最近、カナダのSF作家ロバート・J・ソウヤーの作品を読んでいますが、彼のデビュー作『ゴールデン・フリース』を読みました。『ターミナル・エクスペリメント』がそうであるように、SFとミステリのハイブリッド作です。

 

 ゴールデン・フリーズ(黄金の羊毛)とはギリシア神話に取材したタイトルで、アルゴ船で黄金の羊毛を探しに旅に出た英雄イアソンの物語が下敷きになっています。本作では宇宙船の名前がアルゴ、そこに搭載されたAIがイアソンという名前になっています。

冒頭、宇宙船内での殺人事件が描かれます。つまり、読者には最初から犯人がわかっている倒叙ミステリになっています。一人称はAIのイアソンで、犯人はイアソン。AIを扱った小説は多いと思いますが、AIの語りという形式をとった作品は珍しいのではないでしょうか?その後、人間とAIとのやりとりが描かれ、殺人か、自殺か(イアソンは自殺だと主張)と議論が交わされます。

 

 宇宙船内でのコンピュータの反乱となれば、『2001年宇宙の旅』における、ディスカバリー号のコンピュータHALの反乱を想起せずにはおれず、当然その影響はあるだろうと思います。あるいは「冷たい方程式」という有名なSF短編にも近いテーマをもっていると言えるかもしれません。加えて、ソウヤーらしいユーモアが感じられるところもあります。AIの合理性と人間らしい考え方の相違、という現代的なテーマの作品です。