恒川光太郎著『真夜中のたずねびと』を読みました。

 

 恒川さんの本はホラー小説大賞を受賞した『夜市』の頃から読んでいます。一応ホラー小説作家と言えると思いますが、ファンタジーに近い作風で、どぎついホラーを好む人には物足りないかもしれません。個人的には、不思議な雰囲気をもった作品を書く人だという認識があります。本作もそのような作品です。

 

 5編からなる短編集です。冒頭の「ずっと昔、あなたと二人で」は霊媒師の女と、孤児となった少女の話です。少女が霊媒の女の子供の遺体を取ってくるように命じられる話です。不気味さもありますが、どこか優しさもある話で、超常的なことは起きているような、いないような…主人公の妄想といえばそれまでなのですが、そういった意味ではツヴェタン・トドロフの言う「幻想文学」の定義に当てはまると思います。つまり、超常的なことが起きているのかいないのかわからない、その狭間にある文学が幻想文学という定義です。

 

 次の「母の肖像」も同様で、親に虐待されたりして家族がいない若者と母の関係を描いています。こちらも死体が話をするという不気味な現象を扱ってはいますが、現実と妄想の中間をいく物語です。

 

 「やがて夕暮れが夜に」は弟が殺人を犯してしまった姉の話もやはり不思議な幻想的な話で、社会からドロップアウトしてしまった人間が出くわす怪異というスタイルの話が多いようです。のこりの「さまよえる絵描きが、森へ」と「真夜中の秘密」も同様です。

 

 5編はそれぞれ独立した話として読めますが、同じ人物が登場したりして、微妙にリンクしています。連作短編集です。