そんな移動する前々日だった。


警察から連絡が来て

「明日、現場検証をするから

 犯人役はこちらで用意するので

 何時頃にお願いできますか?」と言われた。




今更?・・・・・



「犯人役って・・・・何をするんですか?」


そう質問した私に警察は


「おきた出来事を一から再現してもらいます。」


そう答えたのだった。





・・・・・もう。イヤだった。





思い出すのもいやだった。

あの家に行くことすらいやだった。

再現するとなると

さらにあの時の恐怖が読みがえってくる。


事件が起きてから今までに

手続とはいえ

何度思い出させられたのだろう。



わたしはそれに耐えられなかった。



それに

傷害で訴えたとしても

逆恨みされる可能性が高いのであれば

私だけがそんな辛い思いをするのも

無意味な気がした。



警察のやる事は全て後手後手な気がした。



最初の時点で進んでいれば

私もそのまま訴えていたかもしれない。



しかし

長引けば長引く程

いろいろな物が見えてきたり

いろいろな感情が沸いてきて

何も信用なんて出来なかった。




結局、自分の事は自分で守るしかない。


警察なんて当てにならない。





私はセンターの人に


「もうやめます。」


と訴えていた・・・・・




センターの人は戸惑っていた。


せっかくここまでやったのに

訴える手続きをやめてしまう事を

一時の感情だけで了承していいのか。


何度も何度も説得された。


何度も何度も本当にいいの?と聞かれた。




でも、私にはもうこれ以上

この事件にかかわっていたくなかった。



センターの人が警察に電話をかけて

私が訴える事をやめると伝えてくれた。



警察も警察で戸惑っていた。

ここまで来て本当にやめるのか?と・・・




「あとは現場検証だけなんですよ。

 目撃者の話も取れましたし

 あなたの話との食い違いが無い事も確認出来ました。

 本当に訴えを取り下げるんですか?」



そう言われても

私にはもう、警察とすら

係わりたくはなかった。



どうせ無神経に事を運ぶだけ

仕事だからやるだけ

もっと早くに出来たはずの事なのに

センターの人から苦情を言われたから

あわてて動き出しただけの事




「現場検証をするのが辛いんです。

 それを我慢してやったとして

 それで終わるんですか?

 逆恨みされる可能性があると

 警察も判断した事なんじゃないですか?」


そう答えた私に


「現場検証した後で、また事情聴取があります。

 相手にも事情聴取をとります。

 そこで相手の話と違う部分が出てくれば

 何度か足を運んでもらう事になると思います。」


そう答えた。




二日後には違う土地に移動する私。


ただでさえこの土地自体がトラウマになるのが

目に見えているのに


カレが事情聴取でまともに認めるとは思えない。


そう考えると、私は移動した後も

何度もこの土地に足を運ばなければいけない。


その度に私は思い出さなければいけない。


そんな思いをして更に、恨まれたりしたら・・・・・





「もう。いいです・・・・訴えません。」





それしか私には答えがなかった。


そして


そう答えた私に

今まで全て後手後手だった警察は


「では、明日訴えを取り下げる為の書類を

 書きに来て下さい。」


と、言って電話を切った。



訴える為の手続きは

なかなか動いてくれなかったくせに

取り下げる為の手続きは

迅速に動こうとする警察。





次の日

警察に行き、書類を書かされた。



<この件に関しては、二度と訴えたりせず

 警察の手はてこずらせたりしない事を誓います。>


こんな内容だった・・・・・




最初から最後まで

警察にはがっかりさせられっぱなしだった。


保護命令の審尋の日がやってきた。


センターの人と裁判所へ行き

裁判官と書記官

私とセンターの女性

4人で審尋が始まった。



また1からの質問。

おきた出来事の回想

この頃には徐々に薄くなってきていた

傷やアザの当時の写真をみせられ

これで間違いないですね?と言われ

間違いありません。と答えた。




ただそれだけで終わった。



一週間後にカレの審尋を行って

それから保護命令の決定がきまります。

相手方の話の内容次第では

もう一度審尋を行うかもしれませんが

これだけ証拠があるので

すんなり通ると思います。



そう裁判官に言われ

とりあえず、一つ安心する事が出来たのだった。




私がシェルターに逃げてから

この審尋が行われるまで

2週間になろうとしていた。


センター側は

私がこの町から移動する事を進めていて

私もそれを了承していたので


センターの人にお願いしては

こそこそとお店を閉める準備や

引越しをする準備を整えていた。


と言っても

カレが家を出て行かない限り

私は家には戻れない

カレに保護命令が下り次第

本格的に引越しの準備が出来るように


まず、どこに移動するのか

移動先のシェルターと連絡を取る必要があった。


移動先も決まり

そこのシェルターに一時入居して

新しい家を探し

それからの引越しとなった。


逃げるなら早いほうがいい。


そう言われて

私も身の回りの事はほぼ片付けていた。


警察にも移動する事は伝えてあった。


今までの私の周りの環境を整えて

移動する日も決まり

とりあえず、この状況から離れられると

私は前を向きかけていた。



寝るのが怖かった。

暗くなるのが怖かった。

物音が怖かった。



日に日に私の様子がおかしくなっているのを

Kさんが事務所の人に伝えたらしい。


私は病院へ連れていかれた。


そして、安定剤と睡眠薬を処方された。


ここから私は一気に精神的に壊れていった・・・







センターの人と警察の間では

私の話をしていたらしい。


メールの内容もしかり

カレの行動もしかり


この町にいる事すら危険だと

警察にも言われていたらしい。


仮に保護命令が無事下りたとしても

それに反した行為をして捕まるぐらいなら

殺そうと思った相手なら

一回で強行してしまえばいいと考えうる。


仮に傷害で訴えたとしても

初犯なら執行猶予が付くだろう。

保釈金が払えなくても

入ってもたかだか1年やそこら

私を恨む確立は高い。

そう考えると

どちらにしても、わたしは危険な立場にいた。


仕事も辞めてしまったし

お店もたたむ事になるだろう。


センターの人達は

保護命令が下り次第

私が違う場所へ移動する事を

進めると言って来たのだった・・・・・



そう言われて、私はもうどうでもよかった。


カレから逃れられるなら・・・

この恐怖から逃れられるなら・・・・


早く忘れたかった。


もうあの恐怖を思い出したくなかった。


どうせ、何もかもが崩れてしまったのだから

誰も知らない所へ行きたいと思っていた・・・