焙煎された豆の上品な匂いが漂っている店内で、先程注文したブラックコーヒーが来るのを待っていた

スマホを片手でいじりSNSを軽くチェックしながら、この後の予定を考える


「ねぇ。」

「んー?」


2人掛けの席で向かい側に座っている、高校からの友人である小林由依が、ふと声を掛けてきた

スマホから目線を移さないまま適当に反応するが、彼女も特に気にしていない様子で、気になっていることを私に聞き出そうとしてくる


「平手と最近どうなの?」

「どうって?」

「うまくいってるの?」

「まぁ…それなりに。」


彼女が聞いてきたのは、私が以前からお付き合いをしている平手友梨奈との関係性についてだった


「イチャイチャとかするの?」


唐突に聞いてきた内容に驚き、思わず持っていたスマホを落としてしまった

注文したコーヒーが来ていなくて良かったと思う
もし、来ていたら確実にこぼしていただろう…


「付き合ってるなら、そういうことも聞かれることあるでしょ。」


私の少し慌てた様子にも、目の前の彼女は動じることなく話を続ける


「まぁ、そうだけど…」

「それで?やることはそれなりにやってるんでしょ?」

「うん。それなりには。」

「好きとか、言葉にするの?」

「いや…お互いにそういうことは言葉にしない。」

「え?しないの?」


私の発言に、今度は彼女が目を丸くする程驚いていた


「そんなに驚くこと?」

「驚くことだよ!付き合ってるカップルなら多少なりとも言うでしょ。」

「そうかもね。でも、お互いにそういうことに照れがあって不自然になるし、言葉にすることで、自分の気持ちのニュアンスが違ってきてしまうことがあると嫌だし、それに…そういう言葉は大切にしていきたいから軽々しく使えない。」


彼女に淡々と説明すると、2人らしいねと言って頷く

ちょうど、私が注文していたコーヒーがきた
彼女が頼んでいたカフェラテと共に…


「あとは、言葉にしなくても友梨奈の感情は表情から伝わってくるから、言葉にする必要性がないと思うことが大きいかも。」


説明の補足をコーヒー片手に話す

私のその発言に彼女は、はぁ…と大きなため息を一つついた


「なに?どうしたの?」


ため息をついた理由を彼女に問いただす


「理佐と平手のその関係性が羨ましいよ…私もそういう人に巡り会いたい。」

「いまの関係性になるまで、結構しんどい時期があったんだよ…何度もぶつかったりすれ違ったり。もう話すことすらできないかもしれないと諦めそうになったときもあったんだから。」


私は引き攣ったような表情で彼女に話した





いまでも、ふと思うことがある…


よく彼女と付き合えるようになったな


と…





ここにくるまで、本当に色々なことがありすぎた

人間関係でこんなにも悩んだことは、後にも先にもないだろう…

いや、もうなくていい


手を離さず守り続けたいと心の底から思う相手は、きっと、これからもずっと変わらないのだから...