綾辻行人さんの『深泥丘奇談』を読みました。本格ミステリの旗手とされる著者の怪談連作集です。どうやらシリーズ第2弾のようですが、私は第1弾は読んでいません。9編の短編を収録していますが、すべて関連しているようです。

 

 著者のふるさと、京都を舞台としています。それも深泥丘病院という病院を中心とし、そこを訪れる患者や医者たちが登場します。

 

 怪談と言っても派手な事は起きず、体調不良に悩む主人公の妄想ともとれる話です。あるいは京都という古い歴史をもつ街を舞台としているだけに、地霊(ゲニウス・ロキ)の物語という解釈もできると思います。例えば、第2話「丘の向こう」では鉄道の鉄橋に人が首を吊ってぶら下がっているのが見える、という妄想?の話です。五山の送り火など、京都ならではの風物も取り込んでいるため、より京都の、古都の物語という印象を受けます。

 

 「悪霊つき」は最も長く、若干印象が異なる作品ですが、これだけ掲載雑誌が異なるようです。憑き物に悩まされていた女性の死体が発見される話で、著者の本格ミステリ作家としての側面が最もよくでています。「サムザムシ」は歯医者による治療にまつわる話で、かなり奇想が効いた作品です。

 

 「開けるな」はクトゥルー神話的、「深泥丘魔術団」は江戸川乱歩的で、著者のルーツが透けてみるのも興味深いところです。

 全体的に怖い話というよりも、少し不思議な話という感じです。