馳星周さんの『四神の旗』を読みました。著者はハード・ボイルド・ミステリー、ノワールの書き手として有名ですが、歴史小説もてがけています。本書は奈良時代を舞台としています。

 

 今年のNHK大河ドラマ『光る君へ』は紫式部を主人公とした平安時代の物語で、藤原氏が活躍します。その藤原氏の繫栄の楚と言えるのが藤原不比等でその四人の息子-武智麻呂、房前、宇合、麻呂-たちの物語です。

 

 不比等の死から始まります。藤原四兄弟のライバルは長屋王ですが、四人も一枚岩ではなく、とりわけ次男の房前は長屋王に協力的。(道長は房前に始まる藤原北家の人です。)遣唐使として唐に渡った経験のある宇合も独自の考え方をもっている。彼らと首皇子(後の聖武天皇)、四兄弟の妹で首の妻(後の光明皇后)らの関係が描かれます。

 

 大河ドラマでもそうですが、貴族たちの権力争いが話の中心で、長屋王との対立よりも兄弟同士の相克の方が印象に残ります。とはいえ、最後は長屋王を追い込んでの排除、すなわちいわゆる「長屋王の乱」です。因果応報とでもいうべきか、その後まもなく四兄弟ははやり病でみな死去。長屋王の怨念の仕業とも考えられたそうですが、長屋王に協力的であった房前も死んでいます。

 

 文章は馳さんらしく、短いセンテンスのきびきびとした文章で、余計な装飾がありません。司馬遼太郎さんなどの歴史小説プロパーの作家の文体とはかなり異なる印象です。会話中心であるため、比較的時間をかけずに読むことが出来ました。