退職金の法的性格については、「賃金の後払い」としての性格と「功労報償」としての性格が混在しているとの理解が一般的です。
したがって、懲戒解雇になった場合や競業避止義務違反があった場合に、退職金を減額したり、不支給にしたりする取扱いも、就業規則に適切な規定がある限り、有効だと理解されています(最判昭和52年8月9日労経速958号25頁)。
それでは、就業規則にどのような定め方をすればよいのでしょうか。
私が経験した事例に、次のようなものがありました。
X社は、次のような退職金規程を置いている。
(退職金の減額・不支給)
第○条 次の各号の1つに該当する場合、退職金の一部を減額するかないしは退職金を支給しない。
① 諭旨解雇されたとき
② 懲戒解雇されたとき
YはX社の経理職員であったが、定年退職し、満額の退職金が支給された。
しかるに、その後、Yが在職中に多額の横領を犯していることが発覚した。
X社は、Yに対し、支給済みの退職金の返還を求めることができるか。
結論からいうと、このような就業規則だと、退職金の返還を求めることはできないと考えられます。
Yの定年退職により既にX社・Y間の労働関係は終了していますから、さかのぼってYを懲戒解雇をすることはできません。
そうすると、本件では、どう逆立ちしても、退職金の減額・不支給事由に当たらないことになります。
Yが退職金を受領する前であれば、Yの退職金請求を権利の濫用(民法1条3項)として封じることもできるかもしれませんが、支給済みの退職金を不当利得として返還請求することは、理論的には極めて困難です。
したがって、使用者の側としては、次のような退職金規程を置くのがベターだと思われます。
(退職金の減額・不支給・返還)
第○条 次の各号の1つに該当する場合、退職金の一部を減額するかないしは退職金の支給をしない。なお、既に退職金が支給されている場合は、その全部又は一部の返還を求める。
① 諭旨解雇されたとき
② 懲戒解雇されたとき
③ 在職中の行為に諭旨解雇ないし懲戒解雇に相当する行為が発見されたとき
④ 退職後に守秘義務ないし競業避止義務に違反したとき
退職金は高額にわたることが多く、労使双方にとって極めて重大な関心事です。
適切な規程を設けることが後のトラブルの際に力を発揮するという一例を御紹介しました。