戸板康二さんの『グリーン車の子供』(講談社文庫)を読みました。戸板さんは歌舞伎役者の中村雅楽を探偵役としたミステリ・シリーズで知られています。本作も彼を主人公とした短編集です。ワトソン役は新聞記者の竹野で、中村雅楽とのコンビで話が進みます。

 

 特徴としては、歌舞伎に関する蘊蓄がでてくるところです。これは好みが分かれるかもしれません。ある程度の歌舞伎に関する知識、あるいは関心がないと、つまらないと感じるかもしれません。というのも、ミステリと言っても派手なことは起きず、そもそも犯罪が起きないものが多くなっています。すなわち、いわゆる「日常の謎」に近い味わいの作品集です。また、歌舞伎の世界を描いているためか、あるいは文体のためか、全体的に典雅な感じがするというか、文学という感じがします。

 

 冒頭の「滝に誘う女」は清水寺の近くで死んだ女の話で、もっともミステリらしい話です。自殺か他殺か?という謎です。

 

 表題作「グリーン車の子供」は日本推理作家協会賞の短編部門賞を受賞した著者の代表作です。新幹線のグリーン車で雅楽の隣に座った女の子にまつわる話です。犯罪などは起きないものの、意外な展開をみせます。

 

 「隣家の消息」は隣人が失踪する話ですが、江戸川乱歩的なトリックがあります。「美少年の死」は、いかにも歌舞伎界を舞台としたミステリといった感じの話です。横溝正史的とも言えます。