Raymond Lister著『Victorian Narrative Paintings』という本を読みました。

 

 物語を語る絵画は昔からあったと思いますが、イギリスにおいてそれが本格化したのはヴィクトリア時代、19世紀になってからのようです。その中心になったのはラファエル前派の画家たちです。彼らはしばしば詩人だったり、小説を書いたりしているので、絵画に物語を込めることは自然だったのでしょう。絵画を鑑賞する際、単に美しいと思って楽しむのも一つの鑑賞方法ですが、そこに秘められた物語を知ると一層楽しむことが出来ます。大ヒットした『怖い絵』シリーズなどはまさに「絵を読む」ことの楽しさを教えてくれるものです。

 

 本書はヴィクトリア時代の物語絵を60枚収録し、それに解説を加えています。惜しむらくはすべて白黒という点ですが、日本ではマイナーな画家も取り上げている点がうれしいところです。

 

 ラファエル前派の代表的詩人・画家ダンテ・G・ロセッティの作品としてはFoundという未完の作品が取り上げられています。ジョン・エヴァレット・ミレーでは『盲目の少女』『秋の葉』というメジャーな作品が取り上げられます。

 

 フォード・マドックス・ブラウンでは『イギリスの見納め』が論じられますが、この絵などは背景を知らなければ何がいいのかわかりづらい作品で、当時のイギリスの社会背景を知らないと理解できない絵です。

 

 他に、ジョン・シンガー・サージェント『カーネーション、リリー、リリー、ローズ』、ウィリアム・ホルマン・ハント『雇われ羊飼い』、エドウィン・ランドシーア『老羊飼いの喪主』などが取り上げられています。

 

 一方、ラファエル前派の絵に多い神話画などは扱われていません。あくまでヴィクトリア時代の世相を反映した絵を論じています。