横溝正史の『死仮面』はかつて角川文庫版で読んだことがあります。これは一部原稿が欠落していたものを、評論家の中島河太郎氏が補ったものでした。最近、横溝自身の原稿を補った完全版が春陽堂文庫から出たので買って読んでみました。

 

 冒頭、谷崎潤一郎の『春琴抄』みたいな、美しい女と醜い男の異様な関係が描かれます。女は死に、男は彼女のデスマスクをつくる。その後、東京の女子校を舞台として物語は進みます。学園内に怪しげな男が現れる。そして、学園の経営者が殺害される。この事件に金田一耕助が挑む、という物語です。

 

 デスマスク、怪しい男の出没など、横溝正史らしい話です。複雑な人間関係が絡んでくるところも横溝らしいところです。長さも中編ほどで、短時間で読むことができます。

 

 角川文庫で読んだ時も違和感はありませんでしたが、角川と春陽のどこが違っているのか、意識せずに読んだので、具体的にどう違っているのかはわかりません。付録として横溝直筆の原稿写真が掲載されていますが、推敲を重ねているのがわかります。

 

 「黄金の花びら」というジュヴナイルものが併録されています。文庫に入るのは初めてだそうですが、近年出版された横溝のジュヴナイルもののコレクションには収録されています。

 

 角川文庫のものとそれほど違っているわけではないので、マニア向けだと思います。