前回は慢性疲労症候群の疾患概念と症状について書きました。では、その診断はどのようにしてつけられるのでしょうか。
慢性疲労症候群は、特定の検査で診断できるわけではなく、臨床症状から診断されます。
そのために厚労省からの「診断基準」というものと、重症度を見る「自己診断疲労度チェックリスト」が提案されています。
慢性疲労症候群の診断基準(厚労省)
診断には臨床症状を中心とした診断法が用いられており、日本でのCFS診断には厚生労働省(旧厚生省)の研究班が1991年に作成した厚生省CFS診断基準がずっと用いられていましたが、2012年に下記の新しい診断基準が作成されました。
前提Ⅰ. 病歴、身体所見、臨床検査を精確に行い、慢性疲労をきたす疾患・病態を除外するか、経過観察する。また併存疾患を認める。
前提Ⅱ. 下記の4項目を満たす
(1) この全身倦怠感は新しく発症したものであり、比較的急激に始まった。
(2) 十分な休養をとっても回復しない。
(3) 現在行っている仕事や生活習慣のせいではない。
(4) 日常の生活活動が、発症前に比べて50%以下となっている。あるいは疲労感のため、月に数日は社会生活や仕事が出来ず、自宅で休んでいる。
前提Ⅲ. 下記10項目のうち5項目以上認める
自覚症状
① 労作後疲労感(労作後休んでも24時間以上続く)
② 筋肉痛
③ 多発性関節痛
④ 頭痛
⑤ 咽頭痛
⑥ 睡眠障害(不眠、過眠、睡眠相遅延)
⑦ 思考力・集中力低下
他覚的所見(医師が1ヶ月の間隔をおいて2回以上認める)
⑧ 微熱
⑨ 頚部リンパ節腫脹
⑩ 筋力低下
★臨床症候による臨床診断★
前提Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、を満たしたとき臨床的CFSと診断する。
感染症後の発病が明らかな場合は感染後CFSと診断する。
臨床病型:気分障害、身体表現性障害、不安障害、線維筋痛症などの併存疾患との関連を次のように分類する。
A群:併存疾患(病態)をもたないCFS
B群:経過中に併存疾患(病態)をもつCFS
C群:最初の診断時から併存疾患(病態)をもつCFS
以上の全てに合致せず、原因不明の慢性疲労を訴える場合、特発性慢性疲労(Idiopathic Chronic Fatigue(ICF)と診断し、経過観察する。
★CFSを除外すべき主な器質的疾患・病態★
①臓器不全:(例;肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など)
②慢性感染症:(例;AIDS, B型肝炎、C型肝炎など)
③リウマチ性、および慢性炎症性疾患:(例;SLE, RA, Sjogren症候群、炎症性腸疾患、慢性膵炎など)
④主な神経系疾患:(例;多発性硬化症、神経筋疾患、癲癇、あるいは疲労感を惹き起こすような薬剤を持続的に服用する疾患、後遺症をもつ頭部外傷など)
⑤系統的治療を必要とする疾患:(例;臓器・骨髄移植、がん化学療法、脳・ 胸部・腹部・骨盤への放射線治療など)
⑥主な内分泌・代謝疾患:(例;下垂体機能低下症、副腎不全、甲状腺疾患、糖尿病など。但しコントロール良好な場合は除外しない)
⑦原発性睡眠障害:睡眠時無呼吸、ナルコレプシーなど。但しコントロール良好な場合は除外しない
⑧双極性障害および精神病性うつ病
自己診断疲労度チェックリスト
以下のA,B項目およびその合計の点数を計算してください。
全くない | 少しある | まあまあある | かなりある | 非常に強い |
A項目
①微熱がある
②疲れた感じ、だるい感じがある
③筋肉痛がある
④このごろ体に力が入らない
⑤リンパ節が腫れている
⑥のどの痛みがある
⑦一晩寝ても疲れがとれない
⑧関節が痛む
⑨頭痛、頭重感がある
⑩ちょっとした運動や作業でもすごく疲れる
B項目
①思考力が低下している
②ゆううつな気分になる
③よく眠れない
④自分の体調に不安がある
⑤働く意欲がおきない
⑥ちょっとしたことが思い出せない
⑦まぶしくて目がくらむことがある
⑧ぼーっとすることがある
⑨集中力が低下している
⑩どうしても寝すぎてしまう
A項目 身体的評価
(1) 安全ゾーン(0~8点): 身体的な疲れはあまりないようです。この状態を維持するように心がけましょう。
(2) 要注意ゾーン(9~12点): 少しからだがお疲れのようです。休息を取って回復に努めましょう。
(3) 危険ゾーン(13点以上): この状態が1ヶ月以上続いているのなら要注意。半年以上続く場合は何らかの病気である可能性が高いと思われます。医師と相談しましょう。
B項目 精神的評価
(1) 安全ゾーン(0~9点): 精神的な疲れはあまりないようです。この状態を維持するように心がけましょう。
(2) 要注意ゾーン(10~13点): 少し精神的な疲れがみられます。心のリフレッシュやリラックスを心がけましょう。
(3) 危険ゾーン(14点以上): 疲れに伴う精神症状が強く認められます。長く続くようでしたら専門医と相談しましょう。
C 総合評価(A+B)
(1) 安全ゾーン(0~16点): 全般的な疲れはあまりないようです。この状態を維持するように心がけましょう。
(2) 要注意ゾーン(17~22点): 少し疲れがみられます。身体的評価、精神的評価をみてみましょう。
(3) 危険ゾーン(23点以上): かなり疲れがたまっているようです。身体的評価、精神的評価をみるとともに、長く続くようでしたら医師と相談しましょう。
参考サイト
http://www.wakunaga.co.jp/health/fatigue.html
以上のように慢性疲労症候群の診断は臨床症状や経過から行われますが、診断に特異的な症状がないことにお気づきのことと思います。除外診断項目が多いということは、他の病態でも同様の症状が出ることが多いということを意味しています。つまり「症状に疾患特異性がない」ということです。
チェックリストに挙げられている症状は「副腎疲労症候群」と重なる部分が多いことにお気づきの方もあると思います。ただ「副腎疲労症候群」と違う点としては、筋肉痛、関節痛、咽頭痛などの「炎症症状」が前面に出ていることが分かるでしょう。
次回は、この「抗炎症」「抗酸化」という観点を含めて治療について書きたいと思います。