中国政府が打ち出した、住宅在庫の買取策が不調です。
中国政府がここに来て新たな対策を打ち出した背景には、不動産不況の出口がいまだ見えないことがあります。
中国の不動産開発投資と販売面積は2022年と2023年の2年連続でマイナス成長となっており、2024年1~4月もそれぞれ前年比マイナス9.8%、マイナス20.2%とさらに落ち込んでいます。
中国ではマンション市況が冷え込み、各地で、住宅在庫が積み上がっています。
6月末時点の新築在庫面積は、1年前から23.5%増えました。
経済・金融分野を担当する何立峰副首相は、5月17日、住宅在庫を買い取る方針を示しました。
地方政府が住宅在庫を買い取り、保障性住宅(賃貸型と分譲型)と呼ばれる中低所得者向け公共住宅として供給する計画でした。
資金面で支援するため、中国人民銀行(中央銀行)は3,000億元(約6兆円)の資金枠をつくり、商業銀行に1.75%という低利で貸し出しをします。
商業銀行は、その資金で、地方政府に対し住宅在庫の買い取り資金を再融資するという仕組みですが、この資金枠の利用が進んでいません。
6月末までに人民銀行が貸し出した額は、121億元(約2,420億円)と資金枠全体の4%にすぎません。
地方政府が住宅在庫を買い取っても、保障性住宅からの収益では、損失が出るだけと恐れているためです。
ある省都で販売する保障性住宅は、一般の住宅より5割ほど安く、地方政府が不動産開発会社から住宅在庫を買い取る際、5割値引きしてもらわなければ、最終的に損を被る可能性が高くなります。
保障性住宅を賃貸で提供しても、利益は生まれにくいと思われます。
北京市の6月の中古住宅賃貸利回りは1.55%です。
保障性住宅に限れば、利回りはさらに低く、人民銀行が資金を貸し出す際の1.75%という金利を大きく下回ります。
地方政府が、人民銀行の融資枠を使って住宅在庫を買い取っても、保障性住宅からの賃貸収入だけでは、支払う金利分にもなりません。
一方、不動産開発会社からすれば、住宅在庫の大幅な値引きは、損失を膨らますことになりかねません。
すでに赤字決算の会社が珍しくないなか、住宅在庫の売却で大幅な値引きを強いられれば、債務超過に陥る企業が続出しかねません。
地方政府は、住宅在庫の高値での買取を敬遠し、不動産開発会社は、大幅な値引きを強いられることを恐れ、両者の立場は相反していて、住宅在庫の買取策は、中国政府の不動産価格下支えのアナウンスメント効果にとどまっています。
不動産不況の抜本的解決策には、程遠い状況と言えます。