西村望著『鬼畜 阿弥陀仏よや、おいおい』を読みました。

 

 著者についてよく知りませんが、実際に起きた事件をもとにした小説を多く執筆しているようです。有名なところでは、津山事件を描いた『丑三つの村』があり、これは映画化されています。(映画は観たが、本は未読。)『鬼畜』もやはり実際に起きた事件をもとにしています。

 

 昭和38年に四国で起きた連続殺人事件の犯人を主人公にした実録ものです。実際の事件について知らないので判断できませんが、実話を忠実に再現していると思われます。主人公・卯吉は兵役を嫌って山に逃れる。当時は兵役逃れなどすれば非国民扱いされた時代で、社会に対する恨みから放火。それをうけて父親は自殺。その後、四国の山中を逃げ回る卯吉は食料や金を求めて民家に押し入っては、斧などを使って住民を次々と殺害。女性となれば死姦もしたようです。

 

 ひどい事件を扱っていますが、著者の筆は淡々としています。殺害のシーンなどはもちろん著者の想像で描いているわけですが、罪の意識も感じず、実に淡々と人を殺しているような印象を受けます。

 

 随分昔の事件ですが、それだけに今となっては資料も少なく、四国出身の著者らしい記述も多く、(あくまでフィクションだとは思いますが)資料的価値もあると思います。また、文章がドキュメンタリー・タッチで、余計な装飾などを廃した無駄のない文章で、文章の手練れの作品という印象を受けました。

 

 犯人は殺人を犯す前に2度刑務所入りになり、2度保釈されています。本人は実は気の弱い男だったようで、犯罪を犯した者の出獄後の生活をどうフォローするかが問題で、著者もあとがきでそのことに言及しています。