マイケル・E・マカロー著『親切の人類史 ヒトはいかにして利他の心を獲得したか』を読みました。

 

 主にヨーロッパを素材にし、親切心、思いやり、利他の心をいかにして人間が獲得していったかを考察した本です。

 

 ダーウィンから始まります。進化論で人間と動物の垣根を崩したダーウィンは、人間と動物を隔てるものは共感(sympathy)の能力だとしました。つまり進化論とともに利他心の研究は始まったわけですが、それ以前のイギリスの哲学者-デイヴィッド・ヒュームやアダム・スミスら―の哲学にも話は及びます。このあたりは以前から関心があったので興味深く読むことができました。

 

 中盤以降は社会保障の話になり、社会学寄りの話になります。貧困は自己責任なのか?といった話です。この種の話題は現代の日本でも議論になることが多いので、現在われわれが直面している問題―例えば生活保護制度についてなど―を考える際、参考になりそうです。貧困問題が深刻だったヴィクトリア時代のイギリスの話などもでてきます。

 

 さらに1755年、ポルトガルのリスボンで起きたマグニチュード8.5の地震(リスボン地震)を人道主義のビッグバンと呼び、この災害がいかにヨーロッパの人々の考え方を変えたかを論じています。それ以前は自然災害は行いが悪い人間に降りかかるもの、すなわち自業自得だと考えられていたそうですが、この考えを消し去ったのがリスボン地震でした。そこから例えば赤十字の成立、看護技術の確立などが生まれてきます。後半のこの部分が最も興味深く読めました。