初めて彼女を知ったのは中学の総体で、休憩中に別な学校の試合を見ていた時だった

動きが俊敏なのに滑らかな動きで、くせがなくプレイ1つ1つがキレイだった

シュートを決めても表情1つ変えることなくプレイを続けている姿が印象的だった

でも、それ以上はなにも思わなかった......





「...ねぇ!美穂、聞いてる?」

「え?な、なに?」

「はぁ...絶対、聞いてへんかったよな?」

「ごめん!」

「まぁ、いつものことやし...」

「それでなに?」

「課題提出!」

「あー...いつまで?誰に?」

「...はぁ...」

「え?」

「今日の放課後までに日直が回収。」

「うそ!?じゃ、私が集めなきゃいけないじゃん。」

「だから、さっきから言ってたやん。」

高校に入学して数ヶ月
徐々に環境にも慣れてきて、仲のいい友だちもできた

「菜緒...手伝って...」

「言うと思ったけど...ごめん。私、今日は用事あるねん。だから無理。」

「そんな...」

「ま、頑張れ。」

「はぁ...」

そういえば、今日ってゲーム形式の練習するから遅れてくるなと言われてた気がする

やばい...

とりあえず、顧問に伝えに行った方がいいよね...


「失礼します。1-Aの渡邉美穂です。澤部先生いますか?」

「ん?渡邉どうした?」

「あの...今日、日直でいろいろ仕事頼まれたので部活遅れます。」

「そうか。それなら仕方ないな。分かった。ちゃんとやること済ませてから来いよ!」

「はーい。」

「あ、それから...」

澤部先生がなにかを言いかけたから、職員室を出ようとした足を止め振り返る

「なんですか?」

「平手って渡邉のクラスだったよな?」

「え?あ、そうですけど...」

「部活行く前に俺のとこに来いって伝えてくれないか?」

「どうかしたんですか?」

「いや...ちょっとな...」

「はぁ...とりあえず伝えておきます。」

「すまんがよろしくな。」

疑問に思いながらも教室へ戻る

なんて声をかけようか悩む
同じバスケ部だけど、彼女は人気者でいつも周りには誰かがいるイメージ

そんな状況でどう声をかければいいのか私には分からない

いろいろ考えていてぼーっとしていたからちゃんと前を見ていなかった

そのため、教室に入った時に誰かにぶつかってしまった

「すみません。」

「ごめんなさい。」

「あ...」

「美穂か...ごめん。」

「いや...大丈夫。あのさ...」

「ん?」

「澤部先生が部活行く前に俺のとこに来いって言ってた。」

「私?」

「うん。」

「OK。ありがとう。」

「別に...」

「そういえば...」

そのまま自分の席に戻ろうとしたのに、彼女がなにかを言いたそうにしていたので進めなかった

「ん?」

「最近、美穂のプレイいいね。先輩に負けないくらいの勢いじゃん。」

「そう?」

「うん。私も頑張らないと。」

「いや...てちは別格じゃん。」

「......。」

「ん?」

彼女が黙り込んでしまったことに疑問を抱く

「美穂にはそう言われたくない...」

「え...」

「美穂とは対等で話せると思ってる...別格だって言われたら対等じゃない。」

「てち...あのね...」

(あ、平手さん!)

(平手さん、話したいことがあるんだけど。)

彼女に話そうとした時、彼女に好意を抱いている人たちが現れたために伝えたいことを伝えられなかった


「美穂。」

「ん?え?」

「またぼーっとしてる。」

「あ、ごめん。」

「課題集めておいたから。」

「え...」

「あとは担任に出してきなよ。」

「ありがとう!」

気がつけば放課後になっていた
菜緒が私の代わりに課題を集めてくれたようで本当に助かった

課題を持って職員室に向かう

1クラス分を1人で職員室に持っていくのは少し大変だった

ふと、後ろから気配を感じたかと思えば急に持っていたものが軽くなった

「え?」

「職員室まででいいんだよね?」

「そうだけど...」

「手伝う。」

「わ、悪いよ。」

「私も職員室に用事あるから。」

「うん...」

彼女にそう言われてしまったらなにも言えない

彼女ってこんなに優しくてかっこよかったっけ?
そう考えると...なんだか胸が締め付けられた

職員室に一緒に入ってそのまま担任のところへ向かう

(あ、ごめんね。ありがとう!)

「いえ...」

(平手も優しいとこあるんだね。)

「先生、うざい。」

(ストレートだね。あ、渡邉。ごめん、ありがとう!)

「大丈夫です。」

「あ、美穂。」

「ん?」

「教室で待っててくれない?」

「いいけど...」

「澤部の用事、すぐ終わらせるから。」

「うん。」

「おい。平手...職員室で堂々と呼び捨てとはいい度胸だな。」

「まだ名前で呼んでるだけいいと思ってください。」

「おい...」


職員室を出て彼女に言われた通り、教室で待つことにする

いままで待ってと言われたこともないからすごいドキドキする
なにか彼女を不快にさせてしまうことをしてしまったのだろうか

考えれば考えるほど、私の頭の中は彼女でいっぱいになった

「美穂、ごめん。」

「ううん。」

「澤部...めんどくさい。」

「あはは...なんで呼ばれてたの?」

「あー...この前の大会で足捻ったじゃん?」

「そうだね。」

「あれから、病院行ったか?とか診断書もらってこい!とか...心配し過ぎで...」

「なるほどね。」

「まぁ...いい顧問だとは思うけどさ。」

「うん。あのさ...」

「ん?」

「今日...対等で話したいって...ごめんね。そう思ってくれてるなんて思ってなくて...」

「あー、別に。周りは...よくわかんないけどキャーキャー騒いでさ...このクラスでまともに話してくれるの多分...美穂と菜緒くらいだと思うよ。」

「うん。菜緒はみんなに優しいし...そういうのに興味ないから。」

「うん。見てれば分かるよ。菜緒もそうだけど、美穂もだよね。」

「そうかな...」

「うん。誰に対しても優しく話してるし、困ってる人には誰よりも早く声掛けてるから。」

「......。」

「私、美穂と同じ部活で良かったよ。思ってることすっと話せそうだから。」

「え...っと...」

彼女にそんなことを言ってもらえるなんて思ってもみなくてどう反応していいか分からなかった

いつの間にか部室に着いてしまっていた

「じゃ、準備しよ?遅れてるわけだし。」

「そう...だね。」

それから準備をして部活の練習に参加した





それから、部活に行く時は彼女と一緒に行くようになった
帰りも途中までは一緒に歩くようになった

1ヶ月も経てばいくらなんでも自分の気持ちに気づいた





"てちのことが好き"


でも、私は彼女にこの気持ちを伝える勇気なんてなかった

もし、伝えてしまったらもう対等でいられない気がするから...


「美穂。」

「ん?」

「ちょっといい?」

「う、うん。」

「美穂のこと好きなんだけど付き合ってくれない?」

「え?」

「嫌なら断ってくれていいんだけど...」

「ま、待って!」

「ん?」

「いまなんて...」

「嫌なら断って...」

「じゃなくてその前!」

「好きだから付き合って。」

「そこ!」

「美穂のことが好きになってた。いつからとか分かんないけど...一緒にいて安心する。」

「......あの...私もてちと一緒にいると安心する...それに......っ......」

「同じ気持ちってことでいい?」

彼女にそう訊ねられて黙って頷いた

「じゃ、これからもよろしくね。」

「てち......」

「これからは名前で呼んで。美穂には名前で呼んで欲しい。」

「分かった...ゆり...な...」

「うん。いつか自然と呼べるようになって欲しいな。」

そう呟くと私の頭を優しく撫でた

「ねぇ...」

「ん?......っ...!!」

「好き。」


同じ学校で...
同じ学年で...
同じクラスで...
同じ部活...

中学は別だったのに、いまこうして彼女と付き合い始めたことは必然であったとしても奇跡だと思ってしまう





「友梨奈。おはよう...っ......」

「美穂、おはよ。」

「朝からそれはびっくりするから!」

「嫌い?」

「嫌いじゃない。」