高木彬光著『失踪』を読みました。古いミステリですが、高木さんは好きな作家なので、お盆休みを利用して読んでみました。

 

 高木さんは野球にまったく関心がなかったそうですが、プロ野球に取材した作品です。ペナントレースの終盤、優勝を争うライバル同士のチームの試合中、人気投手が突然降板。その後失踪する。その後、この失踪事件と関連があるらしい連続殺人事件が発生する。この謎に挑むのが、高木さんのシリーズ・キャラクターの一人、百谷泉一郎。

 

 かつて西村京太郎さんの『消えたエース』という作品を読んだことがありますが、それに似た話です。現在ではプロ野球以外にもJリーグなど他の人気スポーツもありますが、当時(昭和37年の発表)は娯楽スポーツと言えばプロ野球だったのでしょう。プロ野球で実際に起きた「黒い霧」事件と呼ばれる八百長事件は昭和44年なので、ぞれ以前の作品になりますが、この事件を先取りしたような作品です。つまり、ライヴァル同士の選手の引き抜きに関する陰謀、野球賭博、それに伴う八百長などです。

 

 当高木さんが神津恭介シリーズのようなゴチゴチの本格ミステリーから、松本清張的社会派ミステリに移行してきた時代の作品です。本作もトリックなどの魅力で引っ張る作品ではなく、当時の社会世相、とりわけプロ野球界の問題を取り入れたところが読みどころの作品です。したがって、時代が変わると古びるというデメリットがあり、本書もその欠点を免れていないと思いますが、逆に言えば、当時を知らない人間には新鮮に感じられるかもしれません。