桜庭一樹著『赤朽葉の伝説』を読みました。この著者の本を読むのはこれが初めてですが、直木賞受賞者で、本書は日本推理作家協会賞を受賞しています。

 

 山陰地方の名家、赤朽葉の三代の女性―時代にして戦後間もない頃から現在まで―を中心とした家族の、もっと言えば女性の物語です。1部のヒロインが万葉、2部のヒロインはその娘・毛鞠、3部のヒロインがその娘・瞳子で、瞳子が自分の祖母、母、そして自分自身について語る、という形式をとっています。

 

 1部の万葉は赤朽葉家に拾われた娘で、千里眼、予知能力の持ち主。サンカやたたら(製鉄業)といった民俗学的知識も盛り込まれ、この1部が最も面白かったです。

 

 千里眼とか言われると幻想文学のようですが、この一家の物語に、現実の昭和史―復員兵とか高度経済成長期とかオイルショックとか、昭和から平成時代への移行、といった社会の動きが背景として描かれます。その中、3代の女性がどのように生き、子を産んでいったかが描かれています。

 

 この種の小説は個人的には南アメリカ文学によくみられるマジック・リアリズムの小説に近いのではと感じます。

 

 また、この著者の最大の特徴と言えるのはその文体だと思います。優雅な文体ですが読みやすく、何とも形容しがたいのですが、とにかく素晴らしい文章だと思います。

 

 一方、ミステリとして評価され、ミステリの賞が贈られていることにはやや違和感があります。3部になって推理小説的側面もでてきます(殺人の話になる)が、基本的にミステリとは言えない作品だと思います。作者自身もミステリのつもりはないのではないでしょうか?

 

 とはいえ、そのようなジャンル分けの是非などどうでもいいくらい小説として優れていると思います。