まだ暑さの厳しい
9月の初旬のことだった。
お風呂に入ろうと思った19時過ぎに、
見慣れない番号からの電話。
普通は固定電話には
すぐには出ない。
しかし、この日に限っては、
何故かすぐに受話器を取った。
電話の向こうの男性は、
「○○病院の消化器科の医師の
Tと申します」と名乗った。
もしかして、これって、
オレオレ詐欺の電話なのか?
と思いながら、メモを取りながら、
話を聞いていた私。
医師は、矢継ぎ早に、
「ご主人が先ほど、緊急入院されました。痛みがあるということで、
検査しましたところ、
膵臓に炎症が認められ、
ヒゾウに動脈瘤があり…
なんちゃらかんちゃら…」
だんだん心臓の鼓動が
激しくなってゆき、
血の気が引いた。
「膵臓ガンの疑いがあります!」
「単身赴任中とのことで、
緊急を要するため、
お電話を差し上げました。
すぐにでも、そちらの病院に転院されることをお勧めします。」
私のメモには、
ヒマクセイ?
テンイ、カンゾウ
コツテンイ、
CRP値イジョウetc…
ほぼ、カタカナで
聞きなれない
医学用語が並んでいた。
ここまで、医学用語が並んでいる
ところをみると多分
本当に入院したのだ。
オレオレ詐欺でもなさそうだな…
とか、突然の情報に
私の脳は理解するために
フル回転していた。
「本人とはお話出来るのでしょうか?」
「本人は今、入院の手続きを
しているので、後ほど連絡すると
思います」との返事。
まだ、きつねに摘ままれたような
感じだったが、意識がない訳では
ないことにホッとした。
何故、電話でガンの宣告?
と、いうことが
不思議に思えた。しかし、
何度もその医師は、
説明を繰り返したので、
本当に違いない。
私の思考は完全に停止してしまった。
「もう一度、お聞きしますが、
これは本当のことですか?
すぐに、そちらに伺わないといけませんか?」と、とんちんかんな質問をした。
医師は、
「本当です。びっくりされたと思います。
すぐにこちらに来ていただかなくても、
大丈夫ですが、
本人も電話すると思いますので、
ご相談下さい」と、
電話を切った。
オレオレ詐欺の電話では
なくて安心したが、
とんでもなく大変な
出来事が起きた。
思考が停止したまま、
娘、元看護師の義理姉、
義理兄に電話をかけた。
どんな説明をしたのかも、
あまり覚えていない。
それから、義理姉に促され、
夫の入院している病院までの、
朝一番の電車のチケットを
予約することにした。
自家用車でしか、
単身赴任地に行ったことが
なかったこともあり、
乗り継ぎもわからず、
あせっていたし、
指も震えていたので、
チケットの入手には、
相当な時間がかかった。
旅支度を始めた頃には
既に12時をまわっていた。
つづく。
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