「んん...ふぁぁ......」


カーテンの隙間から零れる光で目を覚ます


なんだか良い匂いが部屋にまで届いていることに気がつく


気怠い体を起こしてリビングに向かうことにする


「あ、おはよ。」


「ん......」


ソファーに腰かけ、動画を見ていた彼女が微笑みかけてきた


「なにか飲む?」


「なにあるの?」


「ホットミルクとブラックコーヒー。」


「んー......」


「苦いの無理か。ホットミルク用意するね。」


「......。」


なんだか悔しい...

そして、なにかが引っかかる


「はい、どうぞ。」


「ありがと...」



彼女に作ってもらったホットミルクは格別に美味しい


ほっと一息ついて、ちらりと彼女の横顔を見る


動画に夢中なのか、私の視線には気づいていないようだ


なんとなく寂しくて彼女の手に触れる


ビクッと驚いたよう反応をしたが、すぐに受け入れてくれた


その直後、彼女の手が離れて、やはり嫌だったのかと思えば、私の手を握ってくれたのだ


それがなんとも嬉しくて、でも、表情には出したくなくて必死に堪える



「ねぇ...」


「...ん?」


彼女から声をかけられる


「なにかしたいことないの?」


「...一緒にデート......」


「デートかぁ...どこ行きたい?」


「......水族館...とか?」


「あぁ...いいね......」


「...うん。」


「...いまから行く?」


「え?」


「やりたいことなんでしょ?」


「でも...」


「行こ?ね?」


「う、うん。」


「じゃあ、準備しよう!」


「うん...」


彼女は優しい...

すごく優しい...


彼女が他の誰かと接しているところを見ることがしばしばあるが、ちょっといたずらっぽくてふざけていて......


こんなに優しさだけを見せてくれるのは私にだけだ


私に対してもいたずらっぽいときもあるが、私のことを第一に優先してくれる






電車に揺られて1時間ほど...


「はい、チケット。」


「ありがとう...」


「ほら、行こ?」


彼女は私の目の前に手を差し出した


だから、私は彼女の手を掴み握る


彼女は、ふふっと微笑み握り返してくれた



「あ、ペンギン...」


「あっちにホッキョクグマいるよ。」


「ほんとだ!」



水族館に来たのは初めてではないが、彼女とのデートとなると、どこか新鮮で楽しさが大きくなる


「ねぇねぇ...」


「ん?」


「おともだちいるよ?」


「え?...ん......」


「カワウソ。」


「ねぇ!」


「ふふふっ...」


「もう!」


「一緒に散歩してきたら?」


「ねぇ!カワウソじゃない!」


「あ、ごめん。」


「もう...」



他にもサメやエイ...いろんな魚を見て回った



「ふぅ...」


「どうだった?」


「ん?楽しかったよ。」


「良かった。」


「うん。」


「じゃあ、帰ろっか。」


「うん。」


「電車で寝てもいいよ。」


「え?」


「疲れたでしょ?」


「...眠くなったらね。」



やっぱりなにかが引っかかる


そのなにかが分からない



結局、睡魔には勝てずに電車の中で彼女の肩を借りて夢の世界に入り込んだ



「......て...おき......」


「んん...」


「起きて。」


「ん...」


「もうすぐ着くよ。」


「ありがとう。」



駅に着いて、そこから彼女の部屋まで歩く


その間も彼女に手をひかれる


「なんか久しぶりだったよね。」


「んー?」


「デート。」


「そうかも......」


「その日に予定を決めて、ふらっと出かけるのもいいね。」


「そうだね。」



徐々に日が長くなってきていて、夕陽もきれいに感じる


すごく穏やかな1日で癒されたと思う



部屋に着くと、彼女に「ゆっくりしてて」と言われた


その間に彼女は、お風呂の準備をしたり夕飯の支度をしたりしていた


なにか手伝おうとしても、「いいからいいから。」と止められる


退屈そうに彼女のことを見ていると、お風呂が沸いた合図が鳴った


「準備してあるから入っておいで?」


「うん。」


「それとも一緒に入る?」


「......っ!いいよ/////」


「ふふっ...いってらっしゃい!」


「もう...」


彼女に言われたとおりに、お風呂に入って今日のことを思い出す


いろいろ考えている間に、彼女に対して引っかかっていたことが頭の中に思い浮かぶ


モヤモヤしていたことがすっと消えたと同時に、ちょっとムッとした


お風呂から上がると、彼女は夕飯の準備を済ませていて、ソファーでゆっくりスマホをいじっていた


「ねぇ...」


「ん?」


「私のことどう思ってる?」


「え?」


「......。」


「彼女。」


「他には?」


「え?」


「......ばぶとか思ってる?」


「......んー......あー......少し?」


「......ほんとに少し?」


「じゃあ、結構?」


「...今日も思ってた?」


「...割と?」


「......。」


「拗ねないでよ。」


「ばぶ扱いしないで。」


「ごめん。でも、1番最初に言った彼女っていうのはほんと思ってるよ。」


「......ほんと?」


「ほんと。こんなにかわいい彼女は1人だけ。」


「.../////」


「あ、照れた。」


「うるさい。」


「コーヒー飲む?ブラックだけど。」


「...いじってる?」


「さぁ?」


「砂糖とかミルクないの?」


「ない。」


「嘘でしょ。」


「嘘じゃない。冗談。」


「知らない。」


「ごめん。オレンジジュースにする?」


「もっとバカにしてるじゃん。」


「してない。」


「ばぶ扱いすんな。」


「どうしよっかな?」


「いじわる。嫌い。」


「え...ごめん。」


「ごめん...嫌いじゃない。」


「ほんとに?」


「うん。」


「ほんとは?」


「......言わない。」


「私は友梨奈のこと好きだよ。」


「......私も理佐のこと好き。」


「ふふっ、よくできました。」


「んー......」


彼女に優しく頭を撫でられる


それが気持ち良くて、嬉しくて...

どうでもよくなった






でも...


やっぱり、ばぶ扱いはしないで!