まだ60才台の女性の方が当院を受診してくださったのは10月の中旬でした。まるで臨月であるかのようにおなかがパンパンの状態で、少し動いただけでも息切れをしておられました。
基幹病院で「卵巣がん」と診断をされたのが今年の6月で、婦人科の診察医の先生は
「自分の家族なら、抗がん剤の治療は行わない」
と言われたそうです。
それから名古屋や東京の「統合医療の病院」に通われ、免疫療法や自然療法をされていましたが、だんだんと腹水が増えてき、名古屋や東京に通院することが出来なくなったということで当院を受診してくださったのです。
一目診察させていただいて、起こっているのは「癌性腹膜炎」だと分かりました。
癌性腹膜炎というのは癌の細胞がお腹の中に広がって腹水が溜まっている状態です。溜まった腹水がお腹の臓器だけでなく、肺も押し上げるので呼吸困難を来してくるのです。

この患者様も、前の病院で食事療法で「あれはだめ。これもだめ」とダメダメずくしで身体のバランスが大きく崩れた状態になっていました。それどころか「腫瘍マーカーが上がってきているのは病気が治り始めている証拠だ」などといった、医療者から見ればありえないようなことまで吹き込まれたおられたのです。

当院で行っている酸化ストレス度測定などの活性酸素や身体の中の炎症の程度を見るマーカーでも著明な上昇を認めました。「炎症」が強いといくら食事カロリーをとっても有効に利用することが出来ず栄養失調の状態になってしまいます。炎症が強いとたとえどれだけ免疫療法を行っても活性化した免疫細胞が有効に働くことが出来ません。
当院では腹水のコントロールと同時に、炎症を鎮める治療と身体の栄養バランスを整える治療を開始しました。そして、カウンセリングで今までの「医療者側の勝手な思い込み」を外していきました。

それから2か月が経過しました。今でもお元気に週に2回の治療に通院してくださっています。まだまだ十分であるとは言えない状態ですが炎症は徐々に沈静化しつつあります。顔色も随分と良くなられ活気が見られるようになってきました。

今までは、私たちに対して「早くなんとか治して!」という暗黙のメッセージを送っておられたのが、徐々に「病気を治すことが出来るのは自分自身だ」ということがご理解いただけるようになってきました。

今まで私が勤めていたような普通の病院であれば、なすすべもなく
「あと一か月ですね」
と主治医自体が諦めモードに入っていたでしょう。
それが、今は、諦めるどころか患者様ご自身が「絶対に病気を治してみせる」と前向きに取り組み始めておられるのです。

病気が治るか治らないかは、私たち医療者が決めることが出来るものではありません。あくまで、患者さんご自身が決めることが出来るのです。しかし、私たちは出来るだけ患者様の気持ちを汲み取って「自己治癒力のスイッチをオンにする」お手伝いをさせていただきたいと思っています。