歪み  2



森田side


鏡越しに、隣の隣に座っている由依さんを眺める。


今日は様子が違う。

悩みが吹っ切れたみたいな、曇りのない笑顔でメイクさんと話している。


別れたのかな。


鏡の中で理佐さんを探すと、後ろのベンチで静かに座っていた。誰ともつるむ様子はなく、何もせず、一人の時間を過ごしている。


あまり顔に出るタイプの人ではないが、微かに暗い雰囲気を感じ取った。


「ひかるちゃん?」


「、、、。」


「聞こえてる?ひかるちゃん」


「うぁ、え、何ですか?」


自分の世界に入ってしまって、メイクさんが話しかけているのも気が付かなかった。


「フフッ、おわったよ。」


「あ、すいません、ありがとうございます」


「最近疲れてるのかな?」


メイクさんは私を心配しつつも、夜更かししちゃダメだぞ〜、なんていいながら、首元にあったタオルを外す。


「気をつけまーす」


とりあえず、そんな返事をして、椅子から降りると、背中をポンと押された


「さっ、収録頑張れ!」


「はい!」
















収録終わり


「ゆみちゃん待って〜」


楽屋までの廊下でゆみちゃんを追いかける。


「はいはい、」


ゆみちゃんは優しいから立ち止まって待ってくれていた。


私のお姉ちゃんみたいな存在。


「どうやった?今日の収録」


「うーん、まぁ上手くいったと思っとる」


「私も!」


「いっつもあんましゃべらんけん、喋れただけいいかな」

 

楽屋に戻り、帰る支度をする。


やっぱり離れたところにいる、あの二人。


ふいに、由依さんがこっちを見たので慌てて目をそらす。


ずっと見てるのばれたかな


やっぱ別れたのかなぁ


そんなこと気にしても、どうせ私には告白する勇気なんてない。


ずっと待ってたって発展しないことくらい分かっている。


ため息をついて、楽しそうにお喋りしている由依さんを見つめた。


「ひぃちゃん、下まで一緒に行かへん?」


保乃に話しかけられ、由依さんから目を離す。


「うん!」


もう今日はそんなことを考えるのをやめて、午後はゆっくりしたかった。


「ひぃちゃんはこの後仕事?」


「ううん、今日はもう終わり。保乃は?」


「雑誌の撮影。」


「一人?」


「ううん、井上と夏鈴ちゃんも一緒」


「へえ、頑張れ!」


「うん、ありがとな」


エレベーターが上がってくるのを待っている時間は沈黙だった。


親しい仲なので特に気まずいといった感じではないけど、ずっと心に引っかかったままの事を思い出してしまう。


「あ、こっちの方が早かったみたいやな」


チンッ


保乃の前のエレベーターの扉が開いた。


小走りでそっちへ向かう。


2人でエレベーターに乗り、扉が閉まると、保乃が口を開いた。


「気にしてんのやろ、由依さんの事」


「えっ」


「えっ、じゃないわ。顔に書いてあるで。」


「別れたと思う?」


「あんなん別れたに決まっとるやん。理佐さん全然元気なかったで。あの感じやと、由依さんが振ったんちゃう?前からピリピリしてたんやろ。」


「、、まぁ、私には関係ないことだけどね」


「なんで?好きなんやろ?チャンスやん」


「好きとか言えないし、上手く言葉に出来ないし。」


「別に言葉にする必要ないやろ。」


「だって言葉にしないと伝わらないじゃん」


「そうかなぁ、保乃は伝わると思うで」


「ふーんw


「信じてへんやろw


エレベーターはすぐに1階についた。


「じゃあひぃちゃんおつかれ!」


「保乃も頑張って〜」


「うん、バイバイ!」


「ばいばーい」


向こうの角を曲がる前、保乃が、ひぃちゃんも頑張ってな、って意味でグッと両方の拳を握って胸の前で振っているのが見えた。


保乃に友達が多いのはああいう所に惹かれるこが多いからなんだろうなあ


一番最初に1階に降りてきたものの、寮まで送ってくれるマイクロバスはみんなを乗せてからいくので、みんなを待っている間、暇が出来てしまった。


いつもだったらベンチに座って、スマホを眺めているけど、そんな気分にもなれず、ただ駐車場の方を向いて突っ立っていた。


一人の時間は嫌いじゃない。


由依さんの事は、保乃とゆみちゃんにだけ話していた。2人とも私を応援してくれる。


ふと、保乃の言葉を思い出す。


『言葉にする必要ないやろ。』


本当だろうか。


テレパシーってこと?


よく分からないので深く考えることは辞めた。


しばらくすると他の子達も降りてきたのか、後ろの方が騒がしくなってきた。

 

まつりと唯衣が2人でゲラゲラ笑いながら話していた。


ま「あれ、ひかる今日帰るのー?」


「うん、今日は帰る〜」


ま「そっか」


唯「夜更かししたらあかんでぇ〜」


ま「なにそれー」


唯「さっきひかるがメイクさんに言われとってな〜、なぁひかる」


「そんな田舎臭い関西弁じゃなかった〜w


唯「い、田舎臭いってなんやねん。うっさいねん」


ま「今のも田舎っぽい」


唯「田舎ちゃうわ〜、滋賀舐めたらあかんで!琵琶湖の水停めたろか」


ま「それ京都の人に言うやつじゃん」


変なの。


そう思いながらも、2人の楽しそうな所を見ていると、自然と口角が上がる。


まつりが振り向いて、乗らないのー?と聞いてきたのでバスの方に歩きはじめた。




その時、ひかる〜、と大好きなあの人の声がして、急に背中に衝撃を感じた。


両腕でぎゅっとホールドされ、左右に揺らされる。


私を包み込む腕の主の髪からは、シャンプーのいい香りがした。


「ゆ、由依さん!?


「ひかる〜」


動揺している私をブンブンと横に振る


「こらこら、ひかるちゃん困っちゃうじゃん。」


マネージャーに言われて由依さんは手を離した。


「ゆ、由依さんなんで、、」


「今日ひかるの家行ってもいい?」


「えっ!?」


「一緒に映画みたいな〜、なんて思ってさ。」


好きな人にそんなこと言われたら断れるわけないじゃん。


きっと告白なんて出来ないけど、一緒にいられるだけで幸せじゃないか。


「いいですね。見ましょ!」


「やったー!マネージャーさん、私もこのバス乗っていい?」


「いいよ、乗せてもらいな。お疲れ様。」


マネージャーさんはテレビ局に入っていった。


「ひかる、行こ!」


突然手を繋がれて、心臓が飛び出そうになる。


そんな私をよそに繋いだ手を大きく振りながらバスに向かってスキップする由依さんとバスに乗り込んだ。