森田side
気がついた時には、もう辺りは暗くなっていた。
青い月光を部屋の中に入れている窓は開いていて、カーテンが大きく膨らんだりはためいたりして音を立てている。
テーブルの上には"処方せん"と書かれた紙袋。
床に直に横たわっていたせいで、着ているセーラー服はくしゃくしゃになってしまっていた。
カン、カン、カン、、、
ヒールが古いアパートの錆びた鉄階段を踏む音が聞こえてきた。
しばらくして、玄関の重い扉が開き、中に人が入ってくるのがわかる。
リビングの入口に、黒い影が見える。
私は横になったままその影を見つめた。
やがてその影は私に近づいてきて、そっと私を包み込んだ。
「、、理佐」
「、、、今日は、学校行けた?」
私の制服のシワを軽く直しながら聞いてきた。
私は首を横に振った。
「駅までは行ったけど、、やっぱり無理だった、、」
「、、、そっか。、、薬は?ちゃんと量守った?」
「、、ちょっと多めに」
「、、そう。」
暗くて良く見えないけど、きっと理佐は私を哀しい目で見ているのだろう。
「私、、だめだね。、、私、何も出来ない人間だ。体が不自由な訳でもないのに。」
この時間はいつも悲しくなる。
世界が怖く感じる。
理佐は、怯える私を引き寄せて、優しく頭を撫でてくれた。
「頑張ってるよ。ひかるはよく頑張ってる」
しばらくそうしてもらっていると、だんだん心が落ち着いてきた。
「ひかる、体が冷えてる。お風呂入ってきな。」
「うん。ありがとう。」
私は制服を脱ぎ、お風呂場へ向かった。
短い時間でシャワーを済ませ、タオルで髪の水気を取りながらリビングに戻ると、理佐は窓際に立っていた。
そのシルエットは、以前よりも腰回りや腕がやせ細っていた。
カチカチカチカチ、、、
プラスチックと金属が小さくぶつかり合う音が響いた。
だから私はさっき理佐がしてくれたように、そっと後ろから包み込み、理佐の右手を優しく掴んだ。
理佐の右手に握られたカッターナイフは、すでに理佐の左手首に僅かに傷をつくりはじめていたが、その刃を引かせる前に、私はそれをゆっくり引き離した。
理佐の左手首にできた、1点の小さな傷から血が出て、ぷっくりと一滴の雫をつくった。
私はそれを舌でなぞった。
月明かりに照らされた理佐の顔を見上げると、理佐の頬には一筋の涙があった。
「痛かったね、理佐。」
私が優しく声をかけると、理佐は私の前に膝をつき、私の胸に顔を埋めて泣いた。
理佐は、前の職場で上司から嫌がらせを受けていた。今はその仕事は辞めたが、心の傷は癒えていなかった。
未だに自分を責め立ててしまうのだ。
理佐が落ち着いてきたから、私はその場を立って、ベッドに仰向けに寝転んだ。
理佐はゆっくりと近づいてきて、私の足元で止まった。
私は両手を広げ、理佐に言った。
「理佐、おいで」
理佐は私の上に跨った。
理佐の冷たい涙が、私の身体にぽたぽたと落ちてきた。
私たちはお互いの傷を舐め合い、今日も臭いものに蓋をした。
ずっとこのままでは、どうにもならないことを知っている。
でも今は、これで良い。これでいいんだ。
私たちは今宵も愛し合った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
急いで書いたので誤字脱字あるかも知れません。
Twitter▶️https://twitter.com/nemu_insui