江戸川乱歩の初期長編『一寸法師』を読みました。乱歩の小説は、小学生の頃、ポプラ社の「少年探偵団シリーズ」全部を読んで以来、何度も読んでいるのに、時々また読みたくなります。

 

 『一寸法師』はあまり出来のよくない乱歩の長編作としてはまとまっている方だと思います。乱歩自身は、彼においては常のことながら、本書を出来の悪い作品と考えていたようですが、私は楽しませてもらいました。いかにも乱歩らしい通俗性もありつつ、本格ミステリとしての出来も悪くないと思います。

 

 若い女性が失踪し、その体の一部から各地で発見される。どうやら体の小さい「一寸法師」が関わっているらしい。この謎に明智小五郎が挑む、というストーリーです。一寸法師が切断された体の一部をもって夜の街を徘徊する、といういかにも乱歩的イメージを楽しむことができます。

 

 本書の明智はまだ高等遊民なイメージを維持していて、後に怪人二十面相と戦う都会的な明智とはだいぶ異なる明智です。どちらかと言えば金田一耕助に近い明智ですが、その明智が指紋とか化粧品などを手掛かりに事件の真相に迫ります。犯人の意外性もあります。

 

 バラバラ事件とはいえ、殺人事件は一件しか起きず、乱歩的露悪趣味にも関わらず、地味な印象もあります。逆に言えば、乱歩が珍しく長編本格ミステリに挑戦しているという感じがします。トリックも無理がなく、端正なつくりです。

 

 体に障害のある人の扱い、描写などに、今日ではアウトと思われるものもありますが、楽しめる出来だと思います。