いつの間にか朝だった。


いつからそこにいたのかはわからないが

A君は私がボーっとしてるのを

どうしていいのか悩んでいるようだった。



ふと、時計を見ると

A君はもう仕事に遅刻している時間だった。

きっと、私が正気に戻るまで

そばにいてくれるつもりだったのだろう。



私はそこまでA君に

迷惑をかけるつもりはなかった。



とりあえず、カレの知らない場所に逃げて

その後の対処は

自分でやろうと思っていた。



だから


「大丈夫?・・・・・」


そう聞かれて、私は笑顔で


「大丈夫・・・・・」


そうとしか答えられなかった。




それを見たA君は

少し納得したように

じゃあ、とりあえず仕事に行って来るからと

家を出ていった。



A君が出て行って

一人になると

ずっとこのままでいるわけにはいかない

何かをしなくては・・・と考えた。


仕事・・・自分の仕事先にも

連絡をしなくては・・・・

この状態で仕事なんて行けない。



そう思い、携帯の電源を入れた。



そこには

カレの着信履歴がびっしりだった・・・



留守電も・・・


メールも・・・



カレからの着信の間には

いろいろなお友達からの着信と

メール・・・・



まず、メールを見てみると


みんな、似たような内容だった。


大丈夫?
今どこにいるの?


きっと、カレが私のお友達に連絡したのだろう。



そして、カレの留守電を聞いてみた・・・



今どこにいるの?

俺、苦しいよ・・・

助けてよ・・・




一人でいるの?

誰かといるの?




戻って来てよ・・・

俺が悪かったから・・・




オメー誰といるんだ?

誰かのとこにいるんだろ?

いい加減にしろよ!




電話に出ろよ!




一件ずつ口調が変わっていくカレの留守電に

私はまた手が振るえ

恐怖がよみがえり

息が詰まってくる



次にカレからのメールをみた。



長い文章の割には

全て私に会いたいという内容だった。


<最後に二人だけで会いたい。>


<愛してるから会いたい。>


<本当に愛してるから、何もしないから・・・>



その中には

本当に私を殺そうと思ったと言う内容もあった。



普通の人間じゃ考えられない文章。





しかし

私が一切返事を出さない事に

気づいてからは

また、いつもと同じように


<会ってくれないなら、自殺します。>

<お前に確実に迷惑がかかるように・・・>


と言うような

脅す内容に変わっていっていた。


この調子じゃ

ずっと私を探しているのだろう。


カレの性格だと

自分のお友達を使ってまで

私の居場所を探そうとするだろう。


そうなると

A君の家にいるのがバレるのも

時間の問題だと思った。


すでに、会社やお店関係には

迷惑がかかっているのだから

これ以上他の人に迷惑をかける訳にはいかない。



警察はとりあえず逃げろと言っただけで

何も教えてはくれなかった。



自分でなんとかしなくては・・・・




でも、どうやって??・・・・・・




カレが知らない人・・・

カレが知らない場所・・・

私の友達も思いつかない場所・・・


家族や親戚なんていない


どこ?・・・

どこに行けば?・・・・



ふと浮かんだのは

何年か前に付き合っていた元彼のA君だった。


もうカレしかいなかった。


別れたけれど

私の価値観の中では

一番誠実に向き合ってくれた人・・・・




泣きながら電話をかけて

取りあえずの話をすると

A君は「うちにおいで」と言ってくれた


その一言に安心し

私はカバンを持って

A君の家へと向かった。






婦警さんには電話をした。

ちゃんと家に着いた後も。


でも


今日のところは逃げるしかなかったが

この先どうしたらいいかは

教えてはもらえなかった。




ボロボロのまま

A君の家のインターホンを鳴らすと

カレはドアを開けてくれた

そして

私の姿をみて、唖然としていた・・・


動揺している私を見て

思い出しては詰まる

私の一言一言を

焦らなくていいから・・・と

ゆっくりと聞いてくれた。



そんな時

私の携帯が鳴った



カレからの着信

きっと

私が逃げられたのを確認して

警察がカレを釈放したのだろう


家に帰って

荷物がなくなってる事に気づいて

私を探しているのだろうと思うと



怖くて電話には出なかった



しかし



留守電になると

またかけてくる




何度も何度も・・・・




更に

メールまで・・・





それに怯える私を見て

A君は

「この状態じゃ

 会社にもきっとしばらくは行けないだろうね。

 どこで見張ってるかわからないかもしれない。

 うちには何日いてもいいからね」

と言ってくれた。


そして


とりあえず

車を絶対わからない場所に隠そうといって

お友達に電話をしていた。



私はもう

何も考えられず


今日一日に起きた出来事と

今もなお続いている恐怖に


息苦しさと

震える体と

体のあちこちの痛みしか頭になかった。




車を隠してから

戻ってきたA君が


改めて私を見て落胆していた。



体のあちこちの傷やアザ

怯えている私



いつも笑っているイメージしかなかったのに

弱音なんて吐くことがなかったのに

いつも前向きで、いつも強気で・・・

彼氏だった時の自分にさえも

それを貫き通してきた人なのに

それなのに

ここまで追い詰められた私が信じられないのと

そこまでの恐怖だったのだろうと感じたと

後になって話してくれた。





服も泥だらけ

髪もバサバサ

化粧もぐちゃぐちゃで

「お風呂にでも・・・・」

と言いかけて

「入れるわけないか・・・」

とため息をつきながら

A君は切れては鳴り続ける

私の携帯の電源を切ってくれた。



とりあえず、服を着替えて

その後どうしていたのだろう・・・・




記憶にあるのは



寝ようとしてウトウトすると

苦しくて目が覚める

A君の部屋だと気づいて

安心してまた寝ようとすると

うなされて目が覚める



その繰り返しだった・・・・



顔が熱かった

体が重かった

あちこち痛かった




涙はもう出なかった・・・・





私、殺されたんだ・・・・


頭の中はその思いがグルグルとしていた。




婦警さんは


「カレは何か薬でもやっているの?」


と私に聞いてきた。


「私が見た限りでは一切やってないとおもいます。」


そう答えた私に


「それであんなおかしな事をするの?」

「カレ、普通じゃないわよ・・・」と・・・・・


そんな事、私が一番よくわかってる・・・

だから、私が逃げているのに

だから助けを求めて来たのに・・・・


そう思っていると

カレの異常さに納得したのか

これからどうしようかを

ようやく考え初めてくれていた


しかし

本当なのかどうなのか


今すぐカレを警察署には留置できない。

手続きを取ってからじゃないと・・・・

それまでは、カレは自由なのだと言った。


だから

「今、彼の事情聴取を長引かせておくから

 あなたは先に家に帰って

 取りあえずの荷物をまとめて

 何日か家に帰らなくても大丈夫なように

 お友達の家に泊めてもらうとか出来ない?」

と言われた。




世の中の警察は

こんなもんなのだろうか




悪い人を取り締まるのが仕事な筈なのに




警察に対する私の思い違いがたくさんあるようだった・・・・




そうするしかないと言わんばかりに

話をすすめてくる婦警さんに

私も一緒に家に帰る事なんて出来ないという状況から



荷物をまとめて

家を出たら、婦警さんに電話をする。


無事、お友達の家に着いたら

もう一度電話をすると約束して





私は警察署を後にした・・・・




家に戻ると

はっきりと蘇る記憶

暴れた時に壊れた物やら

必死につかまった破れた服やらを見て



泣きながら

震えながら




カバンに荷物を詰めた・・・・





荷物は詰めたが

どこに行けばいいのだろう



どの場所もカレは知っている



カレの知らない人・・・

カレの知らない場所・・・




電話をかけたお友達には頼れない

そのお友達も彼は知っていたから。

女友達はみんな知っている。

もしそこにカレが来たら

迷惑をかけるわけにいかない。



誰か・・・・


誰か助けて・・・・