マルセル・シュオッブの『黄金仮面の王』(河出文庫)を読みました。同じようなタイトルの本は他にもありますが、本書は新訳だし、他書に収録されていない作品も収録しているので同名の本を読んだことがある人でも読む価値はあります。シュオッブは19世紀のフランスの作家です。
230ページほどの本に22編を収録しています。すなわち各篇はひじょうに短く、ショート・ショートと呼べるほどのものもあります。文庫本の紹介文によれば、古今東西の神話、伝説、歴史などを知り尽くした著者が、その知識をもとに想像力を働かせ、硬質な幻想文学に仕上げています。江戸川乱歩、澁澤龍彦、ボルヘスら後続の幻想文学作家に強い影響を与えたそうです。
短いゆえ、ストーリーというほどのストーリーはなく、幻想的なヴィジョンというか、情景というか、を提示する作品です。
冒頭の「地上の大火」は破局ものSFみたいな感じです。「黄金仮面の王」などは即座に乱歩を想起します。また、オスカー・ワイルドの散文詩作品に近い味わいがあります。「卵物語」は(訳文のせいかもしれませんが)おとぎ話風。
「エンペドクレス」は古代ギリシアの哲学者で、しばしば文学のネタにされます。「バーク、ヘア両氏」は実在の殺人鬼の物語で、スティーヴンソンの「死体泥棒」の元ネタとなった事件です。ワイルドの「ペン、鉛筆、毒薬」やトマス・ド・クインシーの「芸術の一形態としての作品」あたりと同じような主張がうかがえる作品です。と思っていたら、「阿片の扉」というド・クインシーをネタにした作品もありました。
「ペスト」はポウの「赤い死の仮面」の影響でしょう。「パオロ・ウッチェルロ」は私も好きなイタリアの画家です。遠近法に取りつかれた人で、本作のウッチェロもそのような人物として登場します。彼の硬質で、ある種シュールリアリスティックな絵は、澁澤龍彦も好きだったと思いますが、シュオッブ好みの画家なのでしょう。(解説によれば、澁澤はウッチェロを題材とした短編を書いているそうで、私も読んだことがあるはずなのですが、忘れていました。)「リリス」は現在私が関心を寄せているダンテ・ゲイブリエル・ロセッティからインスパイアされた作品で、シュオッブ流のロセッティ解釈が示されているように思います。
