旅人が目を覚ますと

あたたかい光に包まれていることを感じた


ここは…



太陽が

優しく 柔らかく 旅人を包み込む


あたたかい… なんてあたたかい


死を目前にした寒さから一編し

あたたかさが

じんわりと

わからないくらいじんわりと

体に伝わってくる

生きてる

生きているんだ




旅人は

時間をかけて そのあたたかさに慣れ

体は 元のあたたかさを取り戻した


でも旅人は

離れた…  いや 

自分が見捨てた北風が

今頃どうしているのか…


友達だったじゃないか、北風とは

自分が離れると言ったから

北風はあんなおそろしい怪物になってしまった

自分のせい…

自分のせいなんだ…


自分だけがここで

このあたたかい場所で…助かって

このままでいいのか

北風は

本当に命を絶ってしまったのか…


旅人は

太陽のもと…あたたかい幸せな場所にいても

北風のことを 忘れることはなかった

自分が…

自分が北風を…




旅人は自分を責めた 


責めて責めて


責め続けた


自分を責めることでしか

北風に謝るすべはなかったから




太陽はあたたかく

そこに集まる花たちは

毎日優しげに旅人に語りかける


太陽から

旅人がどういう経緯でここに来たのかを

花たちはきいているのかいないのか

旅人の気持ちをやわらかく受け止め

なにもきかず

ただ あたたかく

旅人の痛みにふれることはなかった



旅人は

ここでの生活が本当に好きだった

みんなに愛されているとも感じたし

自分もここにいることが

自然のことのように感じた


でも心の中には

北風のことがあった


私が見捨てた北風さんは

今はどうしているだろう

消滅してしまった…のだろうか


私が悪かった

私が依存させてしまった

私が距離感を間違えたのだ

ごめん 北風さん


旅人は

北風のことを考え出すと

あたたかい太陽のもとでも震えが止まらなかった

寒さのせいではないことはわかっている

自分が悪かったという

自分自身への嫌悪感みたいなものだろうか…

ひどい時は意識が遠のき 

気を失うこともあった




このままでは

本当の意味での幸せにはなれない

あたたかく幸せなここから離れて

北風がいるかもしれない場所に

行ってみよう


もうここには10年もいた…

太陽のいる優しい場所が

旅人の背中を

そっと後押ししてくれたように感じた