田村side
質の悪い睡眠から抜け出し、瞼を開けると、そこはアルコールと食べ物の匂いが充満した部屋だった。
昨夜、サークルの先輩宅で女子会をしていたが、みんな疲れて寝てしまったみたい。
カーテンの隙間からは朝日が差し込んで、時計の針は朝の6時を指していた。
狭い部屋に、5、6人が窮屈そうに横になったり座ったりして眠っていた。
この部屋の主であり、主催者の先輩は、キッチンとリビングを繋ぐ通路で寝てしまっていた。
起き上がろうと体を起こすと、右手に何かの感触があり、視線をおろすと、誰かの手を握っていた。その手の主は、私の横で寝息を立てている、1年先輩の渡邉さんだった。
急に顔が火照り、慌てて手を離した。
「、、、んぅ、、」
自分の右手を見つめ、呆然としていると、渡邉さんの声が聞こえた。起こしてしまったかと思って焦ったが、まだ眠っているようだ。
渡邉さんは、目を閉じたまま、繋いでいた方の右手をにぎにぎと動かしていた。渡邉さんの瞼が閉じていることを確かめ、不規則に指を開いたり閉じたりしている手に、そっと私の手を伸ばした。
上から包み込むように私の手を添えた。
すると、細い指が、内側から私の指と指の隙間を押し広げて、入ってきた。
彼女の指と私の指が絡まると、ギュッと軽く握ってきた。
私も同じように握り返すと、その手はまた、動かなくなった。
それがとても可愛くて、親指で手の甲をそっと撫でた。
指の腹が、渡邉さんの肌の上を滑っていく感触。
ずっとこの時間が続けばいいのに。
皆が起きたらどうやって言い訳しよう。
右手の親指を同じテンポで動かしながら、そんなことをぼんやり考えていた。
突然、右手の甲に撫でられる感触が走った。
視線をおろすと、渡邉さんが瞼をあけ、こっちを見て微笑んでいた。
さっきよりも速い勢いで、顔に熱が集まっていった。
「ご、、ごめんなさい。」
顔を直視出来なくて、下を向いたまま、手を離そうとすると、キュッと力を入れられ、下に引き寄せられた。
そのまま、渡邉さんと至近距離で向かい合わせに横になってしまった。
私と渡邉さんの間には、拳一個分のスペースしかなくて、心臓が飛び出てしまいそう。
繋いだ手が、ちょうど胸の当たりにあって、私の鼓動が渡邉さんに伝わってしまうのではないかと、不安に駆られた。
好きってバレたらどうしよう。
私の顔を見て微笑んでいた渡邉さんは、急に無表情になった。
彼女の意図を読み取れず、緊張が走る。
彼女の顔がゆっくりと近づいてきて、唇に柔らかい感触があった。
何が起きたのかよく分からなかった。
唇を離すと、普段から大人っぽくてクールな渡邉さんが、目をとろんとさせていた。
「、、、酔ってるんですか」
小さな声でそう聞くと、
「どうかな、、、。でも、本気。」
と、小さな声で返ってきた。
真っ直ぐ私の目を見つめる渡邉さんの瞳に吸い込まれそうになった。
「保乃は?」
昨晩までは私の事、田村ちゃんって呼んでたのに。
「、、、」
答えるのが恥ずかしくて、繋いだ手を握り返した。
すると、もう一度、渡邉さんの顔が近づいてきた。
「わ、渡邉さ、、」
「理佐ってよんで。」
返事をする前に、私の口は塞がれた。
何人もいる部屋の中で、起きているのは2人だけ。
2人だけの秘密の話。
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