[東京 5日 ロイター] 国会が5日、次期日銀審議委員候補の同意人事案を否決し、金融政策運営など重要事項を決定する日銀政策委員会は当面、2人の欠員を抱えたままでの議論を余儀なくされることとなった。
候補者がデフレ脱却に消極的とみられたことが否決の理由とされるが、背景には消費増税を巡る政治の思惑や、来年の日銀総裁人事への布石が垣間見える。デフレ脱却に向けた金融政策への期待の大きさが示された格好だが、中央銀行の人事に対する政治の過度な介入が金融政策議論を歪める可能性を指摘する声もある。
<消費増税へ日銀を景気刺激策の味方に、政治サイドの思惑>
日銀政策委員会メンバーのうち、2人の審議委員が4日、5年間の任期を終えた。政府はそのうち1人の後任としてBNPパリバ証券の経済調査本部長・チーフエコノミストの河野龍太郎氏を起用する人事案を国会に提示したが、5日の参院本会議では自民党など野党の反対多数で否決された。国会同意人事は衆参それぞれの同意が必要で、一方が否決すれば白紙になる。野田政権が社会保障と税の一体改革実現に向けて消費増税にまい進する中、早期のデフレ脱却には日銀による積極的な金融緩和が必要というのが、与野党問わず政治サイドの認識だ。しかし、河野氏の意見はそれとは逆の「追加緩和慎重派」とみなされた。自民党も本音では消費増税は不可避と考えており、来夏までには実施される解散・総選挙後をにらむと、今から金融政策をフル活用し、増税の環境を整えるのが得策と判断したとみられる。
別の要素を指摘する専門家もいる。来年4月の白川方明総裁の任期満了をにらみ、政治の意向に沿う政策を展開するための前哨戦として、強く介入する意図があったのではないかとの見方だ。
日銀政策委員人事が国会の同意を必要としている以上、政府が示した人事案には反対できる。しかし、金融政策に政治からの独立性が与えられた歴史的背景を考えれば、政治の意向を汲んだ人物しか日銀の政策委員に選ばれないとすれば、国民に不人気な金融引き締めなど長期的な視点に立った政策運営が後手に回り、経済の振幅を大きくする可能性がある。
野村総研・金融ITイノベーション研究部長の井上哲也氏は、97年の日銀法改正によって国会の同意を審議委員の承認条件としたのは、あくまで人物本位で国会が判断することを意図したものとし、人事で政治が日銀の政策に介入するためではないと説明。その上で「政府と日銀の政策連携は人事で調整すべきものではなく、政策や手段について透明性ある議論で行うべき」と述べている。
<金融政策議論に歪み、魅力なきポストに>
実際、日銀審議委員を務めた水野温氏・クレディスイス証券取締役副会長は、今回のようなケースによって政策委員のなり手がいなくなり、政策議論が歪む恐れがあるとみている。「日銀政策委員の人事を政争の具とする政治環境の中、民間企業出身の審議委員を選出することは困難になりかねない」と危ぐする。さらに「外部からみると、日本銀行の政策委員会は政争に巻き込まれて、建設的な議論ができる環境にないと写る。現在のような日本銀行たたきの議論が国会でなされていると、魅力的なポジションではない」と指摘する。
同氏が経験した日銀政策委員会の優れた点は「多様な見解をもったメンバーが議論することで、建設的な結論を導き出せるところにある」という。政争に巻き込まれることを嫌気して後任人事が決まらない状況が続けば、本来、正副総裁3人と審議委員6人の計9人で議論すべき金融政策運営が7人で議論されることになり、日銀執行部の比重が高まる。政治の思惑とは別に、かえって日銀執行部主導の政策展開になってしまう可能性もある。
みずほインベスターズ証券・チーフマーケットエコノミストの落合昂二氏は、2人の審議委員ポストが空席になることで「総裁、副総裁を含めた執行部の中で位置づけられた政策の方向性が、そのまま結論に反映されやすくなる。また、新しいメンバーが加わらないことで、議論展開が新味に欠けることも考えられる」と指摘している。
<日銀政策委員会の正常化が急務、大胆政策求める人選も>
日銀政策委員の空席は、過去には総裁ポストでも発生するなど異例とはいえない。しかし、世界の経済情勢や市場環境が刻々と変化する中で、日本の金融政策を担う日銀政策委員会の正常化は急務だ。藤村修官房長官は午後の会見で、日銀審議委員人事の否決を受け、早期の欠員解消を強調する一方、具体的な人選は「幅広い視野を持つという観点から、総合判断に基づいてお願いする」と述べるにとどめており、人選は難航しそうだ。
ある民主党幹部は「自民党や公明党が反対した理由を踏まえたうえで人選する」と指摘。民主党内では「今回の最重要法案は消費税だ。そのためには名目成長率3%、実質成長率2%を実現する。その差1%のインフレを実現してくれる人でないと同意人事は通らない」(政調幹部)との声も聞かれる。このため、デフレ脱却に向け、日銀に大胆な政策を求める人物が候補に挙がる可能性がある。
(ロイターニュース 中川泉、伊藤純夫、基太村真司、石黒里絵 編集 布施太郎)
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