「当店のシステムはご存知ですか?」
「……。いいえ」
「当店は、一号室から六号室までのどこかへ入室頂き、室内の女の子からサービスを受けていただきます。サービス内容や料金・時間は直談判となります。宜しいですか?」
「……。わかった」
「では、どの子にいたしますか?」
階段を上る客の足音が響いてきて、自分の部屋なのかどうか期待を寄せる。私は日の大半をこの六畳一間の湿った部屋で過ごしている。
扉がノックされ、心臓がそれまでと少し違うスピードで揺れ出した。
「いらっしゃいませ」
深い帽子がサングラスに被っている。私の思考が正しければ、この人間は危険な人物か有名な人物と予想できる。
「……。この部屋にカメラや録音機は付いているかね?」
男は慎重に言葉を選びながら、静かだが滑舌の良い口調で問いかけた。しかし男が危険なのか有名なのかは、依然この質問から判断することが難しい。
「当店はお客様のプライバシーを完全に保護いたします。ご安心ください」
警戒する男をベッドに座らせて、隣に座った。
「こんばんは。桜と申します」、写真顔入りの名刺を渡し、毎日練習してきた笑顔を見せる。
男はしばらく考えてサングラスを外した。
「あっ!」思わず声が漏れてしまった。
「……」
「も、申し訳御座いません。つい」
「……。構わないよ、どこでも同じ反応を受ける」
男は今を時めく旬の芸能人であった。確か、既婚者だった気がするが……。
「どのようなプレイをご希望ですか?」
「……。普通がいいんだ。普通でいいんだ」
男は遠くを見つめるように、澄んだ目をしている。
「かしこまりました。その他に希望は御座いますか?」
「……。細かいことは君に任せるよ」
「コスチュームのご希望もよろしいですか?」
「……。和服もあるのかい?」
「はい、御座います」
男は黒と紫の着物を選んだ。
「合計、五万円になります。宜しいですか?」
「……。ああ」
男は光り輝くクレジットカードを差し出した。しかし凝視すると財布との摩擦で擦れた傷が、細かく確認できた。頻繁に使っている証なのだろう。
「#123お願いします」
備え付けの内線電話で私は、この男とのプレイに必要なアイテムを、スタッフに告げた。数分後、スタッフがアイテムを持ってきて、直ぐに立ち去った。
「お風呂はどうしますか?」
「……。入ろうか」
「かしこまりました」
男は太い腕をバスタブに載せ、私の入浴を迎え入れた。
「何とお呼びしましょう……?」
「……。高橋、それが俺の本名だ」
「高橋さんの演技すごいですよね。私が一番好きな映画は”五臓六腑のその下で”です」
お湯が温まってくる。
「……。若いのにずいぶん前の作品を知ってるんだね、桜さんだったかな?」
「はい。桜は本名です。映画のヒロインが桜だったので印象的だったんです」
「……。なるほど、そうだったね。そうかそうか」
弄られた着物の下から白い太ももが露になった。高橋は太ももから下方に舌をグラインドさせて、足袋に鼻をつけた。数秒して再び太ももまで顔が戻ってくる。高橋はプログラムされたマッサージチェアのローラーのように精密に動いた。
「最近、妻と寝ていない」
初めて高橋から話しかけてきた。
「私が代わりになれますかどうか」
「代わり? 君は君だ。代わりになる必要はない」
高橋は着物を上半身まで捲り上げた。顔が着物で覆われ目隠しの役割を果たす格好となった。高橋の硬い髭がお腹を刺激して、思わず感じてしまう。抑えていた声が漏れる。長い時間愛撫された後、着物を剥ぎ取られた。もう恥部は決壊して洪水を引き起こしていた。
「ゴムを付けても構わないね?」
「お客様がそうされることを希望するならば構いません」
こけしのように太い物が入ってきた。喘ぎ声を出しながら色々な気持ちがこみ上げてきた。この男は今もセックスを演じる役者なのだろうか、それとも純粋にプライベートでセックスをしているのだろうか。妻と最近寝ていないのは、長年の結婚生活による時間の問題なのだろうか、もしかしたらこの巨根を受け入れるのが怖いのではないだろうか。
「ありがとう。とても満足できるものだった。これはそのお礼と、君を信用しているが、口止め料と思って頂きたい」
「ありがたく頂戴いたします。またのご指名お待ちしております」
封筒には札束が入っていた。私は何度も枚数を数えなおしたが、何度やっても枚数は百だった。
今日も私は一人の男の願望をかなえた。これでまた一歩近づいた。