サイモン・シャーマ著『風景と記憶』(Landscape and Memory)を読みました。2段組みで650ページを超える大著です。本の性格上、多数の図版(カラー図版を含む)を収録しています。さすがに読み通すのに時間がかかりました。

 

 帯に従来の歴史学の手法を捨て去るとあり、著者は歴史学者のようです。個人的には歴史の要素を含みつつも、景観論、美術論、神話論などを含んだ、極めて学際的な本という印象をもちました。

 

 リトアニアの森の話から始まります。そこからドイツの森の話になり、第一部のテーマは「森」です。第二部のテーマは「水」で、ナイル川、ライン川などの話になります。第三部は「岩山」になり、アメリカのラシュモア山(アメリカの大統領の顔の像で有名ですが、ここに女性像を作る計画があったというのは本書で初めて知りました)や、アルプスの話になります。ウィンバーの『アルプス登攀記』も言及されていますが、かつて魔が棲むとされた山にヨーロッパ人たちがいかに登るようになったかについては、以前から関心がありました。四部では森、水、岩山すべてを合わせて、古代ギリシアの理想郷「アルカディア」などの話になります。

 

 「風景とは、木と水と岩に投影された人間の想像力そのものなのだ。それは自然である前に文化であり、人間の心が創り上げたものにほかならない。」とあります。確かに、人間は感覚器官を通して知覚したものを脳内で認識するわけで、外界はすべて文化といってもいいくらいです。風景も自然ではなく文化だと思います。人間の心が変化すれば風景も変化する。心の持ちようで風景も変わる、というわけです。それらを例えばジョン・コンスタブルや、J・M・ターナー、二コラ・プーサンらの風景画を引用しながら論じています。

 

 とにかく厚い本で読み通すには根気がいると思います。