二番目に大切な事やら
[have a saunter]
あなたが何かに疲れた時
そっとレモンティーを差し出すよ
読みかけた本の表紙の挿絵みたいに
あなたが微笑む毎日を過ごす時
僕は愛想のよいボーイに扮装しながら
君のさりげない合図を待つね
[cave]
アーバンライフな毎日が織りなす風景は
まるで人々に喧噪の中で忙しく
駆り立てられるようにブルジョアを促す
安堵感に包まれる食事のあとの
リビングでのスポーツ観戦や映画は
すでに失った大切な(何かを)思い出さずに
過ごす最良の方法
直視できない(何か)から
皆と同様に私もいまだ、眼を背けている。
[dived]
察しているようだけど
没落する過程がこれほど気持ちのよいものなんて
誰も表向きには述べていないよね。
これは間違ってるの?
どうなの?
2.11の悲劇
(君に逢うにはまだ荷物が多すぎて)
「花」
by euReka
<死んだ町>にサンタクロースがやって来た。
クリスマスはとっくに過ぎていたし
町を流れる川の護岸には、真っ赤な彼岸花が揺れていた。
「こんにちは」とサンタクロースが挨拶をすると、
道を歩いてきた手押し車の老人は耳が遠いせいか
赤白の派手な衣装を着たサンタクロースを振り向きもせず
一定の速度を保つ回転寿司のように一本道を通り過ぎていくのだった。
サンタクロースは何時間も町を歩き回ったが
とにかく人の姿を見つけるのが大変だった。
広い畑でクワを振るう農夫に大声で叫んでも
干した布団を叩く奥さんに挨拶しても、まるで夢の続きを眺めているような
重く沈みそうな視線を返してくるだけだった。
「とてもきれいな紫陽花ですね。緑色の紫陽花なんて、初めて見ましたよ」
大きな袋を背負ったサンタクロースは背中の重みを確かめるように体を揺らすと
後ろ姿でサヨナラを言ってその場を去るしかなかった。
<死んだ町>の中心に近づくと
通りに面した植え込みに咲いた向日葵の大輪が
場違いなサンタクロースを見下ろすように正午の影を落としていた。
サンタクロースは
郵便局や農協の隣にある“ふれあいマート”でシャケ弁当を買った。
買い物カゴの中で茶虎の子猫がクークーと眠っていたが
決して起こさないようにシャケ弁とお茶をカゴに入れ、
何事もなかったようにレジへ向かった。
しかし店内にはBGMもなく
レジには岩山のようなゴリラが、淡い水色の制服を着て立っている。
あるいは着ぐるみかもしれないが、
だとしたら
僕の同業者だな、とサンタクロースは思った。
「メリークリスマス」とサンタクロースは言うと
バーコードの精算を済ませたゴリラにプレゼントを渡した。
「そう睨むなよ。僕だってつらいんだ」
サンタクロースは店を出ると、今日来た道を引き返すように歩き始めた。
よく町並みを眺めると、桜の蕾が膨らみ始めている。
花見にはまだ早いが、桜でも見ながら弁当でも食おうかとサンタクロースは思い公園へ入ると
長い首に包帯を巻いた女子学生が、ブランコを力無く揺らしながら
尼さんのように禿げ上がった頭を限りなく地面へ垂らしていた。首が融けているのだ。
サンタクロースは彼女の禿げ頭が地面に落ちる前に
なんとか受け止めるだけで腕が折れそうになった。
「メリークリスマス。君を助けに来たよ」
彼女は融け落ちた空気に向かって腕を伸ばした。
「じゃあ私と一緒に、死んでくれるの?」
きみとぼくのものがたり
高い天井から落ちるダウンライトの明かりを
君の髪を梳かしながら
崇拝するこんな行為が
唯一なし得る事は
神の施しを受けて深い海に浸る
沈没船のように時間を止めること
空白を埋める
雌しべのような甘い香りは
窓のない部屋に鍵を掛ける
そう知らない事ばかり
知っていた事も知らないふりをする。
今夜が終わる事も知らなかったよ
散歩なのか喧嘩なのか♡
(200km以内は座り心地を確かめる旅)
by euReka
新米の猫を、夢の中で見たのはその夜が初めてだった。
僕は目が覚めると布団から這い出し、
床に静止した冬のミカンに色鉛筆を突き刺した。色は青だった。
しかし色は何色でもよかったし、ミカンじゃなくてリンゴでもよかった。
しかし僕は青い色鉛筆しか持っていないし、リンゴは昨日腹を空かせた子どもにあげた。
ぼろぼろの服を着た憐れな子どもだった。
「ねえ、あたし知ってるよ」
僕は、お城の外周を何も考えずに後ろ歩きしている最中だったし、
他人に何かを知られるような人間ではなかったので、
たぶんその子どもは別の誰かと勘違いをしているのだろうなと、
僕は思っていた。
「ねえ、あたし知ってるんだけど」

「いい加減、僕にまとわりつくのはよせ。
僕はお城の秘密なんて知らないし、君の秘密が僕の秘密であるわけがない。
なぜなら僕は秘密など持っていないし、僕は青鉛筆を一本持っているだけの人間なのさ」
子どもは薄汚れた小さな手で僕の手をギュっと握った。
しもやけで赤く腫れた冷たい手だった。
「あのお城は、もう七百年も前に作られた映画のセットなんでしょ。
それくらい誰でも知っているわ」
君は子どものくせに、映画ってものが何なのか知っているのか?
「つまり映画は映画、リンゴはリンゴなんでしょ」
君は大人を馬鹿にしているのか?
「今日は良い天気ですねえ」と僕たちの会話を横切りながら、
カビのはえた煮干しみたいな老人が話しかける。
「今日みたいな日に死ねたらいいなって、いつも考えているのですがね
——じつはその『今日』みたいな日など、いったいいつやって来るのやら
——私にはまるで検討がつかないのですよ」
だからいつの間にか『今日』が、『明日』になっていたりするんですよね。
「ようするにあんたたち大人のやってることってさ、
この世界をただ丸投げしてるだけでしょ」
僕は頭に被っていたシルクハットを脱ぐと、
その中から『リンゴはリンゴ』を取りだした。

「まあいいわ。あたしは誰よりもお腹が空いてるのだから、
そのリンゴはあたしのものよ」
生意気な子どもは僕の手からリンゴを奪い取ると、
サヨナラも言わず去って行った。
「お前はまず、青鉛筆の意味をよく考えるべきだな」
と無責任なカラスが僕に言った。
これでは堂々巡りになってしまう。
僕がやるべきことはまず、新米の猫を土に埋め、お墓を作ることだった。
名前はまだなかった。
(ミカン、リンゴ、青鉛筆)
猫は、昨日死んだのである。







