歪み


渡邉side


いつもと変わらない彼女の髪の匂い。

いつもと変わらない少し高めの彼女の体温。


私と由依は狭いベッドの上で向かい合わせになり裸で抱き合っていた。

つい先程、行為が終わったところ。


ここ数日で溜まった体の疲れ、心の汚れまでをも、彼女の温もりが浄化してくれているような気分になる。


私は、キスよりも、セッ〇スよりも、この時間が1番好きだった。

お互い、特に言葉を発さず、ただゆっくり時間の流れを感じられる。

とても心地がいい。


こんな時間がずっと続けばいい。


自分の世界に入って、そんなことを思っていたら、由依の声で、元の世界に引き戻された。


由「痛っ、、」


由依の体が少し捩れる。


自分の瞳孔が開くのがわかった。

何度も聞いたこの言葉、声。

私が一番恐れていた事。


彼女の背中には、私の短い爪が食い込んでいた。私の指は、由依の背中に4本の新しい傷を作っていた。


体が石のように固くなって、彼女の背中に爪を立てたまま、動けなくなってしまった。


由「理佐、、痛い。」


はっと我に帰り、慌てて手を離す。


理「、、、ごめん。」


体を離し、由依の顔を見た。


由依は、怒っている様子はなかった。しかし、悲しむ様子もなかった。


由依の口元が僅かに動く。何かを言おうとしては辞め、言おうとしては辞め、を繰り返している。


私はそのまま口が開かないことを願った。


しかし、そんな私の願いは届かず、とうとう由依の口が開いた。


由「あのね、理佐。」


何?


本来ならそう聞き返すだろう。

私は黙って由依の口元を見つめることしか出来なかった。


私からの返事がないことが分かると、由依はもう一度口を開いた。


由「、、、別れよう。」


驚きはしなかった。

薄々わかっていたのだ。


、、、分かっていたのに。


理「、、、うん。」


私の口から出た答えは単純な返事だった。


明日からは、ただの仕事仲間。

ただそれだけ。


そう思うしかなかった。


由依は、息を吐くような、文字にならない返事をした。


立ち上がった由依の背中は、無数の傷がついていた。

全て私がつけた傷。

私と付き合い始めるまでは、真っ白な綺麗な背中だった。

私があんなに痛々しい体にしてしまった。



肩にはポツポツと紅色の点が散っている。

私の噛み跡だ。


彼女は服を着て、出ていった。


静かな部屋。


さっきまで由依と抱き合っていたベッドに自分の体を仰向けに放る。


理「私って、最低な女。」



小林side


今日も、背中に痛みが走った。


理佐はよく私の背中を引っ掻く。

肩に噛み付いたりもする。


前の彼女にはよくやってたみたい。

その子は喜んでたらしい。


でも、私はそんなにマゾじゃない。


初めは我慢しようと思ったけど、理佐はどんどんエスカレートしていった。


お風呂に入る時に、背中がヒリヒリ痛むようになった。


『理佐。』


『ん?』


『あのね、背中引っ掻くのやめて欲しい。』


『、、ごめん!』


『ちょっと痛い』


『もうしない!もうしないから、、、別れるなんて言わないで!』


『理佐?』


滅多に泣かない人だった。でも、理佐の頬には一筋の涙があった。


『ごめん、ごめん、』


『理佐!別れるわけないじゃん!私は理佐の事が好きなの。これからはしないって言ってくれたし、過去のことはもういいよ。』


『ゆ、由依ぃい』


そう言ってたのに。


数日間は理佐の引っ掻き癖はなかった。


でもある日の金曜日。


『痛っ』


『あっ、ごめん、、、。』


また理佐が爪を立てるようになってきた。


どうやら彼女は無意識にやってしまうらしい。


でも、私の為にその癖を治してくれると思っていた。私の事を思ってやめてくれると思っていた。


しかし、それはただの願望だった。


その日から、また引っ掻き癖がでてきた。


もっと違った性癖なら我慢できたかもしれない。でも、痛みには耐えられなかった。


きっと、理佐はこういうのを喜んでくれる人といた方が満足できるだろう。


そう思い、ついさっき別れを告げた。


悲しくはなかった。


もう諦めがついたのだ。

理佐は私の事を心から愛しているわけじゃない。でも、それは仕方のないことであって、今回の恋を手放す事決心をした。


「あー、すっきりした!」


今日はよく眠れそうだ。