「功と罪」などとたいそうなタイトルをつけてしまいました。

前回は、いろいろと皮膚科を回ったけれどすっきりと良くならなかった「慢性湿疹」について、「重金属のキレーション療法」にて改善したということについて書きました。
このような書き方をすると「重金属のキレーション」がまるで「マジックのような治療法」のように思われるかもしれません。確かに、いままでは「難治性」という頭文字を付けられていたいろいろな病態がこの治療法で改善する場合があります。その例数は決して少ないものではありません。
アメリカの心臓病学会ではキレーション治療により心血管イベント(つまり狭心症や心筋梗塞)の予後が改善したという報告が出されています。当初は「まさかそんな治療効果はないであろう。こんなインチキな治療法が今後広まらないようにきっちりとその効果を否定する必要がある」という動機であったかどうかは知れませんが、オーソドックスな医療界にとってはこの治療法はあまり有効であると思われていなかったようです。しかし、それをきっちりとエビデンスで示そうとするところがアメリカの偉いところです。
そして、きっちりとしたエビデンスレベルに基づいた臨床試験が行われた結果、意に反して(?)有効であるということが示されたのです。
しかも、そこんじょそこらの学会ではありません。アメリカの心臓病学会といえば世界の学界の中でも一番権威がある学会であると言ってもいいでしょう。

「キレーション療法が心血管イベントの予後を改善する」

そういう意味では、キレーション治療は画期的であり治療の歴史を変える可能性さえあります。

しかし、一方では重金属検査が必要以上に行われ、必要のない治療が行われる危険性もあると思うのです。
現代社会はいろいろな意味で「環境汚染」が進んでおり、何の自覚症状がなくても検査をすると「重金属が蓄積している」という診断を受ける可能性があります。もちろんそれはそれで問題なのですが、だからといってすべての場合で治療をしないといけないかどうかは別ではないかと思うのです。
もちろん、本人の同意があれば自覚症状は何もなくても予防的に重金属のキレーションは行われることはありますが、あくまで治療を受ける本人の理解と同意がとても重要であると思います。

医療者側主導でやみくもに検査が行われ、十分な理解がないままに重金属キレーションの治療が行われるとすれば、それは本来のメリットを帳消しにしかねないデメリットを引き起こす可能性があるのです。

どのような治療法であっても、新しく広まり認められるようになるまでにはいろいろな紆余曲折があるものですが、重金属キレーションは有望な治療法であると思われるだけに、慎重に扱っていきたいと思います。