J・R・R・トールキンの『サー・ガウェインと緑の騎士』を読みました。

 

 これは中世イギリスで書かれた文学作品をトールキンが現代語訳したものです。英文科出身の私は、同じ作者の「真珠」という詩を原文で読んだことがあります。原文は中英語(middle English)で書かれており、現代英語が読める人でも読めないもので、私は現代語訳を参考にしながら、授業に臨んでいました。本書にも「真珠」は収録されていますが、物語詩です。真珠(死んだ自分の娘のこと)を失った男が夢の中で真珠で着飾った娘に会う、という内容で、中世に流行した「ドリーム・ビジョン」の作品です。

 

 「サー・ガウェイン」にしても「真珠」にしても作者の名前はわからないのですが、同一人物による作品であろうと考えられ、一般に「ガウェイン詩人」と呼ばれています。

 

 「サー・ガウェイン」はアーサー王伝説に取材した物語で、その円卓の騎士の一人、ガウェインが主人公です。アーサー王の晩餐に全身緑色の騎士が現れ、ガウェインに首をはねられる。しかし、騎士は死なず、自分の首をもちあげ、一年後に今度はガウェインの首をはねる、と告げて去る。ガウェインは緑の騎士との約束を果たすため、旅に出る、というあらすじです。

 

 「真珠」でもそうですが、キリスト教的倫理観に貫かれた作品で、当時のキリスト教信仰の強さがうかがえます。緑の騎士が訪れるのがクリスマスである点など、様々な意味が込められていそうです。

 

 イギリスはファンタジー大国ですが、その源流とも呼べる作品で、『指輪物語』を書いたトールキンが惹かれるのもうなづけます。