘になる。
 少し暑くなって来たので窓を開けようと席を立ち窓の前に移動した。毎回思うがここの立てつけはあまりに悪すぎる。がたがたみしみし言うのを必死で動かそうとしていると、後ろから弥生が俺を呼ぶ。

 「せっ、先生……」
 「……ん、どうした? 別に手伝ってくれなくてもいいぞ、これくらい俺一人で……」

 窓のロックに手をかけ、下に引く。フリーになった窓のつまみに、俺は指をかけた。

 「私……」

 窓を開けた途端。今春何番目だかの強烈な南風が強烈に吹き込んだ。風は悪戯に駆け抜け散らかった部屋の書類を散らかし去っていく。此処が職員室でなくて良かった(広義では此処も職員室なのだけど、此処の書類が吹き飛んだ所で元に戻せば問題はない)。弥生は吹きとんだ書類の片づけを淡々と手伝ってくれた。もう淡々と。それが当たり前のことであるか用にその所作には無駄が無かった。

 「すまん、ありがとう……んで、さっきの話は?」
 「……いえ、何でもありません。それでは、部活に行ってきますので」

 スカートの埃をぽんぽんとはたき、弥生は教材をまとめた。春から夏にかけての吹奏楽部はどこもかしこも忙しい、全国レベルで活躍するこの団体なら当然のことだろう。担任としては部活動にはひたむきに打ち込んでほしい、自分が精一杯やって後悔しなかったように。

 「では……失礼します」
 「おう、頑張れよ」

 柄でもなく親指を立てる俺に、弥生は桃色の微笑みを返した。
 口を開けば、いつだって悪口ばかりで。

 よくもまあそんなに言葉を紡ぎだせるものだと感心して。

 そして落胆する。

 認めたくない、自分のこの気持ちを。

 こんなにも好きなのに、好きになってはいけないのだから。




~Children's Desire~



 「ったく、何処行ったのかね弥生ってば」
 「いつもそうだけど、そのバイタリティはどこから出てくるの?」
 「分からんかな~麻子は。登山家に何故山に登るのかって訊くくらい愚かだよ。尋ねられそこで私は答えるのさ、何かカッコ良いから!!!」
 「いやいや、何も心揺れ動かないんだけど」

 ちっちっちと指を振る少女。うわーウザい。声をかけるべきか本気で迷う。だがまあここは頑張ってくれ。

 「まあ話はそれたけど、これを叩き台に言おうじゃないか。どうして揉むのか、そこに上記する頬がぁ」 
 「いや、お前ら何してんの」

 昼休みの職員室前。廊下で何やら物騒な会話をしている女性徒たちに俺は我慢できず声をかける。つやのある黒髪を二つ結びにした彼女はうちのクラスメイトの『天地 麻子』、もう一人の眼鏡は確か看護科の『末詰 椎名』(すえつむ しいな)だったか。どちらも吹奏楽部員と言う事で覚えるのは早かった。

 「おやおや、女の子同士のエロトークに殿方乱入ですか。どんな誘い受けですか通報しますよ」
 「いや、むしろお前を名誉棄損で通報するから……で、あらかた椎名の悪ふざけだろうが、お前も止めてやれよ麻子」
 「私は世話係じゃありませんから」
 「おいちょっと待て。私は珍獣か」
 「淫獣でしょ?」

 下らない乱闘が始まりそうだったので、職員室前であんまり物騒な話すんなよと忠告だけしていそいそと立ち去ろうとした。が、思い出したかのように(ちょっとわざとらしいぞ)椎名が踵を返した俺を呼びとめる。

 「あ、先生。此処に来るまでに、弥生見ませんでしたか?」
 「いや、別に。何か用事か?」
 「あ、いえいえ。別に大したことじゃないんですが」
 「あ、じゃあ会ったら伝えといて下さい。お前の操は今日限りだと」
 「いや言わねぇよ。俺が通報されるわ」

 ちぇ、と舌打ちをする椎名をなだめる麻子。二人はまた活動に戻るようだ。さて、俺も昼休みが終わるまでに仕事を……

 「あれ、弥生じゃないか」
 「ひゃうっ!!!!!!!!」

 廊下の曲がり角にぴったり背中をくっつけてさながらスパイ大作戦の如き体勢に俺は面食らったが、相手はそれどころじゃなかったらしい。初めてこんな可愛い悲鳴を聞いた。

 「椎名と麻子が探してたみたいだけど……何かあったのk」
 「先生!!!!!!!」

 雨の中捨てられ三時間くらい経過した末に餌をちらつかせる人間を見た子犬のような純朴なうるうるとした瞳で、珍しく彼女は懇願した。

 「何でもしますから、少しの間匿って下さい!!!!!!!」


 ……………
$羅月 ~月影の島~


 ………

 …

 「おー、二人とも~」
 「しぃちゃん、今日もこっちでお昼?」
 「しゃあなし、うちのクラスのお友達は彼氏とイチャこらラヴ注入だし」

 昼休み冒頭、窓際の陽光がきらきらと照らす区画を乗っ取り麻子と一緒に弁当を食べようとしていた弥生の元に、ゴゴゴゴゴ……と言う擬態語ひっさげて『奴』はやってきた。
 中型と大型の巾着袋を二袋、片方は弁当が入った普通のタイプでもう一つには学園指定の体操着が入っている。この事象から『彼女は弥生達とご飯を食べ軽く、いや重度に談笑し、五限目の身体測定の為にわざわざ教室に戻るのもめんどいと言う事で一緒にお着換えに行く』と言う筋書きが弥生の演算結果としてはじき出されたのだが。
 概ね間違いではない。今まで頻繁に繰り返されている事だ。物語が無限ループしていると言われても信じようではないか。

 「今日のお弁当は手作り?」
 「ん、頑張ってみた。どうせあんたら同じもんだろうから、彩りを添えたいな~と思いながらおかず交換を申し出たい」

 麻子の予想通り手作りだった(寮のおばちゃんが作る物を買うこともできるが、女子力向上と銘打って彼女もルームメイトと一緒に朝食作りに励んでいる)。ん、いつものこれだよねと弥生は油揚げの巾着を椎名の弁当箱の蓋に取ってあげる(どうせほっといても取られるし)

 「これ美味しいんだよね~、油揚げにハンバーグの材料入れて、しょうゆベースのタレに永いこと漬け込むんだっけ?」
 「いや、そんな熟成するまで付け込んだりしないからね? せいぜい半日くらいかな。ね、弥生?」
 「うちのお母さんが得意でさ。嫁入りの武器として一つはあっても悪くないってのを帰省のたびにちょいちょい教えてもらってるんだ」
 「ん~、羨ましいなそゆの」

 三人は互いの弁当をぱくつきながら何でもない話に華を咲かせる。麻子が六限の数学の問題当たっている事だったり、椎名がこの前の介護実習で患者のじじいのベッド下のエロ本を発掘した話だったり(おいやめろと二人がかりで止めた)

 「にしてもさ~お二人さん、今日の五限って身体測定じゃん?」
 「そうだね~、太ってたらやだな~、弥生はその辺心配なさそうだから羨ましいよ」
 「私そんなに食べないし太らないからね~、二人ともそんなに太ってる感じでは無いでしょ?」
 「別に良いのだよ、太っても……あの部位なら、な」

 椎名がチラッチラッと弥生を見ては視線をそらす。正確には弥生の顔の下を、だが。

 「いやいや、もう三年目の付き合いだから慣れてるけど、いい加減にしないと警察呼ぶよ? お嬢様学校なんだから悲鳴一つでSPが馳せ参じるってのに」
 「音に聞くが弥生女史、前回の測定時よりも幾分ふくよかになってはいないかい?」
 「はっ……そう言えば、する必要なんてまるでないくせに、何か胡散臭いダイエット敢行して、ウェストが細くなっただけかと思っていたけど、まさか……」
 「私の審美眼を舐めてはいかんよ。才能豊かな人材と豊かに育った豊穣の化身を見つける事に関してはあの勅使河原先生をも唸らせたと言う話だぜ?」
 「勅使河原先生何やってんすか……って言う話だけどさぁ……どうなの?」
 「え……ええ?」

 普段なら止める立場の麻子が先に立ちあがり、じりじりと距離を詰めてくる。猫科の獣の襲い方だ。いつ飛びかかってくるやらわからない。

 「ちょっ……いやいやいやいやそれはまずいから。人目人目!!」
 「どうでも良いけど、(目人目!! )で何か顔文字っぽいよね。しかも何かエロい目つきだよ」
 「偶然の産物!!? いやまずいから、これ文字じゃないと伝わらないから!!!」
 「まあ良いではないか……と言う事でだ天地よ。身体測定によってあのエロい女保険医に同胞が凌辱される前に、救ってやるのも武士の情け」
 「……共闘しますぜ。キミがっ、泣くまでっ、揉むのをやめないっ……と言う事で」

 「「宜しい、ならば戦争だ」」


 「いぃいいぃいいやゃあぁあああああああーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!!!」


 ……………

 ………

 …


 「……素直に助かりました」
 「よっぽどだな、まあお役にたてて何よりだけど」

 あの後俺は事務室に保護する形を取り、ひたすら各クラスに配布するプリントの印刷やら授業や自主学習の為に使うプリントの印刷を手伝ってもらった。先生方も何が何やらと言う感じだったが、『生徒をこき使う先生』よりも『先生を手伝う生徒』の方に目が行ってくれたようで、俺の処遇は安心な感じだろう。

 「それにしても、大変ですねこれ。印刷するのは楽だろうし学級通信も先生が作るわけじゃないにしても、授業のプリントは先生が手描きだったりどっかから引っ張って来たりなんですよね?」
 「まあな……ま、それくらい俺も問題を解きまくって来た訳よ」
 「……引き出しは素直に負けを認めましょう」
 「……ほう、まあ俺くらい簡単に越えてくれ。越えて損はないだろ」

 生憎T大の物理の問題を解いて興奮していた高校生時代のある俺に死角はないのだが、それはまあまた次の話に。

 「そういや最近また何か本番に向けて練習してるだろ。エル・クンバンチェロとかあの先生が振るのか?」
 「今度のは学生指揮が指揮するんで、そう言う羽目を外した選曲が出来るんですよ」

 エル・クンバンチェロ。何と言うか、聞きゃ分かる生粋の名曲。各パートの随所に見せ場が用意されており、目立ちたければいくらでも目立てそうなそんな曲。ただ遊び心だけで出来るほど簡単な曲でもなく、木管楽器は高音だろうと低音だろうと目まぐるしい連符に指を疲弊するそんな曲だ。

 「他にも色々楽しい曲やるんで、客引きお願いします」
 「何と言うか……意外とフレキシブルに活動してんのな、お前らの部」
 「まあ顧問の先生は厳しい人ですが、この伝統は長いこと続けていく中で培われてますから、今更あの先生にも崩せませんよ」
 「なぁるほど、ただあんまり歓迎はしてないって事だ」
 「まあ……だから遊びではありますけど、しっかりした音色で音楽は作りますよ」
 「……ん、良いじゃん。暇があったら見に行くわ」
 「さてと……そろそろクラス別に身体測定ですね」

 弥生は持っていたプリントをどさっと落とすと、事務室をすたこらと出て行った。

 「では、失礼します」

 ……ん~、運ぶ所までやってもらうつもりでいたから、最初刷る予定だった倍近く刷ってしまったんだけどもなぁ。
渡り廊下で私は貴方に相談を受けました。

 『好きな人がいる、だけど自分がその人と付き合うと色々問題があるのだけど、それでもこの想いは止められない』と。

 私は言いました。

 『そもそも、何で付き合える前提で話してんの? あんたとあの人が付き合えるわけないじゃない』

 酷かったと思います。けれど、けれど……

 親友を裏切ってでも、私はあの人と一緒になりたかったんです。






 「おっかえり~ん」
 「……あ、ただいま」

 学生証を通さないと入れないセキュリティのしっかりした門をくぐり抜け、何十段もの階段をかつかつかつかつと昇り(エレベーターは故障中だ、こればっかりはしょうがない)、銀色に輝くドアノブに手をかけ明度MAXの純白の扉を開くとゆるい挨拶が帰って来た。実家と同じ市にある高校とは言え全寮制が義務づけられているので、弥生はこうして同級生と相部屋を使用している。
 ちなみに貴重品は各人に鍵付きの棚などが与えられているのでさほど問題はない。家具などはお金を出し合い共用で使うことも出来るので便利だ。この寮を利用するのは基本的にいいとこの子女だし、自分もその例外にはもれないのだけれど、弥生は必要以上にお金を使いたくなかった。
 人は金持ちであることを自覚した瞬間貧民以下に落ち込む事を彼女は知っている。驕りはとても賤しいのだと幼い頃より教えられてきた。

 「ま~たサボってたんだって? 自習とはいえボイコットしちゃだめだよ、そう言うの厳しいんだからうち」
 「マコ……別に自習だからサボったわけじゃないよ。むしろ授業でも私は出て行ったんだから」
 「自慢にならないよ、それ。」

 彼女は天地 麻子(アマチ マコ)、弥生と同じ吹奏楽部に所属し、楽器はトランペットを担当している。どんな逆境においても自ら道を切り開く、そんな子だ。軽いけど根は真面目、堅いのに妙な所で規律を守れない自分と正反対な人間だと弥生は重々自覚している。まあこんな二人だけれど、何やかんやでウマの合う素敵な友人同士だ。

 「今日ね、物凄く失礼な人に会ってさ」
 「失礼な人?」
 「うん……とりあえず細かい所は端折るけど、濡らされてブラとパンツを見られた」
 「それはその端折った部分が九分九厘弥生に非があるような気がするよ……」

 取り込んだ洗濯物を淡々と畳みこむ弥生の背中を呆れ顔で流し見る麻子だった。この手の話はもう頻繁に、頻繁すぎるほど耳にするので麻子はもう何と言うか軽く同調してストレスを受け流すようにしている。それにしても……

 「……ええと、知らない人?」
 「何か、うちのクラスの担任なんだってさ。新任の匂いがした。あらかた昨日の始業式に遅刻したのかもしれない」
 「それは違った時に失礼すぎやしないかな……ん~、でもその先生と毎日顔合わせるんでしょ? 大変じゃない?」
 「そうなんだよな~……」

 なんだ、楽しそうじゃん……親友の綻ぶ顔を、麻子はにやけながら頬杖をついて見つめるのだった。


 「……と、自己紹介はこれくらいにしてだ」

 次の日、俺は担当するクラスの生徒の前で挨拶をし、名前を黒板にテンプレ宜しく書いた。改めて初見さんは読めないよな~って漢字で、正直言ってそれは分かってるからこのざわつきも多少は許容してやる。ちなみに俺の名前を最初から読めた人はいません、ちゃんと『こう言う大人になって欲しい』と言う願いが込められているだけタチが悪い。例えるならそうさな、『ghoti』をフィッシュと読ませるような、いや何でもない。
 俺は手早く黒板に書いた名前をささっと消し、ホームルームをこなしていく。丁度一限は物理生物、物理は俺の担当だったので、生物選択者を生物室に移動させ物理選択者を指定の順番に並び直させた。

 「今日は最初の授業と言うことで、去年一年間習ってきた事の復習用のテストをします」

 えー、なんだよー、ありえねー……と方々からヤジが飛んでくる。そんなことくらい予想していたさ。ただこれを一喝して強引にまとめたいわけではない。それは生徒達の性格をある程度でも理解していない今やるべきではない。
 どうでもいいけど、意外と男女比が変わらないんだな~と感心する。大学時代は理学部の物理学科なんて男女比10:1くらいでも女性陣が多いと言わせるような場所なのだけれど。物理で飯を食って来た自分としては物理に興味を持ってくれる女子高生が多いと言うのは嬉しい。

 「問題自体は全て基本的な内容です。解けた人から持ってきて下さい、時間内なら何度持ってきても良いです。分からないところは聞きに来て下さい」
 「先生」

 生徒から手が挙がる。弥生だった。すっとした、身体に一本垂線でも引かれているのではないかと思うくらいほれぼれとする姿勢に少し見惚れるも、白々しく名簿を見る振りをして名前を呼んだ。明らかに睨まれたが。

 「……南」
 「それってテストじゃないんじゃないですか? 一発で満点の人も、10回だしてやっと満点になる人も同じなのは不公平じゃないですか」
 「俺は試験を全て成績に結び付けることはしないつもりだ。今回は抜き打ちだ、基本的に試験は準備して受ける物だから、一度も授業をしていない俺が俺自身の意見で作った試験を解かせるのはフェアじゃない。分かるな?」
 「……無意味な、ただのコミュニケーションですか?」
 「違うな」

 俺は生徒に背を向け黒板に分かりやすく図を書く。大半の生徒がメモってくれるのが嬉しい。それだけに、生半可な板書は出来ない。

 「この授業の成績は宿題の提出状況と学期ごとの試験の点数でつける。そして頑張る生徒は間違いなくいい成績が残るのは保証する」

 ただし宿題は理解が見られるまで再提出させること、他人の回答を真似た者には同じ種類の問題を追加で出すと言うことを明示し、分からない場合はいつでも質問に来いと指示した。

 「今回の全員の出来を見て、授業の進行のやり方、宿題の難易度や量を考える。じゃあ始めてくれ」

 俺が大学で塾のバイトをしていた頃からやっているやり方だ。まず問題を解かせる。そして間違っている所を理解してもらい、本当に理解したのなら解けるはずの問題を解かせる。
 一度理解できた内容なら忘れてもすぐに思い出せる。忘れて思い出し手を繰り返しているうちにかならずそれは忘れないようになる。
 俺は外の桜が風に舞う様子を適当に目でおいながら生徒を待った。

 「先生」
 「ん、どうしt」
 「出来ました」

 弥生だった。試験開始から20分経っていない。息をするように問題を解かなければ辿りつけないタイムだ。別にタイムアタックをするつもりではなかったのだけど。
 何となく嫌な予感がして赤ペンのキャップを外す。ボールペンでは無く水性のマジックペンだった。そして嫌な予感はえてして的中する。キュッと一閃、キュッ、キュッと○二つ。そして最後にキュッと切り上げる。

 「……満点だ」 
 「それで……そうなった場合私はどうしたらいいんでしょうか?」
 「……追加で持ってきてる、これを解いてくれ」

 成程、先輩の教師陣がのきなみ太刀打ちできなそうな対応をしていた理由が分かった気がした。準備していなかったわけではないのでよかったが、これで時間稼ぎできるだろうか。
 手渡したプリント2枚を冷淡に受け取ると彼女は席に戻る。机に着いた途端に目の色が変わる弥生に少々辟易しながらも、果敢に問題を解き続ける教え子たちを見渡し心の中で応援するのだった。


 結局一回目の授業は終了した。みんな良くできた子だ。時間内に解き終わらなかった生徒はほんの数名で、その生徒達ももう少し時間があれば終わるだろう。
 みんなそこそこしっかり出来る子達だった……一人を除いて。

 (南、弥生か……)

 南 弥生……彼女は、彼女だけは別格というか、理の範疇の外に居る気がした。それでいて、いかにも普通なのだ、あの子は。普通でない事を彼女は普通にやってのける。それが彼女の普通であるように。
 仲良くなる、ならないではない。そう言う次元の話では無く。彼女と言う人間は、俺なんかでは永遠に理解できないような気がした。




 「先生は吹奏楽の経験があるそうじゃないですか」
 「あ、はい……」

 放課後、次の授業で使う教材を職員室でまとめていると不意に声をかけられた。振り返ると、大柄で快活な中年の教師が立っていた。知らない顔では無い、正直な所一度会っている。

 「それでいて趣味は作曲、いやはや物理教師で居るのが勿体ないくらいですな」
 「はぁ……先生は、音楽の勅使河原先生でしたよね」
 「おっと、自己紹介がまだでしたな。この学園で音楽を教えている、吹奏楽部顧問の勅使河原大五郎(てしがわらだいごろう)です」

 どこかの塾で塾長をしているかのような圧倒的画数のその先生は(字画数えるのめんどそうだな)手慣れた所作で名刺を取り出し机に置く。同じ物を実は持っていたりするのだが、この人が忘れているなら良いだろう。何にせよ、敵に回すと面倒そうだ、相手がどんな腹であれ(メタボは最初から分かってる)友好的にしておかなければ。

 「聞いてますよ、この学園の吹奏楽部の噂は。ええと、確か全国大会で20年連続金賞だとか」
 「おお、我々の事をお目にかけて頂き光栄です。しかし……納得などしてはいない」

 20年連続金賞、それは称賛されるべきだ。しかし納得などしていないと言う。
 窓を風が殴る。春一番と言う奴か。舞い上がる桜の花びらは百花繚乱の美しさで無く自然の暴挙を形容しているような気がした。
 それくらい、心中穏やかでは無かった。自分など容赦なく薙ぎ払われてしまいそうな嵐に自分は対峙していた。

 「まだうちの吹奏楽部は全国一位にはなっていない。九州にも近畿にも、関東にもまだまだ強豪校はある。私はその中でこの学園を一位にしたいのですよ」
 「……………」
 「うちは特待制度も取っている、楽器も定期的に一番良いモデルを揃えている。私のような立派な指導者もいる。ならば……」

 ~勝てないのは、生徒の努力不足でしょうに~


 ……………………

 
 ……言葉が出ない。ああ、一瞬言葉を失った。いや忘れた。自分が今までどのようにして言葉を発していたのか、それを瞬時に忘れさせられた。
 こんな事を考えている男が指導者なのか。信頼はどうした、絆はどうした。自分が信じていた吹奏楽はそんなものでは無かったはずなのに。
 と同時にしまったと思った。自分の意識が自分の元を離れている間自分はどんな顔をしていただろう。きっと好意的な印象を受けてはいないはずだ。どんなに胸糞悪い相手であっても、彼は上司であり古参なのだ。自分ごときが一生かかっても埋められないような圧倒的な差を持っているのだ。

 「……気にいらないと見えますな」
 「……申し訳ありません、よく知りもしないのに」
 「正直ですな、嫌いでは無いですよ……まあ良いでしょう、今日は合奏です、一つ私どものバンドの音を聞いて行ってくれませんか?」

 にべもない。まだがんがんと痛む頭をぶんぶんと振り回すと、俺はその申し出を受けた。このバンドの実力は大体分かっている。指導者が変わっておらず全国区での成績がそこまで変動していない以上、自分が昔指導に行った時とそこまで実力は変わらないだろう。
 あの時感じなかった違和感を、自分は感じなければならなかった。音楽の道に足を踏み入れてから今まで、一度として認めなかったやり方がある種の完成系であるかどうかを。


 音楽室は屋上に隣接した場所にあった。ドア一つ隔てた先に広大な緑色の床が広がっている。
 それにしてもまあ……広すぎだろう。50人以上の吹奏楽部員がベタと壇上に残らず入っている。加えてその二倍から三倍の客員を導入出来そうな鑑賞スペース。普段は椅子を反転して授業に使っているらしいが、それにしたって多すぎだ。学年全員一度に授業出来そうである。
 とか思っているとどうやら部長らしい女の子がいち早く俺に気付き、全員気をつけの後勅使河原先生(と俺)に挨拶してくれた。

 「お、南じゃな……」

 俺は最前列に立ったすまし顔の生徒に目をやる。彼女は一旦俺を見たそぶりを見せたが、すぐにそっぽを向いた。つんとする擬音が此処まで聞こえてくるようだ。

 「さて、それじゃあ聴いていてもらえますかね……エルザ、最初から」

 はい!、と歯切れのよい返事で生徒達が楽譜をめくる。リヒャルト・ワーグナー作曲の歌劇『ローエングリン』より『エルザの大聖堂への行列』、第二幕のクライマックスで名を隠した騎士ローエングリンがブラバンド公国の公女エルザ・フォン・ブラバンドと二人で聖堂へ入っていく名場面、本編では不気味な終わり方をするのだが、この場合は綺麗な協和音で終わる。


 冒頭から弥生のフルートソロ、そして連なる静かな木管の旋律、音量指定はpなのだが、コンダクターの指揮にしっかり音が乗っている。
 生徒の努力が足りないなどどの口が言った事か。確かに上手い指揮だ、それは間違いない。だが、指揮者の意向を汲んで演奏できる奏者の存在が指揮者にとってどれほど有難いものか。
 それにしても上手い……音の一つ一つが咀嚼できる、噛めば噛むほど味が出る。気付けば片目を瞑っていた。
 ……と言うわけにもいかないので、再び目を開ける。いつしか曲もクライマックスに入っていた。層が一枚、また一枚と厚く、熱くなっていく。
 そして全ての層が共鳴した時。シンバルが高らかに鳴り響くと共に指揮棒が全パートを編み込み、圧倒的な音圧がだだ広いホールを埋め尽くした。
 ……まずい、指揮棒が下りてもその余韻が耳から消えない。病院行った方がいいのか。確かにこれなら欲が出るのも無理はない。十分に日本の頂点に立つ実力はある。

 「……お恥ずかしい物をお見せしましたな。どうでしたか?」
 「……誇張無しでお願いします。このバンドは、現時点で今演奏したよりも上手く演奏できる技量があるんですか?」
 「成程……それが貴方の答えですか。質問に質問を返すのはどうかと思いますが、まあ良いでしょう」

 勅使河原先生は生徒達にてきぱきと気になった点を伝え、新しい楽譜を取りに行くとかでまた下に降りて行った。
 何と言うか、むかついていたのは変わらない。ただ、あの人は凄すぎた。指示も的確、指揮も上手い。圧倒的技量に裏付けられた自信があるのだろう。
 もっと機械的で冷酷な音がするかと思っていた、音楽を全く楽しんでいないようなサウンドが飛んでくると思っていた、それは容易く裏切られてしまったのだった。


 「……と、お疲れ様、南」
 「……何で来たんですか」
 「いや、勅使河原先生に呼ばれてさ……てか、上手かったぞソロとか。まあ最後少しミスったのは個人的に気にしてるかもしれんけど」
 「っ……!!」

 殆ど弥生しか見てなかったのだ、彼女が顔を一瞬しかめたのを見逃すわけも無かった。そこだけ高音域のオーケストレーションが乱れたし。あからさまなイージーミスだ、先生もそこは指摘していなかった。

 「……別に、たまたまです」
 「そりゃ、ミスはたまたまだろ。気にすんな」
 「……れのせいで……」
 「ん?」
 「何でもありませんっ!!!」

 怒られてしまった。薄い頬が桃色に染まるのを俺は見逃さなかった。こんな表情もするんだな、ミスして逆切れなんて言うと言葉は悪いが、可愛い所もあるじゃないか。


 その夜、寮にて……

 「ま~だ気に病んでんの~? 大丈夫っしょ、あんくらいでトップ降ろされたりしないって」
 「う~~~~~~~……」

 弥生は布団にくるまってみの虫のように身悶えしていた。

 (言えないよ……言えないにきまってるじゃない……)

 言えるわけがないのだ、彼女には。

 『誰のせいで失敗したと思ってるんですか!?』なんて。

 『先生に見られて、先生を意識しすぎて、気が散ってしまったから』なんて。

 例えそれがこの前の悶着のせいであって、別に好きでも何でもない男の事であっても。

 プライドの高い彼女にとって、それは認められるはずのないものだったのだ。
以前上げた作品に加筆修正を施したものです。続きを楽しみに待って下さっていた皆様には本当に申し訳ないのですが、もう一度お付き合いいただければと思います。


プロローグ~Angelic-Breese~



 夢を見ていた。
 あの日、両親の仕事の都合で初めてこの町に来た日。
 初めて出会った初恋の人は既にお腹が大きくて、その事実を当時はあまり意識してはいなかったけれど。
 両親の仕事の都合、教師である以上同じ土地に留まれない自分だったが、その街だけはずっと心のどこかに引っかかっていて。

 そんな街に、まさか教師として戻ってくることになるなんて……

 なん、て……



 『いっ……』

$羅月 ~月影の島~


 『いやぁあああーーーーっ!!!!!!!』


 『Spring-Breese-Memory~南風の街~』


 「全く、初日からこれとは……」
 「返す言葉もございません……」

 私立『翠蓮学園』、桜舞う季節、風薫る坂を歩きながら俺はこの場所にやって来たのだった。
 そんな場所で一日目から全身ずぶ濡れ、しかも女生徒と一緒に。春とお昼時、加えてこの地域は年間を通して温かいとの事だったが、それでも時折吹く風は濡れた体から容赦なく体温を奪う。
 初めの仕事がこれとは運が無いの極みだ、非常に辛いスタートである。

 「お前もお前だ南(みなみ)、補習をサボってあんな所で……」
 「……………」

 少女は露骨に嫌そうな顔をする。悪いのは自分だろうに、あたかも俺が騒ぎの発端を作ったと言わんばかりのその表情。初対面だからいいがこれが長年お互いを知りつくした関係だったら……いや、それでもきっと自分は彼女に何かするというわけではないのだろうけれど。
 いかにも優等生と見える容姿(素行はとてもそれとは似つかわしくなかったが)の彼女、漆黒の艶めいた黒髪にきりっとしたつり目、締まった口元とすらっとした肢体。こう言うと変態くさいが、彼女はとても魅力的だった。大人びていると言っても良い。むしろ年をおうごとに腰の重くなる大人の女性よりも大人びた、近寄りがたい雰囲気を彼女は持っていたのだった。
 こう言う時はどうすればいいのだろう、考えて止めた。この学校の門をくぐった初日に生徒とだけでなく先輩教師と揉めるのはまずい。保身と取られても構わないが、組織に所属する以上人間関係を築く事には割と労力を割かないといけないのは当然の事だ。それを当然と思わなければ社会は、特に教育現場の労働環境はあまりにも厳しすぎる。
 一目で体育会系と分かるその男性教師(生徒指導の腕章が左腕に装着されている、一日中付けているのだろうか)は何を言っても無駄と悟ると大きくわざとらしくため息をついて、此方を向いた。暖簾に腕押し、何を言ってもとりわけ話を聞く風でも無くかと言って詰めよれば訴えられるのは自分である。その上普段から優等生で通っている彼女(此処に来るまでに聞いたが成績は学年でも上位らしい)だ、彼も持て余しているのだろう。と言う事で白羽の矢は此方に立ったのだった。

 「全く……先生も先生ですよ、別に彼女の更生を何て無茶はいいませんから、せめて被害の無いように上手い事連れて来ていただければよかった物を」
 「すいません……」
 「……しっかり指導お願いしますよ。3年Dクラス担任」
 「はぁ……ん?」

 彼女の耳が少しだけぴくんと動いた。ちらと此方へ向けた視線、しかしそれはすぐにそむけられる。
 生徒指導の先生は『後は先生に任せるから今後このような事が無いように』と言い残して生徒指導室を後にする。そこで初めて彼女は口を開いた。

 「貴方がうちの担任なんですね」
 「やっぱりか……」
 「諸事情で始業式に間に合わなかったと聞いてますが、遅刻か何かですか?」
 「いや、そう言うわけじゃないんだけど……あ、ごめん自己紹介がまだだった。おr」
 「3年Dクラス、南弥生(みなみやよい)、と申します。生徒会で書記を担当しています」

 決然とした態度で彼女は、弥生は述べる。普通に敬語を使っているはずなのだが、彼女からは敬意など欠片ほども感じない。

 「ま、まあ……これから宜しk」
 「近寄らないでください変態」
 「なっ……」
 「人の下着をみておいて、よくそんな悪びれもせず……呆れます」

 何のことはない、池の前で座り込んで何かしていた彼女に道を聞こうと声をかけただけなのに激しく驚かれ池に落ち(浅い部分だから良かったものの)、助けようと手をさしのべたら丁度股を開く形で尻餅をついていた彼女の……

 「……ゲフンゲフン」
 「白々しい……それでは、私は一度お風呂に入りたいので」
 「いや白いのは弥生の」
 「何ですか?」
 「あ、いや……ごめんなさい冗談です」
 「はぁ……別に新任の先生を初日から懲戒免職にするつもりはないので安心して下さい」

 それだけ言って彼女は、弥生は指導室を後にしようとする。扉に彼女の細い指が引っかかり、するすると扉が開いていく。
 流石に初日から舐められすぎだろ、しかもこれから一緒に過ごすクラスの生徒に。そう思って俺は立ち上がり振り返り。

 「ちょっと待てよやよ……」
 「名前を呼び捨てにしないでもらえますか先生」
 「あ、はい……」

 ガタッと扉が閉まる……何かもう、初日から軽く凹まされた。ううん、これからやっていけるのかな俺。


 それが、俺と彼女の出会い。
【参考】2chで有名なコピペ
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あのさ、おれも君たちの大嫌いな在日だが。在日3世。
別に嫌われようが何されようがこっちはどうでもいいよw

日本という国における「楽して稼げる職業」は在日・帰化人が握ってるし(笑)
金あるから在日でも日本人女とやりまくり。さらにはレイプしても全然バレないw
あと数年で日本の参政権も取得できるし(爆)

俺達はもうお前達みたいに毎日毎日職業とか将来とか金の心配なんかしなくていいんだよw
バックに総連や創価学会がついてるし、働かなくても行政から月20万の金入ってくるしねw
今俺達が考えてるのはもっと大きいこと。
いかにしてこの日本という国をボコボコにいじめ抜いてやるか、ってこと。

つまり、日本の中に、俺たち朝鮮人、韓国人の血を増やして在日を増やす。
んで日本人を少数派にしてその日本人をいじめたおす。んでこの国を乗っ取る。
今はもうその最終段階に入ってるわけ。
平和ボケした危機感ゼロのお間抜け日本人は気づいてないがw

例えば韓国ブーム。あれは在日が作ったって知ってる?
あれだけ大規模なブームを作れるくらい、もう日本の中で在日の力は最強なんだよ。

自分達を地獄に導いてるとも知らずに毎日毎日テレビで韓国をヨイショしてくれる日本人w
韓国ブームのお陰で在日や韓国人へのマイナスイメージがプラスイメージになった。
そして日本人が韓国人や在日と結婚する数も圧倒的に多くなった。
つまりもうあと30年で日本は完全に在日主体の社会になるよ。

たった100万人に満たない在日に使われる1億人の日本人w
お前ら糞日本人に一生地獄の生活を見せてやるよw

どう?ムカムカする?(爆)
でもせいぜい今みたいに2ちゃんで数十人ぐらいがチョン死ねって言うぐらいだろうね(爆)



これ全部本当なのです。事実はもっとひどいけど。

韓国はなぜ『反日』か
本当は1,2もあるのですが、別に中国韓国の悪口を聞いてもしょうがないと言う人の為にまずは3から。具体的には『過去に日本がどれだけ尽くしてきたか』ではなく『今現在、どれだけ日本が無益な援助を行っているのか』を感じてもらえればと思います。

どれだけネット上で真実を叫んでも、こう言った話を知らない人々は大体TVや新聞しか信用せずそもそもネットは怖いから見ないと言う人々だったりします。
それでも、大仰に構えられたWebページで無く私のようにゆりゆららと構えているブログならふらと立ち寄ってくれた方が見てくれるかもしれません。
そう言った方々が一人でも真実を知ってくれたら、それは無駄ではないと思うのです。

少なくとも、自民党がまた政権を取ってくれたら良いな。それだけでも大分違うのですよ。

まだ日教組、在日、違法賭博(パチンコ)、K-pop、捏造韓流ブーム、捏造慰安婦問題、地球温暖化詐欺、電通、他にもせん滅すべき対象はたっくさんあるのですが、一つでも潰していけたらなと。
はい、指揮者講習会及び指揮者コンクール、関係者の皆様本当にお疲れ様でした。

とりあえず私のような特に何の威厳も無く無駄に年だけ食ってるような残念極まりない先輩であっても先を行く輩として後輩にこの行事の素晴らしさを伝えないといけないわけで、眠い目を擦りながら頑張ります。
これで熊大の皆様が指揮者講習会に少しでも興味を持ってくれたら、それはとっても嬉しいなって。
まあ普段二次創作ば~~っかり描いててそろそろ愛想尽きてる感満載の私の日記をちゃんと後輩が読んでくれるかは心配だが。


んで、指揮者講習会ですが。

一日目。
とにかく楽器吹く。

二日目。
朝から晩まで楽器吹く。

三日目。
某先輩が『クラパートで食べようよ~』と言って下さった矢先にN田先生にからまれまともに会話も無く昼飯が終わる。周囲的にはメシウマだったらしい。やっぱり一日中楽器吹く。

四日目。
指揮者コンクール。


おい楽器吹いてるだけじゃねぇか。てか三日目のリハは何度出て行きたくなった事か。トゥーランドットがゲシュタルト崩壊ですよ。思わず中間部に日本語の歌詞をつけて歌っちまったよ。
つーわけでヴィ~ンチェロ~~~~(訳:私は勝つ。元々誰も寝てはならぬはカラフ王子が三幕で歌うのですが、自分の名前をトゥーランドット姫が当てたら王子の負けなのです。絶対に言い当てられる物かとアリアの最後で『私は勝つ』と高らかに歌い上げるのです豆知識)

本番は感動しました、あゆちゃんお疲れ様。指揮者の皆様も毎晩夜な夜なお疲れ様。副指揮の皆様もお疲れ様です、今後に期待してますよ。

そしてモデルバンドの皆様……俺、この指揮講が終わったら、告白するんだと言う死亡フラグは合演で経験したのでそんな事はしないのですが、本当にお世話になりました。もっと上手くなってお会いしましょう。もうあれです、次はどんな楽器でやってくるか分かりませんよ。

今回一番有益だったのは福工大の人達と仲良くなれた事ですかね。神がかった存在として一線を画していた存在だったのですが実際話してみるととても普通の人達で安心しました。
実際九産の上さんも福工のしょーごもそうですが、B♭クラじゃなかったら彼らとそこまで深く絡まなかったのかなと思うとB♭クラで出た甲斐もあったってもんです。まあ同じ部屋だし十分にからんだろうけど。
木低の皆様、一緒に絡みたかったです。特に四年の神な先輩方とは共に演奏できる最後の(?)機会だったのに……追いコンで会いましょう。木低ハートはメンタルの根源をまだまだ支えてますよ。
とりあえず毎晩きっついなか夜遅くまで眠らない214号室でしたが、某4年のカリスマな先輩二人がひたっすらに場を掌握するので私のトークスキルはさほど発揮されず。
福工の女性陣には『プライベートタイム』が好評だったご様子。今回は下ネタ成分少なめで控えめにお送りしておりましたとも。何と言うか、上には上がいらっしゃる。
今度はGの話や輪ゴムの話、北風と太陽の話とか色々させて下さい。


とりあえず楽しかったです。目をつぶると思いだせるんだあの時のドンチャンが。皆も出ようぜ指揮講。ってのが言いたかったのさ。

合演三部にも出られてた方は追いコンで再会するのを楽しみにしてます。物理的距離は気合いで埋めます。
まあそっちの追いコンの次の日が熊大の追いコンとは完全に予想外だったけど、どっちもクールにこなすのが俺クオリティっすよ。
登場する人
 俺(まあ私)
 Y(男、Farfrom努力)
 M(女、リアルではデレ無し)

 2010,2/14(日)……


 「二人とも、今日の模試の結果どうだった?」

 木を枯らすほどの風が吹き荒れる中、三人は落ち葉のサクサクとした踏み音を楽しみながら駄弁り帰っている所だった。

 城壁の中に作られた高校に入学してから三年、三人は同じクラスで同じ吹奏楽部に所属する腐れ縁だった。

 「ええっと、613点。生物が満点だったのでね」
 「チクショウ物理選択者Disってんじゃねぇぞ。毎回物理より生物の平均点が高いって何なの死ぬの?」
 「俺物理満点だったんだけど」
 「「知るかい!!」」
 「てかあれだろ、お前地理とか散々だったろ」
 「数学と物理と化学が9割行ってんだから大丈夫じゃね?」
 「ぐぬぬ……」

 正直、よほどの事が無い限り三人の順位は固定だった。俺はそう簡単にはYに勝てなかったし(殆ど努力らしい努力もしてない所が腹立たしい)、Mさんにはそう簡単には負けなかった気がする。

 それでも、三人はいつでも試験の度に互いの成績を開示し、何が勝った何が負けただの傍から見たら下らない論議で盛り上がっていた。

 とりあえず二人は俺を貶められればいいらしい。そんなんだから俺も合計がどうのとかそう言うのには興味が無く、あの問題良かったよな~とか俺の物理舐めんなよとかくっだらない話で盛り上がっていた気がする。

 雪が降ってきた。お濠の水面(みなも)に粉雪が落ちてはふっと散って消えていく。雪のお陰か知らないが身を凍えさす風もほぼ無くなっており、ただただ幻想が周囲を埋め尽くすのみ。

 まあ下らない談義の中にあってはそんな情景もどうでも良いわけで、三人は色々論戦をかましながら行きつけの本屋の前にやって来ていた。

 「ってまた此処か。お前も毎回好きだな」
 「何の本が入ったかとか、何が売れたかとかそう言うのを見るのが良いんだよ」
 「はあ、まあ良いけどさ、ちゃんと英語の課題もやってこいよ」
 「何それ」
 「「いややれよ。お前二次試験で使うだろうがよ」」

 頭にふりかけられていた粉雪を払い落し、Yは狭い本屋の中へと消えて行った。

 「あいつ大丈夫かな……」
 「英語以外満点でも受かんないかもね」

 一応彼が受ける大学はちゃんと英語もかなり高配点であるのだが、当の本人に基本やる気が無いので何と言うか不安だ。まあ何とかするだろ自分の人生。

 一人減った。百メートルちょいのバス停まで来るとまた一人減る。ただそこまでは。

 「んで、Mさんはどうなん?」
 「まあ……行けるんじゃないかな。うちの受けるとこはそんなにレベル高くないし」
 「そうでもないと思うけど……何か、皆合格出来ればそれでいいんだろうけどね」

 それが出来ないから、皆最大限の努力をするのだけれど(まあ何事にも例外はあるわけで、それははるか後方に転がっていたりした)。

 「とりあえず、650くらいあれば良いんじゃね」
 「数学がね~、1Aも2Bも9割方取れればもっと上まで行けるんだけど」
 「俺は数学と物理と化学だからな~、Yが聞いたら発狂して喜びそうだ」
 「発狂はしないでしょ畑田君じゃないんだし」
 「いや俺発狂しないし」

 そうこうしているうちにバス停のある所まで来た。二人きりの時間は終わりだ。後は潮風にあおられながら家路に着くだけ。

 「んじゃ、また明日ガッコで。数学の宿題当たってんだからちゃんと解いてこいよ」
 「あ、畑田君」
 「ん、どした……っと」

 金のモールで縛られたストライプのビニール袋、中から甘いにおいがする。

 「へえ~、ナイス女子力」
 「まあバレンタインだしね。Yにもあげたやつだし、あげるよ」
 「ん、ありがとな。後でブログにでも上げるかな」
 「あ……」

 「あいつには、出来れば内緒にして欲しいな」

 ……………

 「ん」

 肯定とも否定とも取れないようなあいまいな返事で、俺はその場を後にした。

 頬が上気していた。炬燵に入ってるときみたいだった。


 そしてその役一月後。俺は熊大、Yは九大、Mは福教大にそれぞれ合格を決めたのだった。


 三月末日、俺はMさんを見送るべく空港までやってきてた。

 「またそうやって金を使う……」
 「親が予約したんだからしょうがないでしょ」
 「チクショウセレブが……頑張れよ」
 「うん……あ」

 思い出したかのように、荷物の中をまさぐる。藍色の地味な紙袋に何か入っている。

 「もう使わないから……あげる」
 「ん、ありがとな」
 「それじゃ、またいつか」

 改札をくぐり、スーツケースをガラガラ引かせて彼女は小さな島から九州一の都会へ旅立って行った。


 紙袋の中には、彼女が高校時代使っていたらしいリボンが入っていた。
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妄想が生み出した虚構の産物です。大筋は実際にあった事です。

高校時代モテ子だった私は同級生の女の子から脱いだ制服をわざわざ『脱ぎたて』とか言って渡されるくらいモテ子だったのです。すんません嘘つきました半分嘘です。制服脱ぎたては本当です。

そもそも発端は『来年妹が入学するから同級生から制服とか体操服とか貰って来い』と言う母からの無茶苦茶なミッションでした。マジ止めて下さい俺社会的に死にます。ちゃんと熊大進学決めたんだから。

ブラスの同級生に助けを求めたら意外と簡単に了承してくれて、そんな悶着もありたしか二着くらい貰ったのかな。体操服も多分一式か二式くらい。お名前の所に畑田と書かれた中学時代の私の体操服のネームタグをつけて何とかするっぽいです。

あの頃は私もガキだったので、別に何もイけない事はしてませんよ。

あと、実はYもMもマイミクです。と言うかMさんごめんなさい多少反省してます。
苦言を呈させていただくなら、折角希少な男子がいるんだからブラス時代にチョコくらいくれてもよかったじゃないですか。


あ、今年はチョコは四人から頂きました。みんな美味しかったです。お返しは真面目にしようと思います。今年は買ったもん+αにしようそうしよう。ぶっちゃけ大人数に作りでもしない限り手作り高いんだぞ自重しろ。
女の嫉妬


「それにしても、あなたS君と付き合い始めたってだけで女を敵に回してるっていうのに…ちょっとは自覚持ちなさいよ」
「あはは、この連休は彼と別荘地で二人きりなんて、皆にバレたら殺されるかもね」
「まったくもう…」
「しかも避暑地だから、夏が過ぎたらもう誰もいないの!いいよぉ、二人だけの世界って感じ?」
「もうシーズンオフみたいね、うるさいくらい鈴虫鳴いてるのが聞こえてるわよ」
「あ、聞こえる?そうなのよ、そっちはまだでしょ?ここはもう秋よ」
「まぁね…ところで、変な人とか熊とか気をつけなさいよ」
「大丈夫だって、携帯も通じるし」
「あ、ちょっとまって背中かゆい… ごめん、片手包丁でふさがってるの」
「ごめん、これから料理するところだった?」
「まぁそんなところかな、いいの、もう半分は済んだから」
「忙しいときに電話しちゃってごめんね、なんか彼の帰りが遅いから寂しくなっちゃって」
「いいのいいの、じゃまた後でね」



この真相を誰か解いてみよう。



ヒントが欲しい方はコメントをよこすのだ。へけっ。
 某先輩に『原作知らないからとっつきにくい』との指摘を受けまして、久々にオリジナルものです。

 化物語、と言うか西尾維新の影響を受けて文体があれな事になってます。特に後半はひたすらSS風味です。

 昨日雨の中夕食の食材とかウィスキーとかと一緒にチョコケーキの材料も買いに行ったのですが、その帰り道に思いついた話です。

 こんくらい一時間かからず書ける、私の妄想力はまだまだ捨てたもんじゃない。
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 2/12(日)



 「遅いです」
 「……無茶言うな」

 街路樹がバンザイなしよってくらいしなりまくってる中、夕食の食材を買ってくるついでにしこたま色々注文を付けてきやがった無粋な妹の第一声がそれだった。

 数日インフルで寝込んでいる妹に何か買ってきて欲しい物を聞いたらびっしり材料の名前が羅列された短いメモを渡されたのだ。兄貴としての温情を垣間見せようとしたらこんな目に遭ってしまいやれやれと言った所ですよ。

 窓は雨と風のセッションが鳴り響く。ガンガンと打ちつけられ、よくもまあ俺はこんな中を買い物に行って来たもんだと感心してしまった。

 妹は汗でほんのり蒸れたピンク色のパジャマをだらしなく着ながら眼をこすりこすり一階に降りて来た。よほど俺がちゃんとお使いが出来るか不安だったらしい。

 「ん~……大丈夫みたいですね」
 「俺何歳だと思ってんだ。少なくともお前より年上なんですけど」
 「今までの過ごしてきた人生の密度は圧倒的にお兄ちゃんを上回ってると思います」
 「んぐ……とりあえず、熱は下がったのか? これだってバレンタインの素材だろうにお前自身が学校行けなきゃ興ざめだろ」

 そう、妹に頼まれたのはバターや薄力粉、ココアパウダーやベーキングパウダー等など。そして時期的にも明らかにバレンタイン御用達の素材だ。妹の体調が壮絶に酷いこの状況では流石に手慰みとは考えにくい。

 「ちゃんと当日には治る算段でいるんです」
 「じゃあ最初から体調崩さない算段でいろよ」
 「インフルはまだ地球人じゃ超越出来ない相手何だからしょうがないじゃないですか」
 「知らねぇよそんな事。どうでもいいから寝てろ、すぐ夕飯作って持ってくから」
 「今日は何?」
 「オリーブオ」
 「病人にギトギトの油もの作らないでください」
 「冗談だって……」

 別に某番組に影響されている訳ではないのに。良い年したおっさんがオリーブオイルを買っていくのを見ると少し笑ってしまうそんな俺だよ。

 

 2/13(月)

 「遅いです」
 「え何これ無限ループ? エンドレスな八日間!?」

 今日から長いテスト期間からも解放され、吹奏楽部で届いたばかりの課題曲を吹きまくって意気消沈しながら帰って来た俺をエプロン姿の妹が出迎えてくれた。

 まあ出迎えてくれたなど所詮幻想でしかないのだが。てかこいつ元気だな、今日も今日とて休んでたくせに。

 「もう少し早く帰って来てくれたら味見くらいさせてあげたんですけど」
 「別に良いよ……てか、甲斐甲斐しいな、彼氏とか無縁のくせに」
 「別に彼氏じゃ無くても、大切な人にあげるくらい何でもないです」
 
 別に鍋がことことしてる訳でもないし、そういやそもそも俺は昨日チョコを依頼されてはいなかった。うちの冷蔵庫は俺が管理しているのでこいつは家に何の食材があるか知らない(てか実際チョコのストックは無い)、チョコ使わないのだろうか。

 「ふ~ん……じゃあ俺にもくれたり」
 「どこの三次元世界に、だらしない兄に義理でも手作りチョコを渡す妹が居るんですか」
 「あ~……はいはい」

 黙って引き下がる。それにしても大分予想と違うものだ。チョコを湯煎でとかすわけでもないし火を使うでもない。ただチョコレート色のドロドロした液体をへらでかき混ぜているだけだ。

 妹はまだ頬が赤い。ぽーっとした表情は可愛いが少し不安になる。まあ火器を使うわけでもないし大丈夫だろう。俺はスコアの読み込みの為に二階に上がろうとした。

 「お兄ちゃん、明日貰うあては?」
 「無い。別に良いだろ、周りには嫌われてるわけじゃない。付きあってもいない奴に渡そうなんて天使が俺の周りには居ないだけだ」
 「つまらない兄ですね……じゃあ、もしお兄ちゃんがチョコを一個も貰えずのこのこ帰って来やがったら、罰ゲームとして私の好きな物何でも作って下さい」
 「罰って……貰ってきたら?」
 「私の大好きな料理を作らせてあげます」

 それ選択肢なしの一本道じゃないですか。どこのギャルゲーだよ。


 2/14(火)


 「よ~っす」

 昼休み。やって来たのは幼馴染だった。

 「ん、どうした?」
 「さっき下駄箱の所で妹ちゃんに会ったぞ。うちの兄は教室ですか? って言ってた」
 「妹が……?」
 「何か忘れ物でもしたのか?」
 「いや、もう昼だぞ。別に何も忘れた覚えはないし、そもそもあいつが教室に来た訳でもないし」
 「ん~、何なんだろな」

 幼馴染は長い桃色の髪をくいくいと指で絡みつけまたほどいてを繰り返していたが……一言呟いた。

 「……私の描写雑じゃね?」
 「うるせぇよ脇役」


 「……………」

 下駄箱の中には可愛くラッピングされた蒼い包み。メッセージが付いている。

 『いつも近くで見てます、お口に合えば幸いです』……か。


 「お兄ちゃん、おかえりなさい」
 「ん、今日はちゃんと学校行ったみたいだな」
 「まあ、折角作ったチョコを渡さない訳にもいかないですから」
 「それより、チョコ貰ったぞ。ちょこっとだけど」
 「へぇ~……誰からですか?」
 「さあね、でも俺の隠れファンが居るらしいと言う事は判明した。字も綺麗でかわいいし、相当な手だれと見た」

 適当な所に鞄を降ろし、居間のソファに腰かけていた妹の隣に同じく腰かける。

 外を見ると、しんしんと静かに粉雪が降っていた。多分積もらないだろうけど、ロケーションとしては中々の物だ。

 実際、空気を読まず迷惑でしかない事も多いのだけれど。

 「つーわけで気分が良いから今日はお前の好きな物作ってやるぞ。とりあえずうな丼と肉じゃがの材料を買って来た」 
 「本当!? ……くっくっく、計画通り」
 「……何か言ったか?」
 「くっくっく、計画通り」
 「隠す気無かった!!?」

 此処だけ聞くと某厨二病な妹キャラ(CV花澤)を思い起こすが、まあそれは良いとして。

 最高に良い笑顔を見せる妹に、ちょっと渋い和風の食卓を提供すべく奮戦するのだった。



 ……………

 ………

 …

 「……夢か……」

 ……そう。














 もう、『私』には、お兄ちゃんなんて居ない。

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夢オチです。まさかの妹だった。
妹のいない兄貴が生み出した幻想では無く逆ですね。正攻法と逆にするだけで随分と印象が変わります。

つーわけで、普段私の作品を読まない方にも読んでいただきたいです。

$羅月 ~月影の島~
余談ですが、画像のチョコケーキは妹が作った物と一緒です。